serve15
久しぶりに荷物持ち君が顔を出してくれた。
生きてるねといったらなんとかとちょっと困った顔。おつかれ。
「お久しぶりです。えっとビールを」
「はいはいー」
注文に応えてる間になにやらごそごそと音が聞こえる。
なんじゃらほいと目線を向けると、彼のアイテムボックスからいろいろ出てきている。
「それは?」
「にょっきに合いそうな食材です!」
予想外の元気な声に目が丸くなってしまった。
まさかの話。うちはニョッキ屋じゃないんだが。
みるとキノコとか魔物肉とか、まさかのブルーチーズとか木の実とかかぼちゃ、え、これ小豆?この葉っぱバジルだ、うちにもあるよ。んぅターメリック!マジ?!あれ、これもしかしてカレーリーフ!コリアンダー、クミン、シナモン。なにこれすごいなハーブの種類。
「地元にある食材なんです。民間療法っていうんでしたっけ?お医者様も薬師様もいないからみんな普段から薬代わりに食べてるものを集めてきました」
「おぉぅ?」
話がみえるようなみえんような。
うち、酒場なんだけど。
しかしニョッキに合いそうって言ってる辺りこの子の舌は本物な気がする。
そうだねカレー味絶対美味いよね!米がないのに!つくりたくはなかった一品だね!
「その。マスターだったらこの食材でどんな風に調理するでしょうか?教えてくださいとはいえないです。レシピを買うお金もありませんし。でも将来でうちの村の名物料理屋になれたらなぁなんて」
なんでも最近になって荷物持ちが発展して料理番にもさせられたらしい。ぶっちゃけわたしが弁当にと持たせたカツサンドが原因だ。
この店のことを話さない方がいいと思って口をつぐんだ結果、変な期待をさせられたと。実際農家なんてなんでもできてなんぼだし今の話みたいに野草にも造詣は深い。チームの誰よりも全うな飯がつくれた為に結果料理に目覚めた、と。どこまでも素直だなこの子は!
「だから、みることだけでも許してもらえたら、と思って」
「それは」
非正規ではあるが弟子入りを申し込まれている?
いや堂々とした盗人宣言か。むしろレシピ公開は別にかまわないんだけどな。
「それにしてもなんで?」
「いやトマトの季節が終わりそうだなっておもったら別の味はどうなんだろうと気になって」
「ニョッキの作り方はわかってる?」
「前回みてなんとなく」
ふむ。
「試した?」
ちょっと目をそらされた。試したらしい。そして――おそらく成功している。
じゃぁもう自分でやるだけでいいじゃん?と思う。なのになぜか妙なことを言い出している。
ビールを差し出しながら彼を観察する。ちなみにサーバーつくるのも大変だった。なにせ概念がない、そもそも発想や構想がない魔器機相手の制作だ。がんばった、説明した自分。
「別に隠してるものでもないし、じゃがいも飽きてたところに新しい感じがおもしろかったんでしょう?よかったじゃない」
「でも勝手につくっちゃいました」
「は?」
意味が分からない言葉に変な声がでる。
だが思えば「そうだった」。レシピの金が払えないと、今彼が言ったではないか。
これは彼にだけ都合の良い謝罪なのだ。目の前のスパイスをみる限りはけっして不公平ではない、というのは自分の感覚だけである。
「別にいいのに」
「そういうのはちゃんとしとかないと」
なら金を寄越せという話だが、騒いでも面倒だしそもそも「知識」のレベルだ。他の案件でもそうだがもらうこと事態に抵抗がある。仕方がない。
酒場で作っていいのか正直怪しいがしょうがない。米もない。だがしょうがないのだ。ジンジャーはあるけど。
「そういうこと、ね。わかったわ。持ってきた君が悪いんだ」
「マスター?」
あぁなんと酒場にあるまじきことか。
鉄鍋に澄ましバター、ショウガニンニククミンシードキャラウェイ胡椒唐辛子シナモンその他もろもろを入れて弱火で香りを出す。大量のみじん切り玉ねぎを炒めて冷凍しといたトマトピューレにカレーリーフ、ターメリックとリンゴのすり下ろし。
っふふふふふやってしまった異世界カレー。
肉を別に焼き、ジャガイモはニョッキにしてカレーをだばぁ。
うぅうう酒場のにおいじゃないぃいいい。チーズほしい。ブルーチーズ使っちゃう?
お酒どうしよう。なににする?ハイボール?ビール?ジンリッキー?あぁでも今は水が一番ほしい気がする。マジで酒場どこいったのわたし。
「さすが師匠だ」
「誰が師匠やねん」
思わず我に返ってつっこむとウッとたじろぐ荷物持ちくん、もとい未来のシェフ。とりあえず食べてみんしゃいと一皿差し出しながら自分も味見。結果どうしても日本のルウの偉大さをかみしめるがまぁなかなかのお味と思う。
「これどこの料理ですか?」
「さぁ?こういうの作らないの、君の実家」
とりあえずインドってこの世界に多分ないからなぁ。
「スープに入れることはありますがこんな大量に使うのは珍しいですね」
「なるほど」
元々の想定が薬膳なのでたぶん体調に合わせていろいろ入れるのが慣例なのだろう。
まるまるぶちこむ上に色がこれでは後込みするのも無理はないだろう。あんまり作り置きすると雑菌繁殖割とあるんだっけ?とか思ってたらバンッと扉が開いた。すわ焼き討ちかと思ったところで異世界欠食中年が飛び込んでくる。
この人、うちに移動魔法のポインターでも打っちゃっていないだろうか。もしかして。
「カレェエエエエエエエエエエエエエエエ」
「ご承知の通り米はないですよ」
酒米では絶望しか待っていないと思うし酒の仕込み量がね。
「うわぁあああああああああんん」
だからつくりたくなかったのだ。
突然の訪問者にあっけに取られている自称弟子など気づく筈もなく、そのくせカレーのにおいにかけつけたアザミさんはきっと奇妙な生き物とみえるだろう。
「それでも食べますか?ニョッキですけど」
「食べるぅ。あとでカレーうどんつくって」
「あぁなるほど。了解です」
多少は妥協できそうだがそれでも号泣しながら席に座るおっさんはすごく哀れだ。
わからんでもないのが一番アレだけど。
「あの、SSランクのアザミ様ですよ、ね?」
「今の僕はカレーを食べようとする一般市民です。キリ」
「スパイス持ってきてくれたの彼ですよ、アザミさん」
「君が神か」
「下っ端の荷物持ちです」
かしずきかねない態度のおっさんにドン引く若者。すごい構図だ。カレー怖い。
「それでも感謝したい。ありがとう」
となにもしらぬ若者一人を困惑の海にたたき落として彼の意志はカレーに向かいはたと口を開く。
「あぁそういえばウコンて二日酔いに結局効果ないって研究が出たとか出ないとか」
「え?なにそれ知らない」
おこめのないかれーなんて




