オーパーツな彼女
その家に着いたのは、ノインが通りから外れてしばらく走った後だった。
通りの脇の木造の家をいくつか抜け、そこに隣接した比較的大きな畑を抜け、人の手が入っていない草原を抜け、幅の狭い川を飛び越え、町の外れというよりも、町から外れていて、とても町の一部とは思えない場所にあった。
しかし、家は町で見たそれよりも、はるかに立派であった。
町の家は、「住めればいい」というものであったが、ここの家は「いかに快適にするか」を追求しているように思える。
全体的に精巧に作られており、見る限り、隙間があるようには見えない。
家自体は少し高めに作られており、その玄関までに勾配を減らすために階段が付けられている。その玄関のドアにも、簡単ながらも細工が施されており、ノック用のドアノッカーも付けられていた。
家の周りや、庭と思われる場所には、雑草も生えていない。また、庭には細工がされた木製の座りやすそうな椅子と、テーブルが置いている。
それに隣に作られた畑など、その広さに圧巻である。
家と比べての数十倍ともいえるほどの広さがあり、とても一人で耕せる範囲とは思えない。
ノインは思う。
『オーパーツのおかげだ!』
そんなノインの目に入ったのは、畑の一部に突き刺さっている、身の丈はある、【大剣】だった。
その途端、ノインはその大剣に駆け寄り、その隅々を観察する。
第一印象は、重厚。
その圧倒的な質量感、迫力、目の前に立つだけで、圧迫されるように感じる。
幅はノインと同じくらいあり、高さはノインの背よりも高い。
全体が土で薄汚れてはいるが、所々が銀色に光っており、金属でできていることに間違いはない。
全体的な装飾は少ないが、柄には細かな装飾が入っている。持ちにくいようにも思うが、もしかしたら滑り止めのためかもしれない。
ノインが感嘆しながら、その大剣の周りをぐるぐる周りながら観察していると、ふと視線を感じて、家の方を向く。
すると、家の窓の隙間から、ノインを覗く目が見えた。
ノインは走り出す。
「ひいっ!」
覗いていたであろう家の中の人は、そんな悲鳴をあげ、急いで窓を閉めた。
だが、ノインはお構いなしに、その窓に走りより、乱暴なノックをする。
「こんにちわ! 僕、ノインです! オーパーツについて詳しく!」
「ひいぃぃ…」
「お名前を! 是非、お名前を!」
鼻息荒く叫ぶノインに、中の人は引きすぎる程に、引いていた。
家の中から、か細い悲鳴が聞こえる。
ノインの荒い鼻息と、か細い悲鳴だけが聞こえる時間がしばらく続く。
そうして、いつまでも続く鼻息に耐えかねたのか、か細い悲鳴が止まった。
中の人は、恐る恐るといった様子で、少し窓を開ける。
ノインの目と、中の人の目が合う。ノインの爛々とした目に、中の人が少し引いたように顔を歪めたが、何もしてこないノインの様子に少しだけ、軟化したように口を開いた。
「…フィーア」
中の人は、【フィーア】と名乗った。声の様子から、どうやら女性のようだった。
ノインが、反応する。
「フィーアさんっていうんですね! 僕はノインです! オーパーツについて、外の大剣について詳しく!」
同じ台詞を反復するノインに、中の人は警戒したように、少しだけ顔を顰める。だが、何もしてこないノインに、フィーアは訝しげに眉間に皺を寄せる。
「あの…、あなたには使えない、ですよ…?」
「そうなんですか!?」
「その、すごく重たくて、持てないらしいです。私は、普通に持てるんですけど…」
「持ってみてもいいですか!?」
「はあ…、いいですけど」
気だるそうな承諾の言葉を聞いた途端、ノインは大剣に走り寄り、両手を薄汚れたズボンでゴシゴシと汚れを落とす。
そして、期待に満ちた目で、ゆっくりと両手で大剣の柄を、握った。
そのまま両手に力を入れる。
「ぐっ」
だが、大剣は微動だにしない。
ノインは何度か、全身を使って力一杯に大剣を持ち上げようとしたが、やはり動くような様子はなかった。
じわりと汗をかいたノインは、フィーアの方を向いた。
「本当ですね! ピクリともしないです!」
ノインは、フィーアが警戒していることが馬鹿馬鹿しくなる程、無邪気に笑っていた。