prologue
なんというか毎回思いつきすいません
お酒が呑みたかった。
発酵化学の道の志半ば、二〇歳になったその日は、同時にそれ以上年を重ねられなくなったその日となった。
最後に思ったのはそんな指さして笑われそうな「願い」ひとつ。
私が産まれたその日にばあちゃんが仕込んでくれたという梅酒。おやじさんが味見だとかいいながら毎年ちょっとづつ減らしては語ってくれたソレは、本来私が二〇歳になった時にという気の長い祝いものだった。大陸の方の風習に女の子が産まれたら庭の木の下に酒を埋めて結婚の際に掘り出すという話があったそうだが生憎私の為の梅酒は簡単に取り出せる納戸の中。
おやじさんも一応わかってるからちゃんと私が飲める分は調節してくれていたらしい。自称だけど。熟成酒はどうしても蒸発を重ねる。天使の分け前といわれるそれの犯人がコレに限っては明確だったわけだ。
それでも私と、かーさんの3人でその梅酒を呑むことをおやじさんもちゃんと楽しみにしていたのだとは思う。
当の仕込みをしたそのばあちゃんと交わした最後の言葉が「みぃんなで一緒にのもうっておもってたんだけどごめんねぇ」というのもあっただろう。
私がおばあちゃん子だったのと同様、おやじさんもマザコンだったのだ。かーさんがあきれるほどじゃないにしても。
が。なんだかんだで結局コレだ。
痛みよりも強烈な眠気に似た感覚にぶくぶくと意識が沈んでいく。
私は約束を反故するという罪深い形でその生涯を目と共に閉じた。
*
剣と魔法のデッカイドゥ大陸が覇者・コレンデモカァ帝国首都、主力産業の一つである鉄火場、工房や工場が集まる不夜城地区、通称ドワーフ街。
鎚の音がしないと眠れないとかいう連中以外はほとんど住んでいない年がら年中うるさいこの街と居住区の境に今私は店と拠を構えている。
「サチBAR」は自分の前世ではなく祖母の名前からつけた。正直いう、ダジャレだ。
地下2階は酒造所になっており、2階は居住、1階は名の通り自分が作った酒を提供する店。
杜氏私、マスター私、家主私。
そう、前世。酒が飲みたいなどという辞世の言葉をどうやら今回産まれた世界の神様は律儀にも対応してくれたらしく、この世界の人々が受ける祝福という形で私は「バッカス」を手にした。酒の神を冠する通り、その能力は酒造に長け、運が巡る。
ただまぁ貴族の娘っ子が背負うような宿命ではあいにくなかったらしくて今の実家は私を実に持て余したらしい。かわいがってはくれたが酒というある意味「当たり前」の存在に対する祝福に理解が及ばなかったらしいのだ。
幸いにも兄も姉もいたお気楽末っ子なので(貴族の)子どものわがまま範囲で伊達に授業は出てないぜ、とばかりに小手調べでシンプルかつハーブを入れた薬効の高い蜂蜜酒や今までにないワインを作り、その味で身内を陥落させ、販売の手伝いをしてもらい資金をためて独立と相成った経緯がある。
ただ向こう十年、持ち帰り可能な形での販売は実家のみという形になっている。まぁ熟成系蒸留酒保存を考えればむしろ販売制限はありがたいと思うべきだろう。
バーという「酒そのものを呑む場所」というシステムもこの世界では珍しい。
そもそもで蒸留酒なんてそうそう作られてないし、熟成なんて概念がない。酒税法・造酒法をはじめ酒に関しては「ブランド」なんて口コミ地域レベルでしかないし、原始的。なによりこの世界における酒は「ごはんの友」であることが主体となる。
一般ではエール・シードルなんかが普通で、ミードは各家庭でつくってるもの。ワインは貴族のお嗜み。
もちろん日本のガンガンに冷えたのを飲み慣れてる人なら泣きそうになるだろう常温必須。泡?あぁ入れた瞬間だけちょっと立つよねが一般認識。
うちぁがっつり冷えてまっせ!エールもラガーもシードルも。えっと上面とか下面とか解説いる?あ、酒をおいしくしたいと思ってたら水魔法や氷魔法も覚えました。まる。
そういう意味じゃ首都どころかこの大陸、いやさ世界探したってここまで「酒の為の店」はないと思うよ今のところ。
ま、そんなわけで世界観に全くそぐわないサチBARは本日も開店いたします。がらがら。今日のお通しはビール床で漬けたキュウリと大根のおみおつけです!
のんべんだらり。




