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ドワーフ街のバーテンさん。  作者: ほうとう。
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女性の職人さんというのもうちには多い。

ただ強いのをキュッとしてサッと帰る人が多い気がする。

だらだらしないのだ。キャリアウーマンぽい。まぁ家庭があったりとかいう人も多いんだろう。ここは向こうでいうオフィス街に近いドワーフ街。帰るべき家がある人はあまり寄り道をしたがらない。

そういう意味では語るべきことがあんまりないのだ。特に仕事疲れの女性など細かくご紹介することが失礼ではないか。野郎はどうでもいい。

ただ今日はちょっと、うん。逆に黙っておいて上げたほうがいいんだろうけど。

「ふぅうううぇえええええあたしもーめーちゃんのおよめさんになるーっ」

「申し訳ないがお断る!」

「びええええっめーちゃんにもふられたぁあああ」

まぁ、うん。そういうことです。

彼女はカナリヤ。宝石細工職人だ。数少ない魔石を宝石としてデザイン・細工することを許された魔石細工職人でもある。ぶっちゃけエネルギーのかたまりである魔石は魔器機の燃料程度ならいざ知らず、0.5カラット以上ともなれば美しく輝き物理的に吹っ飛ばせる爆弾と化す。それを例えば娘の護身用にとか家の家宝とかにしようとなると技術も知識も段違いとなるのでここでは珍しい国家資格となっている。付属するアクセサリーの金具部分が使用者を護る結界を一時的にでも展開するのだから無理もない。

ただですらモグリや気づかないで加工しようとした宝石細工が何度も大規模な爆発事故を起こしてきたからなおさらだ。

で、基礎技術が高い上にそのデザインセンスが頭一つ抜きんでているしている彼女の原動力は恋。果たしてそれがハイオクのように濃すぎるせいでこのような結果を毎回被っている、というわけである。いや、レギュラーとハイオクの違い詳しく知らないけど。

うぐすうぐすとクダを巻くお嬢さんにかける言葉はない。

黙っていつもの酒を出すだけだ。あ、でもそれすごいBARっぽい。

失恋した時にだけ注文するのはトム・アンド・ジェリー。ラムとブランデー、そして卵の入ったのの更にお湯割りだ。洋風卵酒?恋愛を追いかけっこにたとえてまだ店を始めたばかりの頃に飲ませてからなんとなく定番になっていった流れがある。彼女はあの猫とネズミのランデブーを知ってるわけじゃないけれど。

お通しにはクラッカーにクリームチーズ。ドライフルーツを混ぜこんだものとナッツ類を混ぜ込んだのの2枚。ぐだっててもまぁ食べられるでしょ。

「うぅううあたしいつもね、これがさいごのいっぱいっておもってのむの」

「うんうん」

彼女の主張はもっともだ。その真剣すぎる前のめりな考えが相手をドン引かせるのだといい加減学んでいただきたい。無理か。

「けーきょくーわたしはーこのおさけをーのむためにーしつれんしてるのだー」

「はいはい」

いいわけにされるのは嬉しいわけではないがまぁたまには必要だろう、ということにしておく。

「あーこいがしたーい」

「恋かー」

「こいよー」

正直彼女の好みはなんというか勢いだ。

ホレっぽい。ただしフラれればグダる時間はあるものの相手に対しては素直に諦める。告白をするのにもじもじと時間をかけるわけでもないので結果的にスパンが短い。大体酒と一緒に一晩過ごせば切り替えはできる。つまり常連。

それが幸せなのかどうかといえば全く別の話だろうが。

「こいかぁ」

前世ではあんまり意識しなかったことだ。

惚れた張れたはあんまり興味がなかった。というよりときめくとかそういうのの経験がない。強いて言うなら活字、知識の方にときめいていた。その経過で酒の情報にも惹かれた。歴史的な著名人達と酒の間には破滅的な恋が多い。

今世に関しては別の意味で難しい。

一応貴族だ。上に3人もいるからあんまりとやかくもいわれないですんでいるのだが、それでも結婚には政治的な意味合いが切っても切れない。

予定通り、完全に独立することになれば逆に店で手一杯になるだろう。やっぱり恋愛できる要素が見あたらない。

そーいや一応いった貴族系の学園でも浮いてたなー自分。

自分の世代は王族関係がかすりもしなかったから平和なもんだったけどそれでも女の子ってどこの世界・時代問わず女の子ってのは女の子なんだなーって実感したものだった。そんな感想を抱く私の感性は前世では埋もれていたが今世では周囲に戸惑いを与えるに至っているらしい。なんかごめんなさい。

世界的な、というより国的な結婚はまぁ多分共働きが多い割にふつうだ。男女差と言うよりも得手不得手。身分制度はあれど奴隷とかそういうのはないので本人の意思が双方そこにあれば何人たりとも立ちはだかること許されない、一方的な力での支配もまた然り、とまでされている。パートナーに必要なのは相性だ男女問わず好きにすればいい。なんかあったんか初代帝王。

婚姻制度とかそれに関する免税や出産に関する制度とかは割と結構整っているのだが、そういう意味では法を監視しながら自らが反している貴族社会だけがむしろ異色ともいえるだろう。

自覚の有無は不明だが。

高貴なるなんちゃらかんちゃらなんぞに興味はないが私にも例に漏れずお申し込みがあった。だが酒造り=僧侶というスキルを言い分にして生涯結婚しないぜ主張を押し通すことにしたのを両親に了承してもらっていた。螺旋に発情す、いやいやトキメク幼なじみとの婚約は実質カモフラージュ要素だったりもする。そのときはほぼいいわけだったがいよいよ現実味を帯びてきている気がした。

これは幼女時代に当時小学生くらいの年頃だった姉から受けたアドバイスだ。実際は個人事業だけど想定されていない故に酒税法が存在しない。法律はいつだって不都合が起きてからつくられるのである。

「あぁそうだ。カナリヤさん、鯉こく食べる?」

「メイちゃんがいじわるするぅううううううっ」

人聞き悪いなぁ。

鯉と恋をかけていると思われたのかそれとも妊婦の体にいいと言われているものとの反応なのかまではわからないけど。味噌はないから塩味だけどね、と顔をしかめていたらカランと来客の音。

本日サチBARはレディースディらしい。こんばんわと入ってきたのは踊り子のヨウムさんだ。オブラートに包んでいっているが、踊り子とはつまりまぁスプリングセール、夜の蝶の人。名前は鳥なのに。実際なんていうか存在するだけでエロい。腰のくびれとか胸の膨らみとか重力が仕事してない。まぁ淫魔さんなのでね。文字通り生活のためなのよね。

「こんばんわ、メイ。ブランデーをもらえる?」

しゃなりという音ぴったりにこちらにおいでなさりながら、彼女からご要望。

かしこまりましたとショットグラスに注ぐ。チェイサーもちゃんとつけるよ。

「ヨウムだぁ」

「あらカナリヤ、また振られたのね」

「頭ごなしに!」

「だって貴女そんなことでもないとこのお店こないじゃない。私寂しいわ」

容赦ない物言いなのに嫌みったらしくない。その上相手を持ち上げる。割に心地よい聞こえ方なのはそれが事実だと本当に思っているからだろう。

それがいえるのは彼女くらいだろうけど。

「うぅヨウムみたいに愛されるにはどーしたらいいの」

「がっつかないことね」

「あぁああああああ」

的確すぎてクリティカルヒットくらってる件。

しかし淫魔ががっつかないとは美人の余裕は恐ろしい。

「がっつか、がががががががおぉ」

あ、バグった。

「あらあら」

「ヨウムさん」

どんな意図で口にしたかよくわからないひとことと一緒にお酒とお通しのクラッカーを出す。

あ、わたしのと違うってめざとくカナリヤさん。そうですねヨウムさんはブルーベリーよりもマーマレードが好きだからそっちを混ぜ込んでますよ。食べたいなら別料金にしますが。

「こういう気遣いもうれしいものよ、カナリヤ」

ヨウムさんがごく自然にそんなことをいう。なんか気恥ずかしいな。

「根ほり葉ほり聞く必要も知る必要もないの。ただちょっと気にかけて覚えておくだけ。たとえばよく選ぶ色だとか、来てる服の小物だとか、アレの時の反応とか」

「あれ」

「あれ」

「いつもそこまでいかない」

「あらあらあらあら」

きーいてないー。ばーてんだーはきーてないー。

ばーてんだーは「とまりぎ」。本音だの国家機密だのを聞いてもその場限りが鉄則だ。

「きづかい」

「そうよ、お仕事でも人付き合いでもいっしょ。カナリヤは依頼人さん相手に使いやすいサイズや怪我しないデザインや、色々配慮できるでしょう?女だから男だからじゃないわ。好いた相手だから喜んで欲しいって」

おかんだ。おかんがいるぞ。

完全にその細腰にひっついてひんひん言ってるカナリヤさんにヨウムさんの声が福音のように響いているのは傍目にみてよくわかった。

「がんばる」

「えぇがんばって」

わたしが面倒だから、とつぶやくのを聞いた気がしたのは目をそらしておこう。

べったべた。

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