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第2話

よろしくお願いします。

 光が収まると眼前には鬱蒼と生い茂る森だ。


「え?」


 右を見ても森、左を見ても森、後ろを見ても森。

 どうみても森だった。

 

「森?」


 どういうことなんだ。

 一瞬で地下から地上に移動しただと?

 移動・・・。


「ッ泡姫!」


 そうだよ、俺は泡姫に行かなきゃ行けないんだ。

 俺の可愛いわんわん達が待っているんだ。

 こんな分けわかんない場所から早く泡姫に行かなければ!


「待ってろ俺の可愛いわんわん」


 俺は走った。

 この道なき道を、勝利へと続くビィクトリーロードを!


「うおおおおおおお」


 木立を抜け、雑草を踏みしめ、ともかく真っ直ぐ駆け抜ける。

 俺は駆け続けた、森林を超え、小川を飛び越え、それでも走り続けた。

 そして小屋を見つけた。


「しゃああああああ!」


 目の前には小屋がある、つまり人がいる、つまり現在地がわかる、つまり泡姫に行ける、つまりわんわんとにゃんにゃんできる、つまりは朝チュン。

 少し飛び越えた気もするがこれが示すことはつまり。

 小屋がある=朝チュン、ということだ。

 段取り八割という言葉がある。

 つまり俺は既に目的の8割を完了していた。


「恐ろしい恐ろしすぎる、自分でも恐ろしく切れる頭だと思うぜ。さ、残りの二割をちゃちゃっとすませるか」


 トントン


「すいませーん」


 なんの反応もない。


 ドンドン


「誰かいませんかー」


 反応がない。


 ・・・これは、いきなり躓いてしまうパターンなのか。

 小屋と人がこの二つが繋がらないと方程式が崩れてしまう。


 ッドンドンドンドン!


「誰かー、誰かいませんか、道に迷ったんです」


 こんなに礼儀正しくノックしているというのに。

 ドアも開かねぇ、こりゃ居留守か。

 

「くそっ、こうなりゃ、ダイナミックお邪魔しまーす!」


 ドアから数歩下がり、勢いを突けてドアを強引に蹴り開く。


「ゴラー、出てこんとはどうゆう了・・・・・・」


 中には粗末な恰好をしている、虎人族《ワータイガー》の少女が部屋に隅で怯えていた。


「ッヒィ」

「・・・」


 どういう状況だこれは、・・・さすがに予想はしてなかったぜ。

 もっとこう、なんていうか、「ガハハハ!元気な小僧だな!」「よお、おっさんココどこよ?」「ガハハ!ここは南領ミーナミじゃ!」「そうか、ありがとな、じゃあな!」「ガハハ!忙しい小僧じゃ!」この感じで気持ちよく旅立てると思ったんだけど。

 いたいけな少女を怖がらせてしまったとは。

 いつだって現実は厳しいな。

 やれやれ。

 

「ッヒ」

「そんなに怯えなくていい」

「・・・・ィ」

「俺は優しいって評判なんだ」


 ゆっくり一歩ずつ少女に歩み寄る。

 少女はより一層怯えを深めた。

 俺はより一層笑みを強めた。


「怖くないぞ」

「・・・・・・」


 壁を背にしている少女は恐慌状態に陥り、ガタガタと全身が震えだす。

 ん?なんか反応が悪いな、もっと紳士に声をかけろラベンダー。


「安心しろ」


 一歩。


「両親はどこだ?」


 一歩。


「もしかして」

「・・・」


 一歩。


「・・・一人か?」

「ァァ、」


 一歩。


「イヤァアアアアッ!」


 突然、弾かれたように壁に立て掛けてある古ぼけた剣を手に取り、少女が斬りかかってくる。

 

「ちょっ」


 袈裟に振り下ろされた剣先を寸でのところで身体を半歩ずらし躱した。


「ァァアァアア!」


 躱されると見るや、少女は流れるように身体を素早く回転させ右薙ぎに繋げる。


「----やべッ【ベリサルダ】」


 俺はなんとか振るわれる刃筋に合わせ、切り上げるように腕を振るう、交差する寸前に手に青白く光る白剣を現出させ、少女の持つ剣を弾き飛ばす。

 室内には甲走った音が響き渡る。

 己の油断と少女の技量が重なり命が斬り飛ばされる寸前だった事に、肝が縮み冷や汗がどっと出てくる。

 

「・・・あっ」

「危なかった、今のは危なかったッ」

 

 激しくなる動悸を抑え、白剣を霧散させながら素早く少女に向き直り、少女に掌をかざす。


「おい、どういうつもりだ?」

「あっ、あっ・・・」

「俺は道を尋ねに来ただけだ。これはさすがに冗談じゃすまねえぞ」


 少女は力なく膝から崩れ、項垂れ落ちる。


「・・・ァアア」






 虎人族(ワータイガー)の----ガーディと名乗る少女。

 両親が昔に罪を犯した事

 物心ついた時には隠れるようにして暮らしていた事

 近くにある村では腫れ者扱いである事

 両親は半年前に病で亡くなった事

 僅かな遺産を崩しながら食べている事

 時折訪れる行商人の態度が最近おかしくなってきた事

 そのタイミングで怪しい青年が家に入ってきて頭が真っ白になってやってしまった。

 と、ガーディは話しているうちに込み上げてきたのか涙を溢しながら語った。

 

「そうか(・・・話が重い)」


 俺の誤解が解けたのはいいとして、ポロポロ泣いてるよ。っあああ、どないしょ。

 保護してもいいけど、中央域じゃないと越権行為になるし、なんか訳ありみたいだし、やっぱ悪いけど助けれないかな。

 それにしてもこれだけ重い話だと現在地を聞いて、ハイさよならはしづれぇな。

 どうしたもんか。

 眉を寄せて考えていると、怒っていると勘違いしたのかガーディが焦りだす。

 

「っごめんなさい!私、私・・・・・・」


 目を真っ赤にし、涙の跡が頬に残るガーディをみると胸が痛む。

 

「勘違いするなよ、怒ってるわけじゃない」

「でもッ」

「いいからガキが細かい事気にすんな、俺が大丈夫って言ったら大丈夫だ」


 俺は快活な笑みを浮かべはっきり言い切った。

 少女は少し呆気にとられた後、小さな声で言った。


「・・・はい」


 しんみりした表情になりながらも、柔らかい笑みを浮かべ少女は言った。


「俺も悪かったな、勘違いさせたみたいでよ。」 

「あ・・・」


 頭を撫でながら優しく語りかける、少女は少し驚きながらも受け入れた。

 人恋しいのだろうか、少女を見てると切なくなる。


「頑張ったな」


 少女は込み上げてくるものがあるのか、涙ぐみながら鼻をすすった。

 少しの間撫で続け少女が落ち着いたのを確認して、気持ちを切り替える。


「じゃあお暇させてもらうか、あ、悪いが村までの道を教えてもらえねぇか?」

「あ、あの・・・」


 俺は笑みを浮かべできるだけ優しく声をかける。すると少女は少し俯きもじもじして何か言いたそうにしてる。

 そのうちに言うべき事が決まったのか、顔を上げ。


「あのっ、泊まりませんか?」

「え?」


 外を見ると日が暮れ始めている、土地勘のない道だしどうしようかと悩む。

 少女を見ると全身から泊まっていってもらいたい、という気持ちが見える。

 少女の慰めにもなるならと、言葉に甘える事にする。


「いいのか?」

「はい」 

「そうか世話になる。俺はラベンダーよろしくな」

「っはい!」


 嬉しそうな笑顔で答えるガーディ。

 泡姫ぇ。





  

 ユラユラ揺れるカンテラの明かりが室内を薄く照らしている。


(ずいぶんレトロな家だな)


 部屋の中には魔導器のたぐいが一切なく、まるで時代に取り残さているかのようだった。

 発展の遅れる地方に行けばこんなものかと思い直すが、どんな辺境に飛ばされてしまったんだと暗澹(あんたん)たる気持ちになる。

 そんな事を考えていると部屋に漂うスープの香りに腹の虫が疼きだす。

 そういえば晩飯を食べていなかったな、と思いながらスープの世話をしているガーディの後ろ姿を眺めた。

 継ぎ接ぎされたカラフルなワンピースの臀部(でんぶ)から生えている縞模様の尻尾をゆらゆら揺らしながら、パタパタと動いてる、機嫌が良さそうだな。

 斬りかかられたのは苦い思い出だけど、突然押しかけた男を泊めようとするわ、食事の世話するわ、彼女は随分優しい子なんだと思う。

 反対に俺は少女の世話になるだけ、・・・なんか申し訳ないなくなってきたな。

 ボンヤリと、とりとめのないことを考えていたらスープが出来上がったらしい。

 彼女がスープの入った皿を配膳しにきた。


「どうぞ召し上がれ」

「おう、悪いな」


 旨そうなスープが並べられた、腹の虫がとたんに騒ぎ出す。


「いえっ、お詫びもありますから」

「じゃあ頂くぜ」


 彼女に待ちきれんとばかりに宣言する。

   

「どうぞ」


 頬を綻ばせながら答えてくれる彼女の魅力的な笑顔にほっこりしつつスープにがっつく。

 肉は少ないが旨い。

 

「旨いな」


 腹も空いていたのか入る入る。


「わあ、嬉しい」


 みるみる無くなっていくスープを見てガーディは満面の笑みを浮かべる。

 うん、泣き顔よりやっぱり笑顔が良いな。


「実は腹が減ってたんだ助かる」

「沢山食べて下さいね!」

「おうっ」


 お代りしてしまった。

 なんか大人として恥ずかしいな、ドアを少し壊しちゃった上、宿借りて、飯食ってお代わりして。

 何か助けれる事があったら手助けぐらいしてもいいか。

 そんなことを思いながら少しペースを落とし食べ続ける。


「ガーディ、俺は森の中で迷子になっちまってな、中央域西領に帰りたいんだか、ここは何域なんだ?」

「何域・・・ですか?」


 転移の事情は伏せ、おおざっぱな場所を聞くとガーディは戸惑いながら不思議そうな顔して答える。


「中央とか西とか南とかさ」

「ええと、中央、西、南?」

「そうそう」

「・・・ごめんなさいわかんないです。ここはウェアリル王国のウーリル伯爵様の領地で、近く村はハジセっていいます」

「ん?ウェアリル王国?」

「はい」

「またまたー冗談きついぜ、大人を担ぐなよ」

「・・・あの、本当ですよ」

「マジ?」

「はい」


 冗談がきついと突っ込みを入れたら、本気トーンで返された、まじですか。

 オイオイ、ウェアリル王国なんてそんな国聞いた事ないぞ、どういう事だ。

 俺はどこに転移したんだ?

 いやまてまて落ち着て落ち着け、俺は逸る心抑える。

 こういう時はとりあえず大前提の確認だ。


「ここは巨人(ワンケ)大陸か?」

「はいそうですよ」

「あの有名な巨人(ワンケ)が倒れてできた大陸?」

「はい」


 きょとんとした顔をして答えるガーディ。

 その答えに固まる俺、巨人(ワンケ)大陸であってほしかったし、巨人(ワンケ)大陸であってほしくなかった。

 別の大陸に転移したんだとしたら、まあその場合は死ぬ気で頑張って帰ればいい。

 けど、ここが巨人(ワンケ)大陸なんだとしたら、俺はどこに帰ればいいんだ?


(俺は・・・)


 その時、ストンと心の中で落ちるモノがあった。

 あの地図か。

 

「そうかサンキューな」


 あまり考え込むのも変だし、俺は質問を打ちきり礼を言った。

 ガーディは俺の様子を察したのか、少し曖昧な笑みを浮かべる。

 それからは大した事は喋らずにご飯を食べる事に集中した、そんな俺をガーディは優しく見つめてる。


「ごちそうさん」 

「お粗末さま」 


 結局、鍋いっぱいのスープを全部食べてしまった。

 あれから何度もお代わりをした俺をかいがいしく世話してくれたガーディ。

 欲しいときに水も用意してくれて、まるで嫁さんをもらった気分になってしまった。

 荒んだ俺の心にガーディの慈愛がしみるぜ。

 それになんというか、癒すつもりが癒されてしまった。

 

「うまかったぜ」


 微笑みで返された。

 あーお腹いっぱい、腹がくちくなったら寝むくなってきちまった。

 考えたいことあるし聞きたいことあるけど、ちょっと休んじまうか。

 俺の子供のような反応にガーディは瞳を優しく染める。

 この子包容力高すぎ。







 僅かな気配を感じ眼が覚める。

 室内には薄暗い月明かりが差し込み、辺りは夜の静穏に包まれていた。 

 勘違いだったかなと思い、寝ようとするも、目が醒めてしまったのでこれからの事を思案する。

 泡姫を目指すのは当然の事としてとりあえず一旦保留だ。

 なぜ自分が転移してしまったのか、これを考えるか。

 転移した原因はあの地図なんだろう、なんせあれだけ“力”が(あふ)れていた。

 本来、転移するとなると途方もない莫大な“力”が必要になる、それこそ可視化できるほどの力が。

 その可視化できた“力”をあんな地図に籠めるのは非常識も(はなは)だしいが、現実に起きたことだから認めるしかない。

 つまり、あの地図は巨人の遺失物(アティーファクト)であると。

 地図の長耳族(ハイエルフ)が語っていた内容は、誰もが知っているこの大陸(ワンケ)の昔話だ、俺もガキの頃から聞かされてきたからよく覚えている。

 ただ、俺の知ってる話と長耳族(ハイエルフ)の語った話は違いがある。

 巨人(ワンケ)が倒れ大陸となり様々な種族が生まれ、皆仲良く暮らしました。

 俺の知っている話を要約するとこんな内容だ。

 あの長耳族(ハイエルフ)が語った、人族(ヒューマン)を除く族人達に力を与えましたなんて一言も聞いたことがないし、そんな文献を見た事もない、ましてや6族の凄まじい力なんて一瞬たりとも感じた事ないぞ。

 それに全族人は皆対等だ、好き嫌いや一方的な忠誠心みたいなモノはあっても、奉仕したり搾取される関係はない。

 それに地図(アーティファクト)の封印を解いた後の、地図上の国家群これはどうゆう事なんだ。

 

(国家群?あれ、もしかして)


「静かにして下さいよ」

「分かってる」


 考え込んでいた俺の耳に、ひそひそと喋る男達の話声が聞こえた。


「ドアが開くぞ」

「オイオイ不用心だな」


 小さな含み笑いを溢しながら静かに部屋に侵入してくる男達。


(何者だ?)


 俺は扉を壊したことを再度反省し、少し様子を伺う事にする。 

 部屋の中は薄暗く容易に周囲を見渡すことができない、頼りない月明かりが照らしているガーディを除けば。

 身体を起こし扉に視線をやると、三人の人影がガーディの方へ向かった。

 そうか、こいつらが行商人か。

 

「・・・一気に縛るぞ」


 人影は、なにやら自分たちの身体をまさぐり縄を取り出しているようだ。

 虎人族(ワーウルフ)の少女は、それに気付かず楽しそうな寝言を(こぼ)している。


(っておいおい気付いてないのか、獣人系なのにえらく感覚が鈍いな)


 人影達がガーディに飛び掛かる。


「キャ、ッラベンッ止めて」


 事態を咄嗟に飲み込めなかった少女が俺の名を叫ぶ。

 心に苦いものが走るが、少々の辛抱だからと、心の中でガーディに詫びる、俺が襲っているとは思ってないよね?

 月明かりに照らされた少女はその肢体を男達に抑えられ、縛られていく。

 必死に抵抗するも虚しく、うつ伏せに抑えられた少女は後ろ手に縛られ、口には猿轡をかまされ嗚咽をもらしていた。


「じゃあ、お楽しみといこーぜ」

「へへ、せっかくだからな」

「話が違いますよ!」

「おいおい野暮言うなよ」


 一人の男が腰に手をかけ剣呑な雰囲気を放つ。


「そんな」

「ちょっと味見するぐれぇだ、なあ、いいだろ」

「・・・わかりました、但し傷はつけないで下さいよ」

 

 ガーディはくぐもった悲鳴を上げ、逃げようと寝台の上を必死に這っている。

 男達はその様子を見るや笑い声をあげ、(あざけ)りの声をかける。

 すると男達の笑い声を聞きつけたのか、もう一人が室内に入り、かわりに商人らしき男が外に出ていく。


「傷はつけないで下さいよ!」


 まったく売り物なのに、とぶつぶつ言いながら商人は出て行った。


(四人で全員か)


「へへ、6族とやるのは初めてだぜ」

「俺もだ」


 男達は乱暴にガーディを仰向けにすると、ワンピースが捲れガーディの下肢が露わになる。

 薄暗い室内に差す淡い月光に、瑞々しい肢体が眩しく(さら)される。

 男達の喉がゴクリとなった。

 誰が最初に行うかで男達は言い合いとなり、室内には再び剣呑な雰囲気が満たされた。

 互いの腰に手がかかり、俺だ俺だと言い争う男達。


(不法侵入、見做し(みなし)監禁、人身売買に暴行罪。お前ら役満だよ)


「揃ってふっ飛べや【マルテ】」


 男達に向かって手をかざし、言い放つやいなや力を解き放つ。

 青白い閃光が奔り、呆気にとられている三人の男達を背後の家屋ごと飲み込み込んだ。

 ふうと溜息を吐き、閃光の軌跡を見ると壁には大穴が開き一人の男が倒れているが、二人の男には影響がなかった。

 

「【ベリサルダ】」


 舌打と共に、まだ茫然としている男に素早く肉薄し、腕を振るう、振るわれた腕には瞬く間に白剣が現れ男の首を斬り飛ばす。

 飛ばした首が落ちきる前に次に斬りかかるが、茫然としていた筈の男は正気に返っており、甲高い音と共に弾かれてしまう。

 男は上体のおよいだ俺を蹴り飛ばし、ガーディに剣先を突きつける。

 

「動くな」

 

 俺は白剣を霧散させ、何気なく立ち上がろうとするが。


「っ動くな、女を殺して―のか」

 

 立つことを諦めた俺は床に胡坐をかく。

 男は、緊張した面持ちのまま俺の挙動に注意を払っている。


「テメエ、どっから湧きやがった」

「部屋の中にいた」

「ちっ、そーかよ」


 男は忌々しそうな顔する。


「ガーディを離せ、今なら見逃してやらんこともない」


 男を睨みつけ強気で言い放つ。

 視線でガーディを確認すると潤んだ瞳でこちらを見つめている。

 もう少しの辛抱だからな。


「ふざけんなよテメエ、ダストとディファクトを殺しやがって、逆に俺が見逃せると思ってんのか!」

「いいか?俺は一瞬でお前は消し炭にできるんだぜ」

「やってみろよ、さっきみたいな虚仮落としよ、アア!」


 逆上した男の剣先はより一層ガーディに近づく、ガーディはくぐもった悲鳴を上げながら必死に首を逸らす。

 俺は抵抗の意志が無いことを示すために、表情を緩め、全身の力を抜く。


「それでいいんだよ」 


 男は浅く息を尽き。


「雇い主さんよ!」


 男は油断なく俺を見据えたまま、外にいるであろう商人に声をかける。

 ドアから恐る恐る室内を覗きながら商人が入ってくる。


「そいつを縛れ」


 室内の様子に合点がいったのか、強張った顔をしながら慎重な歩みで俺に近寄ってくる商人。

 

「そいつは魔術師だから気を付けろよ」

「ではさっきのあれは」

「そうだ、そいつがやりやがった。ダストとディファクトはお陀仏さ」


 商人は俺と目が合うと速攻で逸らし、縄をかけていく。


「どういう種でそんなポンポン魔術が使えるのかしらねぇが、とりあえず大人しく縛られてくれや。ところで兄ちゃん、なんでさっきの魔術は俺とディファクトには効かなかったんだ?ああ、答えないとわかるな?」

「・・・俺の魔術は(理術だけど)金属との相性が悪い、特に装着者の愛着のある金属だと駄目だ、金属にも思いがあるからな。さっきみたいに鎧が魔術から装着者を守るんだよ。あんたら、服の下にチェインメイルでも着てるんだろ?」

「そうか。それでダストは駄目だったのか。・・・じゃあなんで俺の剣は弾けた?」

「俺の愛着も関係あるからな」

「ちっ」


 商人に後ろ手に念入りに縛られ、猿轡を噛まされる。

 

 その様子をみた男はようやく深い息を吐いた。


「それで魔術はできねぇな、残念だったな兄ちゃん死んでくれや」


 男はガーディにかざした剣を引き、ゆっくりこちらに歩み寄りその剣を大きく振り上げる。


「じゃーな」


 理術は想いを現実に変える。

 だから呪文は必ずしもいるわけじゃない、呪文はイメージを明確にし、愛着をもたせてくれるから使ってるだけだ。

 それとな、愛着はあればあるほど望む(・・)形で現出する。


(・・・・・・)


 信頼できる剣の名を胸の内で唱える。

 俺を縛っているロープが淡く光るとバラバラになって崩れ落ちる。

 魔導官として何回このケースを訓練したことか、実際に人質にされたこともあるくらいだ。

 拘束したかったら愛を籠めた鉄の枷でも持ってくるんだな。


「【ベリサルダ】」


 振り下ろされた一撃を滑らせるように受けながし、弧を描く軌跡が男の両足首を切り裂いた。

 男は振り下ろした姿勢のまま、前のめりに倒れてくる。

 

「じゃーな」


 俺はちょうどいい位置にきた男の首を返す刀で斬りつけるると、商人に向かって飛び掛かり剣を突きつける。


「ひぃぃい」


 怯えた商人は腰が抜けたのかその場にへたり込んでしまう。


「それじゃあ楽しい尋問の時間といこうか?」

ありがとうございました。

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