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VIP回です。こういっていいのかわからないけど、VIP回です。
じじぃ様以来になるかな?明確なのは。
「母上、ここは」
「酒を楽しむ場所、だそうですわ。ねぇ?店主さん」
「えぇそのとおりにございます」
王妃サマ、という言葉をかろうじて飲み込む。しかもこちらは現役だ。
現役王妃が酒飲みに来た。説明だけでマジカオスい。
しかも次期帝王筆頭候補たる第一皇太子を連れて。
マジで胃に穴が空きそうなんだけどな。ワタシショウシミン。
「ようこそいらっしゃいませ。席へどうぞ」
親子連れ、新顔のお客様、対応はふつうに!
「ご注文を承ります」
「そうね。お任せいたしますわ」
そうだねうちの店には珍しいお酒がいっぱいだかんね!
それでもごめんねメーカー豊富ってわけにはいかなくて!個人的にはめっちゃ少ない。
あとメニュー表もないの!
「お好みなどを伺ってもよろしいですか?」
「好み、ですか?」
ほぼワイン一択な貴族に「好み」っていってもピンとこないだろう。
ヴィンテージという概念もないから「その年の味」しかない。あとは赤か白かくらい?
「えぇ。甘いのとかさっぱりなのとか渋めとか苦い方がいいとか香りが優先とかとにかく酔っぱらいたいとか逆にあまり強くないのとか」
「ではしょみんの飲むエールというのを」
君はキノツラユキか。日記でも書き始めるのか。10歳くらいの少年皇太子殿。ふんわかした黒髪は先祖返り、初代皇帝の色としてその生誕を騒がれた。瞳は鮮やかな赤髪の王妃と同じくウォーターメロントルマリンという変わり種。ただその変わり種な瞳は巨大な魔力と特殊属性の使い手であることが知られている。トルマリン、電気石。つまりアレだ。黄色いネズミだ。たたっ斬られても文句言えないよねわかります。
「あれはあなたにはすこし苦いと思うのだけれども」
「そうなのですか?」
私のアレであれな思考回路なぞ知る由もなく、軽く苦笑いをして忠告する母に首を傾げる少年。きょとんとした瞳がちょっくら裕福な庄屋の坊ちゃんが着てそうなシンプルながら上質な服も相まって愛らしい。なにこれ持ち帰り案件か。いらんけどこんな物騒なセコム付き天使。
「パナシェかシャンティガフか、エールの味がしりたいとおっしゃるならパナシェにしましょうか。苦みはかなり和らぎますので」
まぁビールのハイボールならぬ炭酸水割りだ。薄いと言われればそれまでだがあっさりはしていると思われる。
「お、お、お姉さまはいかがいたしますか?」
王妃様は言語道断。
奥様は別にいいかもしれないが(かーさまいうてるしね)そこはそれ。
かつての友人が言っていた。いつも心にみ○もんた氏を。名を呼べぬ女性はすべからくお嬢さん、もしくはおねえさんと呼べ。それだけでいい。それだけで物事の7割はうまくいく。信じているぞ悪友よ。これでいろいろうまくいったら親友と呼んでやる。もう顔を合わせることはないだろうけれども。
「私はそうですわね。何か甘いものを」
「口にすると体調などが崩れてしまうようなものはございますか?」
つい流れでそうと聞いたがとんでもないことを聞いたと直後に気づく。
ヤバいだろういくらなんでも!どう考えたってアレルギーなんてあったらトップシークレットだ。だって下手をすれば殺せるもの教えろとかいってるんだから。
彼女はきょとんと一瞬だけ目を丸くし、そしてすぐに大丈夫よと返してきた。っぶねぇ。
「ふふ。お店でそんな配慮をされたのって初めて」
まぁ気にするって方が珍しいしな。好き嫌いで聞けばよかった。そうすればやんわりと向こうもいろいろいえるのに。
さて、甘いもの。今日のお通しはトマトに澄ましバターとバルサミコ酢もどき、塩胡椒・チーズを振ってオーブンでじっくり焼いたトマトグラタンである。日によってコストのかけ方違うのいい加減どうにかしたい。でもパナシェには合うがどう考えても甘いものには合わない。参ったな。初っぱなから甘いのほしがる客ってあんまいないもんだから自分がお菓子ほしかった時しか甘いお通しってでないんだよね。
あー甘い、甘いね。うん梅酒使うか。梅酒ダイキリにしよう。フローズンダイキリ梅酒バージョン。ラムもマラスキーノもなしだけどライムジュースが多分トマトにも合う。
そうと決まれば準備は早い。本当はブレンダーとかミキサーでクラッシュドアイスと一緒にががががーなんだけど魔法でやっちゃう。氷のサイズは自由自在だからできる芸当だ。
「おまたせしました」
くしくも双方とも金の色彩をまとい、片方はどこまでも透明、片方は柔らかく乳白色をたたえているというそれぞれの注文品にお通しのトマトグラタンがブシュグシュと熱を放つ。これは?という目にいきなり酒ばかりでは胃に悪いからと勧めるとすこし困ったような顔をされる。多分これ特別扱いされてるって思ってるんだよねぇ。実際この状態って完全に暗黙の了解だもん。そんなことはないんだけど、といっても通じないか。
困ったなーとぼんやり思ってるところで新しい来客。いや、グルーナク上帝直轄騎士団長!しかも私服!他意がなかったことを全力でアピールするように、彼は先客の姿に一瞬ギョッとして私をみた。上司にきけ。ものすごくおどおどと頭を下げた彼に二人もまた頭を下げた。たぶん不敬罪の単語が頭の中でヒップホップ踊ってることだろう。わかりみしかない。
「いらしゃいませ」
「あ、うん。ジンリッキーを」
「はーい」
完全に休みなのだろう。お酒の注文がうれしそうだ。仕事中なら麦茶だしこの人。
この店の客は大概ちょくちょく来てはいろいろ注文し、最終的に自分の好み一辺倒になる。こんなところも実に職人街らしが、この騎士様もおなじだ。
さてその気がない人に食え食えいってもしょうがない。注文を受けて準備をする。
柑橘類がいくつかあったのでせっかくだからと好みを聞いた。シークワーサーとは通なものを。苦みがほしかったんですねわかります。
当然ながらトマトグラタンも一緒に出すとさっそくスプーンを手に取る。あっついのとキーンと冷たいの。うん、いい組み合わせだ。
「あひっ、火の通ったトマトって美味いな」
「とにかくジューシーでしょう。クセのない植物性のオイルがあればもっとさっぱりするんですけど」
「いやバターのクセがおもしろい」
「よかった」
バター焦がして正解だったかもな。
オリーブオイルの味をしってるもんだからなんかしつこい感じになってるんだけど食べる人が楽しんでくれているならなにより。バジルのっけてもよかったかな。
当たり前になれた客が食べるのをみて「ふつう」を察したか、それともおいしそうに食べる顔見知りにつられたか、スプーンを手に取ったのは皇太子殿。熱いという言葉が気になったのかようやっと口に付けたパナシェのさっぱりさに目を見張りつつ、銀のスプーンを赤い海に突き刺して一掬い。毒味とかで時間がかかっても保温系の魔法があるから熱いものは食べ慣れていないわけではないだろうしすでに軽くさめている。それでも思った以上の熱量を感じたのか小さな手はグラスに伸びる。
そんな息子の仕草をみておなじ伝手を踏まないのが母親というものだ。いや単純に女性として豪快に食えなかったか。まるでキスするようにスプーンに掬ったトマトのジュースに唇を寄せて銀の波を傾ける。豪快に食った方が美味いと思うんだけどにゃー。
「あら」
「おいしいです、母上」
「えぇそうね。びっくりしたわ」
そりゃそうだろう。作り方だけみればだいぶワイルドだもの。繊細にしてこってりが王道の宮廷料理とは全く違うと思う。
そういえば過去に聞いたことがある。貧乏人と金持ちでは経験値が多い分金持ちの方がむしろ好き嫌いが少ないという説だ。得体の知れないものも珍味として高い金を払って食う経験のある金持ちは怖いもの知らずになるという話。まぁこれは眉唾だろうけど諸外国(うちの場合はほぼ自治領?)との交流が日常の身だ。意外と度胸が必要なのかもしれない。
その彼女らも経験したことのない味である亜種ダイキリとパナシェ。ただ後者はおこさま舌には少々物足りなかったらしい。かなり味わいはドライだしな。母親のをしきりに気にしている。
やっぱシャンティガフにすればよかったか。レッドアイではトマトがかぶってしまう。
ほかにビールカクテルってなんかあったか。シロップを足したフルーツ系もあるが酒そのものではないのでつくるは後回しにしてしまっている。
ハーフ&ハーフ、無理。黒ビールまで手がまわってないしパナシェ以上に子供が好む味とはいえない。ドッグズ・ノーズ。ジン入るじゃん、だめだめ。ソーダの代わりにビールを入れるビア・スプリッツァーとかもうこの国にあってはイメージだけなら色物だしなぁ。うーん。
「よし」
レモネードにしよう。シンプル、さっぱり、レモンジュースと砂糖と水。ほんのり岩塩。なんて安全。
そもそも未成年という感性がどうしても残っている以上、酒を飲ませるのが心情的にしんどいのが本音だ。というわけでシンデレラとかフロリダでもいいのだがやっぱりグラタンがまだあるので味はさっぱり系がいいだろう。
「よろしければこちらをどうぞ」と素知らぬ顔で差しだしたところでグルーナクから2杯目とつまみを頼まれる。かしこまりっ。
「肉?」
「にくで」
ふーむ。鳥のささみがあるな。大葉とチーズでサンド焼きにしてもいいんだけどここはゆでるか。お湯を沸騰させてささみをいれ、火を止める。余熱で火を通す間にネギ、ニンニク、ニラ、パクチー、ゴマ、ナンプラー、タカノツメ、ショウガ、ワインビネガーの万能たれを作ってここに薄切りタマネギだばぁ。タマネギがなじんだ頃にはささみがいい感じなのでよく手を洗ってお湯のなかでほぐす。あっちち。
「なんでそんなドMなプレイをしてんだ?」
「こうするとささみがしっとりするんですよ、隙間にゆで汁が入るというか」
「へー」
んで網で掬ったささみをたれであえる。麺ほしい。あ、パスタに重曹!やってみよう。ゆでるときに入れると中華麺ぽくなるってきいた!
鍋にお湯。結構気軽にやるのは水魔法があるからだ。お湯とて水の変化。召還の段階で沸騰させられる。氷も然り。温度の調節は能力のウチである。おっと塩と重曹。
「あぁそれはパスタですね」
「ふみゃ」
「あら本当。もう市井にも出回っているのね」
無邪気な母子のお言葉が耳にいたい。出回ってるもなにも。あとなにげに問題発言です、マイ設定忘れないで。
「なにかつくりましょうか?」
かろうじてそうと提案する。いわばレーションの一環として開発された(とされている)パスタだ。もしかしたら食べたことがないかと思って提案するとちょっと意外そうな顔をされた。自分たちが食べるものだと思ってない――そんなリアクションに今度こそ苦笑いをする。まぁそれがどうってんじゃないのだけれども。
その庶民の食べ物を王族がハマったなんて歴史もむこうではあった。その際にでて食べていたのは見目が悪いと三つ叉フォークが開発されたのだという。(それまでは基本肉用)
「あ、いえ。珍しかったので」
「そうなんですか」
そんな風に返しながら仕上がって水切りした麺にソース?をだばぁする。冷麺とか春雨とかも作ってみようか、米が食えない分麺に情熱が傾く。
本来の触感ではなかったのですこし彼は驚いたらしかったが美味いと言ってくれる。
勝利したような気分でにんまりと笑い、空いたグラスを回収して洗浄する。
なんちゃって混ぜ麺も気にはなっていたようだが、なによりもレモネードはお子さま舌に合ったらしくおかわりがくる。ダイキリもどきも同様だったけどほぼ氷ばかりでは体に悪い。確認をしていくつか梅酒ベースで別のカクテルも用意させてもらった。じじぃ様が最近お気に入りのソーダ割りも。勿論ふたりともグラタン皿代わりのココットはもう空っぽだ。
そもそもちみっこというのは食の興味が持続しない。もっといえば隣の芝がまぶしくみえるものなのだ。美味そうに誰かが食べるものに興味が惹かれない筈もない。ちょっと辛いとは思うけど。
とはいえ注文をしないものを押しつけても仕方ない。
おとなしくいつ注文がきてもいいように聞き耳を立てながら片づけに意識を向けるが思えばそもそもで「注文」などに馴れてない人物である。
特にこの店は品書きがあるわけではない。変わり物ばかり出すから書いておいてもわからんの一言ですまされてしまう。識字率の問題ではない。情報が独創的すぎるのだ。なのでもう好み対応というのがこの店の基本となったわけだ。実際顔を出したのと同時におなじ物を出す約束になっている人も何人かいる。
つくづく初心者に優しくない店だと今更のように反省したのは母子が帰ったあとのことだ。もっすごく名残惜しそうではあったが、「お迎え」がきた為である。
「とりあえず上にいっとくわ」
「おにゃしゃす」
なにを誰にとは言わなかったが、麺一本残さず食べきって3杯目を傾けている騎士団長殿がフォロー的に言ってくれたのがなにやらありがたい次第である。
自分からぴっぷ回とかいっちゃう系




