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ドワーフ街のバーテンさん。  作者: ほうとう。
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「めいちゃーん!ぷりんつくって!」

超有名人が店に入るなり絶叫した。

他に客がいなくてよかった、と。店主としてはあるまじきことを考える。

「うぉいSSランクぅ」

静かでくつろぎの場であるうちの店になにしでかしてやがるこの兄ちゃんは、とにらむがキラキラとした笑顔でいい年した同郷はカウンターを乗り越えてこようとする。

手元には布袋があり、ずいとそれが差し出された。麻の通気性の良いそれから鼻に香る甘い香り。

「ちゃんとバニラビーンズ手に入れてきたから!あとシナモン」

「でかした」

ほとんどとっさに声を上げたことを許してほしい。

正式な契約はしていないが、Sランクオーバー冒険者系転移者はこうやって手には入った食材を前に自分の欲望を満たさんと突撃してくる。

「いやでもプリンぐらいつくれるでしょ?」

「材料はわかるよ。牛乳と卵と砂糖、風味にバニラビーンズ。でも調理できるかっていったら別問題」

「開き直りやがってこのぅ」

すっかりと甘えてくる三十代。とはいえ確かに食べることと作ることの興味はイコールではない。

仕方がないとため息をついて冷蔵庫から牛乳を取り出す。

卵、もあるな。

「いいですか。ここはね、バーなんですよ」

牛乳を鍋にいれ、砂糖と受け取ったばかりのバニラビーンズを中身とさやを割裂いたモノを放り込む。

甘い香りが辺りに満ちる。

「確かに食事を出さないわけでもありませんが軽食が主です。胃を荒らさないためですね」

ポイントとして卵を割りほぐすのに泡を立ててはいけないので箸を使う。プリンの売りはそのなめらかさだ。ただ今回は手間が面倒なので全卵を使う。

「あ。固さどうします?」

「卵多いしっかりした固いのがいい」

「エバミルクとかあればいいんだけどなぁ」

まぁ牛乳の比率を減らすことで対応することにしよう。

「少なくともスイーツは専門外なんです」

牛乳を沸騰直前まであたため、さやを取り出してある程度さまして卵液と混ぜて……しまった型がないな。ココットでいいか。

「うんうん、メイちゃんのお酒おいしいよね」

話をきいているのかいないのか、アザミさんはにこにこしながらこちらの手元をみている。

プリン、というと日本の一般的にカスタードプリンを思い出す人間が多いだろう。

「普段プリンにはウィスキーを香り付けにつかってたんですが」

「それも気になる!」

だがいわゆるプディングは型に入れた蒸し料理全般をさすらしい。イギリス、プディングで検索すると甘くないものもよく出てくる。っていうか蒸してないじゃん!てのもあるので定義が揺らぐのがポイントだ。代表例はサマープディングだろう。あれようはびたびたジャムパンよね?1ヶ月かけて蒸したり干したりしてつくるようなものもあるそうだ。割とわけがわからない。

プリン液を濾して泡を取り除きながらココットに入れていく。

これ、乱暴に説明すればコンスターチを入れて練ればカスタードだ。あぁシュークリームもいいな、食べたい。

温められたプリン液からふんわりと香るバニラのかおり。

実はバニラ、かつては媚薬とまで言われたりもする。

いやチョコとかとりあえずエキゾチックなフレイバーのそれらは総じて媚薬と言われるものだ。どんだけ需要があったんだよ媚薬。

ちなみに媚薬なお酒と言えばやっぱり蜂蜜酒だろう。バイキングの新婚さん、こればっか飲んでたらしいよ。だから「ハニームーン」というのだそうだ。酒に頼らなければならないとはなさけない。いや酒飲んだら勃起たないってきいたけど。どっちなんだ?しらんけど。媚薬=興奮剤っていう認識だからなぁ。精力剤っていうならポートワインも入るだろう。

流石三大欲である。

ただ実際動物の発情を促すのはフェロモン、つまり平たく言えばにおいだ。

あ、戻ってきた。香りはすごいな。

あとはこれを蒸してできあがり。ライターとかで表面炙ると泡をきれいにとれると聞いたけど面倒なので放置。食べるのは私とアザミさんだし。っていうかライターないし。

「火魔法使えないのに魔法で蒸すっていうのがなんていうか」

ここはドワーフ街。職人の商店街。ないんだからとつくってもらった金属の箱に入れたココットを外側から水蒸気で加熱していたらアザミさんがつっこんでくる。

「だって水ですし」

「あぁうんそうだね。レンジの要領に近いよねそれ」

「あぁそっか」

水分を振動させることで物質を温める。なるほどそういえばそうだ。

「あ、しまったカラメル!」

私としたことがと声を上げあわてて鍋に砂糖をぶち込む。加熱して色が付いてきたらお湯を入れてできあがり。飛び跳ねるのでその際裏ごし器なんか当てるといろいろとカバーできる。私の場合水分を支配下においているので問題ないけど。

「水の拡大解釈が恐ろしいよねメイちゃん」

「この前暗殺者扱いされてまいりましたよ」

「暗殺?あぁ大概の生物には水分が必要だからか」

話が早い。そういえばレンジに子供だとか猫だとかぶっ込んで乾かそうとしたとかなんとかいう話あったな。元ネタは訴訟大国アメリカのじょーく説明書だっけ?あっちは訴訟大国だからネタでもなんでもぶっこんでいかないとやっかいになると聞いた。

この世界にはあんまりそういうのない、よなぁ。良くも悪くも自己責任。

「家族が平和に安全にくらせるようになればいい」と願って世界を換えようとするほどどん欲な人間はまだいない。まぁモンスターいるしなぁ。

「便利なんですよ。腐敗も回避できるし」

所帯じみたこといってるなぁ。

世界でもっとも早い移動手段もってるのに。いやだからか。

上質な保存食はこの世界にだって重宝される。

「ドライフルーツ屋でも始めたら儲かりそうだねぇ。ラムレーズンとかつくらない?」

「お、いいですね。ドライフルーツ屋はアレですけどラムレーズンならいろいろ応用はきくし」

ワインを作ってるから葡萄はもちろんある。種なしの品種があるかどうかわからないが……ツベルクリンなんてないだろうからここは可能性の話になるだろう。……種なし葡萄は割とつくるのが面倒なのだ。

「まかせて向いてるフルーツ狩ってくる。カッサータ食べたい」

「イタリアのナッツやドライフルーツ入りアイスチーズケーキでしたっけ」

どこまでも自分の欲に忠実だなこの人。あと甘いもの割と詳しい。

「そうそう。いやぁ本当にメイちゃん詳しくてありがたい。お菓子づくりも好きだったの?」

「ブランデー入りのヤツならおつまみにもいいかなと思って」

レーズンにあわせてラム濃いめもいいかもしんない。

昔から酒への執着が強かった。

だから「合いそう」なものは一通り調べていたのだ。

飲めないのにね。アホかな。

結局「前」は呑めなかったのにね。アホだわ。

でも今応用できてるからよし!

「なるほど」

わぉ期待しているまなざし。

何にせよ手に入ってからのことだけども。

「さてそろそろ蒸しあがったかな。あったかいのと冷たいのーーで2段構えで食べます?」

ココットは少し小さかったからその分数はある。

提案にアザミさんは大きくうなづいた。

氷を作り、半分を冷やす。急激に冷やすと食感が悪くなる気がするので。

ココットをそのまま、カラメルソースをたらり。

「ぷりんだー」

「はいはいプリンですよー」

「めーちゃん女神」

「向こうだとサラッと流せるんですけどこっちだといろいろまずいから」

「面倒だよねその辺」

っていうより神認定のハードルが低すぎるのだ日本人は。

「メイちゃん転生の時に神様とかあった?」

「ないですねー。ギフト的なのはなんとなく理解してましたけど。アザミさんは?」

「ない。事故かなと判断してる」

一気にスプーンを突き刺さず、ぷにぷにした感触をつんつくしながらその人は苦笑いをこぼす。

――こういうとこみせられると、またなんか作ってあげたくなるよなぁ。

「あ、めーちゃん!シナモンアイスもたべたい!」

「え、そんなのあるんです?」

「昔食べたことあるんだ。ミルクアイスに入ってる感じがまたうまい」

うん、なんていうかお互い様と思う方がよさそうだな。

ギブ&テイク。してあげるは高慢だ。

「っていうか最近アザミさん低年齢化していってません?」

「これでも気を張って生きてきたからね。多目にみて?」

食べ物っておっそろしいな。

色ごとになる流れはほぼい空気。

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