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恋愛小品集

約束が叶う時

作者: 香月よう子

「何よっ!あんたって最っ低!!」

 別れてやるわよ、今すぐ。

 別れてやるんだから!!

 深夜のマンション一杯に女の居丈高な声がキンキンと響く。

 彼女は止める間もあらばこそ、携帯の電源を切った。

「サーコぉ・・・」

 「(あや)」は彼女・・・「()()()」の顔色を伺いながらも、半分のんびりと声をかける。

「どうしたのよ、いったい。今の電話、「(とお)()」君からなんでしょ?」

「あんな軟弱男、もう知らないわよっ!」

 どうやら咲和子は本気で憤慨しているらしい。

 もっとも徹流と咲和子の喧嘩など、犬も食わない痴話喧嘩に過ぎない。

 それはこの二年間、咲和子と同居している彩にはよくわかっている。つもりである。

「ちょ、ちょっと!サーコってば。何してるの?!」

「何って見ての通りよ」

咲和子は旅行用のボストンバッグを取り出したと思ったら、やおら荷造りを始めたのだ。

「な、何も徹流君と喧嘩したからって、ここ出てくことないじゃないの?!」

「うるさいのよ、徹流のヤツ。あいつのことだから、電話に出なかったら、ここに押しかけてくるじゃん。もう真っ平!いちいちしつこいのよ。止めて欲しいわね、自分の女呼ばわりで私のこと見るの」

だって、なんだかんだ言ってサーコ、結局、徹流君とはうまくやってるじゃない。大体、サーコのワガママ聞いてくれるのなんて徹流君くらいのものでしょ。今回のことにしたって、もう何度も似たようなシーンに遭遇してるわよ、私・・・

 などと、彩が言おうものなら、咲和子は八つ当たりの対象を彩に向けてくるかもしれない。

 そこらへんのことも、ツーカーでよく気心の知れている仲だから、彩は何も言わない。

 言う勇気もない。

 だからこそ自己中心的な咲和子と、のんびり屋の彩だからこそ、こうして長い間、つきあっていられるのだろう。

咲和子だって、本来、大らかで気は優しいのだ。

 万事においてトロイ彩と、なんだかんだ言いながら咲和子は姉御肌でつきあっている。

 結局、磁石で言うならば、二人はプラス極とマイナス極同士なのだろう。

 だからこそ、東京の短大を卒業した後もこうして二人、言ってみれば姉妹のような感じで、ここ麻布に部屋を借りて、たいしたトラブルもなく同居生活を営んでいるのだ。

「じゃね。アーヤ一人にして悪いけど。暫く留守、お願いね」

 私、当分帰ってこないからと、言いながら、咲和子の手はもうドアノブにかかっている。

「ちょ、ちょっと!サーコ。一体何処行く気?!」

「私?男のとこよ、オトコ!勿論、徹流以外のね!」

 See you!・・・などと言いながら、咲和子はまるで幼稚園児が遠足に行くかのように、嬉々として部屋を出て行った。

「はあ・・・」

 彩は馬鹿みたいに突っ立ったまま、バタン!と大きな音をたてて閉められ、咲和子が出て行った後のドアの付近を見つめている。

 この分では、咲和子は暫く本当に帰ってこないだろう。

 やれやれと、彩がリビングのソファに座ろうとした時、テーブルの上の彩の携帯が鳴った。

「もしもし?・・・あ、徹流君。うん、久しぶりー。うん、元気元気! あ、サーコ・・・サーコね・・・・うん。あのね・・・」

 彩はさすがに言葉に詰まった。

 つい先程まで、携帯越しとはいえ、咲和子とあれほどの修羅場を演じていたばかりの徹流である。

 咲和子の気性はもう、嫌と言うほど飲み込んでいるであろう徹流とはいえ、咲和子が別の男のところに転がり込むらしい・・・とは言えるわけがない。

『彩ちゃん。本当のこと言ってくれ。俺、気にしないからさ・・・』

 果たしてかな、徹流の弱々しげな声が電話を通じて伝わってくる。

 彩は覚悟を決めた。

「・・・うん。そうなの。だから、サーコね。出て行っちゃったのよ。ううん、行き先は知らないの。ただ、暫く留守お願いね、て・・・」

 彩は言葉を濁しながら、咲和子の真相は知られないようきっぱりと演技して見せる。

『そっかあ・・・。サーコのやつ、出て行ったのかあ』

 それでも、徹流は大いに落胆したらしい。

 その心の機微が、彩に伝わってくる。

 サーコと違って徹流は、男のくせに存外気が弱い。

 もっとも、「色男、金と力はなかりけり」と昔から言っているようだが。

「じゃ、徹流君。お気の毒だけど、そういうことだから・・・」

『あ、彩ちゃん!ちょっと待って』

 電話を切りかけた彩に、徹流は打って変わった調子でそう呼びかけた。

「なあに?徹流君。そんなに慌てて」

『だから・・・。今から、飲みに行かないか?』

「今からって・・・今、何時だって思ってるの?

もうすぐ終電だって終わっちゃうのよ?」

『わかってるよ。帰りのタクシー代、俺が持つからさあ』

 頼むよ・・・と、徹流はすっかりその気になっている。

「・・・で。どこで飲むの? 六本木は嫌よ」

『どうして?』

「今日、金曜日だもん」

 今頃、あの界隈は、うんと背伸びした十代の少年男女や、芸能人や業界人目当てのやたらとスレた女子大生、或いは花金を大いにエンジョイしているOLたちでひしめきあっているに違いない。

 それだけで、立派な反対理由になっていると、彩は思う。

「・・・うん。うん。それなら了解。サーコと三人で飲みに行ったあの店ね。じゃ、また後で」

 ほーっと一つ溜息を吐き、彩はようやく、電話を切った。



 そして、所は西麻布。

 徹流が指定したその店は、居酒屋をちょっと洋風にしたような、和風パブである。

「彩ちゃん!こっち、こっち」

と、奥から声がした。

 彩が店の奥へと歩を進めると、白いポロシャツ姿の徹流が4人掛けのボックス席に座っていた。

「暫くね。こんな形で再会するとは思ってなかったけど」

 淡いブルーのニットのカーデを脱ぎながら、彩は席に腰掛ける。

「キツイなあ。彩ちゃんも・・・。段々、サーコに似てきたんじゃないか?」

「え?サーコに?! やあだ。あれっ・・・でも、そうかしら」

 徹流の一言に律儀に悩んでいる彩を見ながら、徹流は笑いを漏らしていた。

「ほんと彩ちゃんて、変わらないなあ」

「何?どういう意味?」

 彩は小首を傾げた。

「彩ちゃんは彩ちゃんだってことだよ」

 そう呟きながら、

「それより。今夜はわざわざ来てくれて、有難う」

 徹流が頭を下げる。

「また、サーコの相談?」

「その通り!」 

 徹流は一言、済まないと詫びた。

「やあだ、徹流君。よしてよ。いつものことじゃない」

「それ言われると俺、弱いんだよなあ・・・」

 どうやら、彩の一言は不用意な発言であったらしい。

 少なくとも、ナイーブな徹流には堪えたと見える。「サーコのことなら、心配いらないわよ。またいつもの気まぐれでしょ。三日もしたらケロっとした顔して戻ってくるわよ。・・・徹流君の所にね」

「そうかなあ」

 半信半疑といった顔つきで、徹流は水割りをロックで()っている。

「そうよ。だから、元気出して!」

「・・・彩ちゃんて、毎度のことながら。優しいんだね」

 徹流は早くも酒がまわってきたのか、妙に熱っぽい目で、彩を見ている。

「彩ちゃんの彼氏が羨ましいよ・・・」

 徹流がからりと、グラスの氷を響かせた。

「私・・・。彼氏なんていないわよ?」

 その瞬間。

 徹流はさも驚いたように、彩の顔を見つめた。

「だ、だって彩ちゃん。サーコと違って優しいし、こう言っちゃ何だけど、か、可愛いじゃん!俺、てっきり・・・」

「彼がいるなんて思い込んでたの?」

「ああ」

 その通り!と言わんばかりに、徹流はしきりと頷いている。

 その様子がおかしかったので、彩はくすくすと笑い始めた。

「どうでもいいじゃない。そんなこと」

「あ、ああ。そうだな。どうでもいいことだよな・・・・」

 ハッと我に返ったように、徹流は残っていたグラスを一気に空けた。

「俺・・・サーコの何処に惚れたのかな」

 徹流は空になったグラスを見つめながら、そう呟いた。

「サーコは、綺麗だから・・・」

「美人てだけで惚れたんだったら、自分が情けないよ」

「でも、根はいい子よ」

 彩は更に言葉を続けた。

「サーコの良さは私、徹流君が一番良く知ってると思ってたんだけどな」

 彩は、おつまみのアーモンドを一粒、頬張った。

徹流は一瞬、彩の目を見つめ、

「参ったな・・・」

と、一言苦笑した。

「彩ちゃんにはいい迷惑だったろうけど、今夜は飲みに来て良かったよ」

「なんのお手伝いもできませんで」

「十分だよ、彩ちゃんに逢えただけで」

 新しいグラスを片手に、徹流は彩を見つめている。

彩はなんとなく面映ゆかったが、その時、徹流の笑顔は、大輪の薔薇を思わせる咲和子の笑顔にどこか似ている気がした。



 ピロリロリン・・・ ピロリロリン・・・

「はあい!はい。ちょっと待ってえ!」

その時、キッチンに立っていた彩は律儀にも、鳴り響く携帯の着信音に向かって、電話に出る前から返事をしている。

「あ、なんだ!徹流君。何。どうしたの?」

 電話の相手は、やはりと言うべきか徹流だった。

「・・・え?フランス料理?」

『ああ、同僚に良い店紹介してもらったんだ。今夜は花金だし、都合どう?』

「でも、高いでしょ」

『心配するなよ。俺、給料出たばっかだしさ』

「う、うん・・・行きたいんだけどお」

『なんだ、先約有り?』

「ううん。行きたい! ただ・・・」

 彩はキッチンを振り返りながら、

「あ!そうだ」

と、突然、大きな声を出した。

「あのね、徹流君。今夜、暇?」

『そりゃ、空いているからこうして誘ってるんじゃん』

「あ、そーか。あ、あのね・・・」

 彩は少し、躊躇いながらも、

「今夜、私の手料理。食べに来ない?」

『なんでまた、突然?』

「今、丁度、お料理作っているところなの。サーコが出て行ってから、なんだか作る気なくしちゃって簡単なモノばっかり最近続いてたから、今夜は奮発してちょっと豪華なの。徹流君の分くらい、今から作ったら、丁度ディナーの時間だわ」

『そうかあ。彩ちゃんの手料理かあ』

 悪くないな、と徹流。

『で、メニューは?』

「スペアリブのローストと、ゆで卵のオードブル。マッシュドポテトに、コーンポタージュスープ。イタリアン風トマトサラダでしょ。デザートは、自家製カラメルソースをかけたプディングよ」

『うわ。俺、よだれ出そう』

「じゃ、来てくれる?」

『喜んで』

 話は簡単にまとまった。

『でも、何か悪いなあ。本当は俺が奢るつもりだったのに、逆に誘われちゃって』

「気にしない、気にしない。いっつも徹流君には奢ってもらってばっかりだったし」

『・・・あ。そうだ!俺、花束持っていくよ』

「え?花束・・・?」

『深紅の薔薇の花束をね。50本くらい』

「そんなに?!」

『そのくらいなくちゃ、見劣りするよ。かすみ草なんかでカモフラージュしたりもしたくないしね。それに、赤ワインだ』

「素敵・・・」

彩は、うっとりとした声を出した。

「・・・うん。そしたら、今夜8時ね。うん、待ってる。お料理が冷めないうちにちゃんと来てね。うん、バイバイ」

 そうして、彩は電話を切った。



 コッチ・コッチ・コッチ・コッチ・・・

 リビングの西側に掛けてあるアンティークな振り子時計に、彩は目を遣っていた。

「遅いなあ、徹流君。どうしたんだろ」

テーブルの上には二人分の手料理と、ワイングラスが二個ぴかぴかに磨かれて置いてある。

 そして、テーブルの中央には、いつもの一輪挿しではなく、大きなクラシカルな花瓶が陣取っている。

 勿論、徹流が持ってくるはずの50本の薔薇を飾るためである。

 彩はここ一ヶ月の出来事を思い返していた。

 一ヶ月・・・咲和子が出て行ってから、もうそんな日数が経っている。

 せいぜい一週間で戻ってくるだろうと思っていた咲和子の家出は、半月ほど前に一度電話が繋がって以来、咲和子の行方はしれなかった。

 もっとも、電話での咲和子の声は実に明るく、束の間だかなんだかわからないがとにかく、徹流以外の男友達(ボーイフレンド)との生活を大いにエンジョイしている様子だった。

 一方、徹流はと言うと、咲和子の情報を掴みたいがため、ちょくちょく彩に電話をかけている。

 しかし、その度に済まなさそうな返事をしなければならない彩に気を遣ったのか、徹流は最近、彩を誘うようになっていた。

 先週の日曜日など、浦和のディズニーランドへ一日遊びに行って来たくらいだ。

 割と単純で、気も金払いも良い徹流なので、彩も結構気安く誘いに乗っていた。

 それにしても徹流は来ない。

「・・・情が。移っちゃったかなあ・・・」

 彩は無意識に、そんな言葉を口に出していた。

徹流君・・・いい人だよね。

 サーコってば、徹流君の何処が気にいらないんだろ。

 全く、咲和子はわからない。

でも。

 いつでも咲和子は女王様だ。

 華やかで、自信に満ち溢れていて、いつも取り巻きに囲まれている。

 そして、女の彩でさえ、つい見とれてしまう美貌。

咲和子の前では、深紅の大輪の薔薇でさえ、色褪せて見えるだろう。

 徹流もそんな咲和子に参ってしまったのだ。

 彩には深紅の薔薇は似合わない。

 淡いピンクか、いや、それこそかすみ草こそ相応しい。

 咲和子が薔薇なら、彩はそれを引き立てる無数のかすみ草のような存在だろう。

 でも。

 と、彩は思う。

 私のことだって徹流君、「可愛い」って言ってくれた・・・

 今夜だけは私も主役。

 徹流君と二人きりの晩餐会。

 私も今宵一晩くらい「薔薇」になれる・・・かな。

徹流君の好きな深紅の薔薇に。

徹流君─────── 



「・・・ヤ。アーヤってば!」

「ん。え・・・?あ・・・」

「たっだいまー、アーヤ!留守中どうもご苦労様」

「サーコ・・・」

開いた目の前には、一ヶ月ぶりの咲和子がいた。

「何よ、このご馳走。それも二人分?・・・あ、まさか、私が帰ってくるのを見越してたわけ?さすが、親友!」

などと、勝手なことを言いながら、咲和子は無遠慮にローヤルブレッドのロールパンをちぎって、口に運んでいる。

「留守中、何か変わったことあった?」

「う、ううん・・・別に」

 彩はまだ状況を掴めていない頭で、無意識に壁時計へと目を遣った。

「8時・・・」

 正確には、時計の針は8時10分前を指している。

 勿論、徹流と約束していた午後8時ではない。

 カーテンを閉めていなかった南側のベランダからは、明るい陽光が差し込んでいる。

「私・・・。眠って・・・」

「え?なんか言った?」

「う、ううん。何でもない」

 つまり、彩はあれから眠り込んでしまったのだ。 そして、そのままリビングで一夜を明かしたらしい。

「ねえ・・・サーコ」

「え?何」

「徹流君以外の、男の、人。どうしちゃったの?」

「あ、ああ。浩志のこと?アレねえ、バツ!」

 そう言いながら咲和子は、早くも二つのパンを平らげた両手を使って、頭の上で大袈裟にバツ印を作って見せた。

「最初の半月は良かったんだけど、喧嘩して飛び出しちゃってぇ」

「半月、て。もう一ヶ月になるじゃない」

「で、後は光平でしょ。聡にぃ・・修。んで、一昨日までが夕樹のとこでえ・・・」

「わかった。もうなんにも言わなくていい」

 咲和子のこととは言え、彩は呆れてそっぽを向いた。

 真面目に聞いた彩が馬鹿を見た。

「・・・で。夕べが。徹流のとこ」

 え?!

 彩は瞬間、咲和子に視線を遣った。

「聞いて!アーヤ。徹流ってば可愛いのよ。私がさあ、あいつのマンションに行ったら、あいつってば、深紅の薔薇の花束なんて買い込んでて。聞けば、そろそろ私が帰ってくる頃なんじゃないかって気がして、用意してた、て言うのよ。さすがは長年つきあってきた恋人同士の仲よね。それでね、徹流ってば・・・」

「サーコ・・・!!」

「え?何。そんな大声で」

 アーヤらしくもない、と言う咲和子の言葉を遮り、彩は言った。

「徹流君・・・。今、何処」

「あっ、そうだ!そうよね。徹流!」

 咲和子はそう声を大にしながら、振り返った。

「徹流君・・・」

 ゆっくりとドアが開くとそこには、深紅の薔薇の花束を抱えた徹流が、俯き加減でそこに立っていた。

「私たちね、今から横浜へドライブに行くの。で、一ヶ月分の荷物とあれ。あの花束を置きにきたのよ。・・・徹流!何そんなとこに突っ立ってるの。入ってきなさいよー」

 咲和子は何の疑いの欠片もない無邪気な瞳をして、再び、徹流を振り返った。 

 そして、簡単にメイクを直すと、徹流の右腕に両腕を絡めて部屋を出て行こうとする。

「サーコ・・・!!」

「何?徹流までそんな大声出して」

「俺・・・」

 徹流はそのまま、口籠もっている。

「何よ、早く行きましょうよ。ねえ、徹流」

 咲和子は、小さな子がするように、徹流の腕を引っ張っている。

「俺。彩ちゃんに話、あるんだ。先行っててくれないか」

「アーヤに?」

「・・・徹流君」

「そう?だったら私、車で待ってるわ。でも、早く来てね」

 咲和子はそう言うと、鼻歌交じりで部屋を出て行った。

 後には、リビングに徹流と彩だけが残される。

 一瞬の静寂(しじま)

「彩ちゃん・・・俺」

 ボーン、ボーン、ボーン・・・

 その時。

壁の振り子時計が、8時の時報を知らせた。

 ビクリ、としたように、二人同時に時計を見る。

 ボーンンン・・・

「・・・ぴったり。ジャスト8時、ね」

「彩ちゃん!俺・・・。俺、君に悪いこと。してないか」

俺、君に・・・徹流の声は、すこぶる真剣な、今まで彩が聞いたことのないくらい真摯な声だった。

「俺・・・」

「来てくれて、有難う」

 彩は小声で呟いた。

「彩ちゃん、ごめ・・・」

「徹流君!」

 彩はそう言うと、それまで逸らしていた目をしっかり前へと見据えた。

「徹流君、聞いて」

 一語、一語、彩は言葉を噛みしめている。

「もう・・・私に。サーコの相談だけはしないで、ね」

「彩ちゃん・・・」

「そんな顔、しないで」

 彩はその時、確かににっこりと微笑んでいた。

「指切りげんまん、約束よ。・・・ね」








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― 新着の感想 ―
[良い点] 初期の頃は、まだ改行が少なく、文章も拙いのに、今はかなり成長していて、上品で気品溢れる文体に変わっていて、人って成長するんだな……と思いました。
2019/02/01 06:58 退会済み
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