ノインの気持ち
「はあ…、すみませんでした」
フィーアはひとしきり泣いたあと、ハンカチで目元を拭いてそう言った。そして、立ち上がって、服についた土を叩いて落として。
そして、一息ついた。
「じゃあ、行きましょうか」
歩き出したフィーアを見て、ノインも立ち上がり、その後に続いた。
フィーアの目には、暗い森の中がいつもより少し明るく見えるような気がした。それは、ノインの言葉のお陰のような気がした。
だからだろうか、森からの帰り道、フィーアはノインに話しかけた。
「あの、服についている、それって…」
「これは、オーパーツです!」
ノインは体ごとフィーアに向き直って、そう言った。
『ああ、やっぱり、オーパーツに反応するんだ』と、フィーアは心の中でくすりと笑った。
「珍しいものなんですか?」
「いえ! この小ささで、しかも破片なので誰も集めないんです! 勿体ないですよね!? 袋に入れても溢れちゃうので、もう服に結びつけてるんです! 重量も分散できて、便利なんです!」
「へえ…、触ってもいいですか?」
「どうぞ!」
フィーアは、少し屈んで、結び付けられている破片の一つを触って観察する。
多少くすんではいるが、キラキラとしていて、元々は光沢があったことが想像できた。歩くたびに、じゃらじゃらと音がなっていたことから硬いことは想像していたが、思った以上の硬さだった。
石のように硬く、木の皮のように薄い。
「不思議な、感触ですね。あの、これは、なんていうものなんですか?」
「それは『鉄』です! 色々な種類があって、今持たれているのは、軽くて柔軟性があって加工に向いているんです!」
「『鉄』…」
フィーアは聞いたこともない単語だった。町でも、そんな言葉を単語を聞いたことはない。それも色々な種類があるなど、ノインがオーパーツのことに熱心であるからこそ手に入れた、相応の知識なのだと思った。
「オーパーツって、どういうものがあるんですか?」
ノインの眼がキラキラと輝く。そして、思い出すように、視線を遠くに向けた。
「一番多いのが、鉄製のオーパーツですね! ですが、動かないものがほとんどです。もちろん、動かなくても、価値は高いのですが、それらはオーパーツの収集家しか興味はないです。けど! 今でも問題なく動くオーパーツも存在しているんです。例えば、フィーアさんの大剣です!」
ノインの目線が、フィーアの大剣に向けられる。フィーアも自分が持っている大剣を見た。
「仕組みも、動力も不明! でも超常現象とでもいうような、機能を見せる! 血を流して、命をかけて奪い合うと言った話が、多々あるくらいです!」
びくり、とフィーアの体が震えた。
つまり、フィーアの持つ大剣は、命より重い。フィーアを殺してでも、その大剣を奪いにくる人間がいてもおかしくないのだ。
「だから」
ノインは、少し、声のトーンを落とした。
「フィーアさんが、無事で、本当によかった」
本当に、心の中そこからそう思ったからこその柔らかな笑顔で、ノインは言った。
ああ、とフィーアが思った。
この人は本当にオーパーツが好きで、だからこそオーパーツで血が流れることが嫌で、全てを引っくるめてオーパーツが好きなのだと。