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ドワーフ街のバーテンさん。  作者: ほうとう。
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いらっしゃいませと声を上げた先で、初めてのお客さんが顔を出した。

みたことはない。もちろん店ではよくあることだ。驚く意味もない。


しかしなんだろう。そのお客さんの訪れには妙に懐かしい気がしてしまった。

たとえばうちの入り口は狭くもないしのれんもかかっていない。

だけどちょっと頭の上に布をめくるような仕草をして、かがむようにして入ってきたその様はいかにも小料理屋にといった印象だった。勿論うちはバーなのだが。

「いらしゃいませ」

「一人なんだけど」

「どうぞこちらへ」

ますます懐かしいようなやりとりを交わして客を奥の席へ案内する。

ローブをかぶっていて、声から多分成人男性、初めての店への気後れが露骨なまでに感じられる。

「いらっしゃいませ」

どちらでこの店を?そんな風に聞いてもよかったかもしれない。

いかにも話を切り出せない感じがなんとも。

どうしたこのか。タイミングが切り出せない。

それでも何度か悩んだあと、彼はようやっと口を開いた。

「あの清酒を」

「え」

「え、っとえと米の酒が、お酒があるってきいて」

「あります。焼酎も梅酒も」

できたばっかりの。

まだ数人の常連にしか振る舞ってないのが!

ほんの少しの緊張のまま自分が与えうる情報を伝えるとがばりとその人は顔を上げた。

黒い目、黒い髪、すこし黄色みがかった肌の20、いや30代後半。あっぶね、こっちの感覚でみちゃったよ。よく見れば目元や口元にはごまかしようのない皺が刻まれている。

わずかにみえるカウンタに置かれた腕は鍛えられた、いや鍛えざるを得なかったことを物語るようにいくつも傷を纏っている。

望まずとも歴戦の戦い人の名残を、勲章と呼んでいいのだろうか。

その雰囲気はどこまでも強者と縁がなさそうだからこそ。

――ご出身を伺っても?

酷く懐かしい言葉を口に乗せる。

しゃべれた事実に少し泣きたくなり、返ってきた言葉に崩れ落ちそうになる。

食べておいしいお米がないのが申し訳なかった。



「SSランクのアザミがこの店のことを聞いて回っていたと聞いたんだが」

「あれ、斡旋所バンクの」

厳ついおっさんが顔をしかめて奥にはいってくる。

数年前に膝に矢を受けてしまったせいで、厳つい顔の割に事務長をやっているローゥエンさんの所属はいわゆる冒険者ギルドなのだが珍しい表情に少しばかり首を傾げた。

冒険者SSランクとかなにそのオーバーランカー。うちみたいなちっさい店に、ん?

「ちらっと見にはそれっぽくみえないかんじ?」

「そうだな。妙に礼儀正しくて自己評価はその辺の道ばたに転がっている石より低いがその実力はいくつもの国から声が、あぁいたな」

ローゥエンさんは奥で寝落ちてる同郷さんをちらりとみてふぅと息を吐いた。

「酒は苦手ときいてたんだが」

「そりゃ口に合わないでしょうからねぇ」

彼のいう酒とこっちの酒を一緒にしては話はかみ合わない。

さっきまでうへうへちびちびと日本酒を飲み、焼酎を飲み、梅酒をデザートにすると言うチャンポン酒やりながらうどんやとんぺい焼きやらを食べてた彼はスヤァとカウンターにうっつぶしている。明日たこ焼き機を作ってもらいに鉄鋼場にいこうと心に決めてた。問題はタコだけどまぁお肉でもおいしいよね。異論は聞こえないトコで生きてます。

「なんだ、アザミのこと知ってたのか?」

「今日初めてお会いしましたよ」

ローゥエンさんはすごく不躾な目線で私の言葉を分析しようとしているようだったが無視をする。それを説明したところでややこしいばかりだ。

「しかしなんか甘酸っぱいにおいがすごいな。腹減ってくる」

「どうせ探し人は撃沈してますし、いかがです一杯」

「飲むっつーより飯がほしい」

「はいはい。とんぺい焼きがまだ材料あるかな。お通しの角煮があるんでソレで一杯やっててくださいな。すぐ用意します」

商売上手な嬢ちゃんだというけど飲食店入って食わないのは罪だぞ絶対。

「とんぺーやきってなんだ」

「アザミさん?が教えてくれた家庭の味ですよ」

ウスターソース作っといてよかったよ。甘酸っぱさの正体は焼けたソースのソレだ。



「そぉすぅ」

焼けたローゥエンさん用のそれに反応したらしい。

幽鬼とばかりにのそりと起きる同郷さん。いい年してるのに口の周りがかわいそうなことになっている。

「起きたかアザミ」

「あれ、ローゥエンさんじゃないですか。お久しぶりです」

おや知り合い。そういや酒が苦手?なの知ってたな。本人から聞いたのか

「あぁ。挨拶もせんでこんなところに飛び込んだとなっては友人甲斐がないと文句がいいたくてな」

「あぁそれはすいません。故郷の酒が飲めると聞いてつい」

「酒が嫌いというよりも好みの問題だったと?」

「もう飲めないと思ってましたから」

好み以前の問題なのだと同郷さんは自嘲気味に笑う。

どれくらい我慢したのか。フードのはずれた顔がこぼす表情は迷子のそれだ。

一応事情的なものは聞いている。いわゆる転移者の元サラリーマン初心者。彼の歌姫は帝都で人気のローリァ・ケルシュではなくてかつて日本のR&Bを席巻した自動的で初恋の人だった。お察しください。

「久しぶりに美味い酒です」

そうといわれちゃうと申し訳なさすらあるんだが。まだまだ新米杜氏なんで。

「メイの酒は絶品だからな。バリエーションも多い。研究熱心だものな」

「あざす。はいローゥエンさん、トンペイ焼き」

「おぉこいつがそうか。なんか地味だな」

「そりゃおやつ感覚で食べられてるものですし。あ、えーっとアザミさん?来週くらいにはたこ焼きもどきつくろうと思うんですけどタコの代わりに何が」

いいですか、と聞く暇はなかった。

「とってくる」

「え?」

「たこやきだね?たこがいるんだね?」

「あの、えっと」

「ついでにお刺身とかもできるかな?」

「魚醤でよければ」

「なら塩もいいのを。葉わさびなら過去に群生をみつけたことがある。それもまたとってくるよ」

「なん、だと」

「お醤油がないのはどうしてか聞いても?」

「大豆がまだ手に入らなくて」

「大豆なら向こうの大陸にあった。海ついでに渡ってくるか」

さっきと全く違う口調に、旧知とのことであるローゥエンさんもちょっと驚いた様子だ。

物腰の柔らかさは会話を重ねる中でなりを潜め、鬼気迫るという言葉ぴったりに強い意志をにおわせる。

いやわかってる。

われら日本人。食に関しては変態と呼ばれる血である。

いや自分は今違うけど精神は引き継いでいる。

「おいアザミ?」

「味噌汁ものみたい」

「季節があえばもろきゅうも食べられますよ」

「引き受けた」

依頼とは言い難い会話でしかなかった筈だが、アザミさんの中では十分成立に値するやりとりであったらしい。

もうね、目がイってる。

「みそみそしょうゆーもろきゅーさしみーみそみそしょうゆーかけたまうどんー」

「変な邪神召還しそうな歌はやめてくださいよ」

苦笑いしてそんな風にツッコむと同郷さんはニタァリとこちらをみて笑った。

「3日待ってくれ」

「むしろまって」

大陸の往復にそんな短時間は不可能だ。不可能な筈である。

ケタが違う意味で本来ならば不可能なんじゃないかな。けど声色に嘘を感じないのも事実なのだ。

「この店専属のプラントハンターとか専属契約するぐらいの勢いなんだけど」

「Sランクオーバーが泣きますよ!」

「飯の前にはそんなもの文字通りつまようじの役にも立たない」

まぁ歯の隙間どころか顎がくだけそうだ。

ローゥエンさんの顎は落ちそうだけど。

「こりゃ驚いた。どんな国のいかな褒美も個人契約も蹴ってきたおまえがな」

蹴ってきたのか。まぁ国と関わると面倒そうって思うもんなぁ。

「というわけでむしろ雇ってくださいお願いします」

「土下座はやめてくださいね」

さも当然にスツールから降りてなにをしようか予想がついたので釘を差す。だめともいってない内から念を押すあたりがすごくあざといじゃないですかね?あんた絶対営業だっただろ。

しゅじんこうは

ちーとなみかたを

げっとした

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