第1話
初めまして、よろしくお願いします。
何分初めてなものですから、よろしければご指摘、ご感想をお願いします。
俺は苛立っていた。
本来なら今頃は、最近ハマッている大人のお店、泡姫に行って極楽浄土に逝っている最中の筈であった。
それがなんの因果か知らないが、地下室の掃除を押し付けられてしまって、予想とは裏腹に地獄へと下っている。
俺の所持している泡姫のメンバーズカードのスタンプ欄は全て埋まっており、今日行けば晴れて【皇帝】にジョブアップすることになっている。
皇帝なれれば、店の上位3名である精騎士の子達を指名できるようになり、さらに裏メニューの酒池肉林を頼めるのだ。
泡姫に勤めている者たちのレベルは高く、彼女達の重い期待に応えるべく俺は日々厳しい修行を自分に課している。
その修行の成果を見せる晴れの日の筈だったのに、自分は今地下室に向かっている。
不条理だ、と俺は思った。
それと同時に精騎士を想像し、グフフと思った。
そうだ、さっさと掃除を終わらせて店に行ってしまおう。
俺なら30秒あればいける、と謎の自信を携え地下を下りていく。
目の前には古ぼけた木製の扉がある。
ふと思った、やっぱり中に入るのは不味いと。
掃除を用つけた者によれば、地下室の掃除はどんなに頑張っても明日の朝までかかるらしい。
つまり始めてしまえば最後、俺は皇帝になり酒池肉林を楽しむことができなくなってしまう。
(ここが俺の分水嶺)
俺は己の一生に一度訪れるか訪れないかの天機を感じる。
人には為さねばならないことがあり、それに気付く者もいれば気付かない者もいる。
そして自分は気付くことができたと。
部屋を一瞬で片づける方法を。
突き出した掌に想いを乗せる。
そして世界と自分を繋ぎ、現実を塗り替える。
「【マルテ】」
“力”ある言葉と共に掌から放たれた破壊の光は目の前の扉を打ち抜き、部屋をも飲み込んだ。
凄まじい破砕音と振動が辺りを包む。
辺りはひっそり静まり返っていた。
突き出した掌を下して、拳を握る。
力を籠めすぎた拳が白く染まる。
(やった)
震えは全身を包み、そして。
「ォオオオオオオオオオオオ!」
全身から凄い力を発して勝鬨を上げるが興奮が収まらず、昂揚感が包む身体を持て余す。
(滾る、全身が滾りおるわ)
今の俺なら何でもできる。
この惨状をお茶の子さいさいで誤魔化して、掃除を命じた高飛車な先輩の吸血族、生意気な後輩の虎人族、仕事をしない新人狐人族、兄のように慕ってくる新人の犬人族こいつら全員かまして哀願せることだって生ぬるい。
さらには俺を虫けら扱いする上司の長耳族だってひゃんひゃんいかしてやるわ。
おれは皇帝になるんだ!
そうだ、俺は最強だ、俺が最強なんだ!さあ泡姫に凱旋だ!
と自分の最強伝説に浸りながら立ち去ろうとすると、部屋の中には“力”が溢れていた。
(ぬぅ)
部屋を覗くと一枚の大きな羊紙皮がヒラヒラと宙を舞っており、俺が見つめると、ゆっくりと床に着地した。
それがどうやら“力”を溢しているようだった。
「なんだこれは、地図か」
床に胡坐をかき見てみると、そこには一つの大陸が描かれていた。
巨人大陸、俺がいる国であり、この大陸を統一している国だ。
「いたって普通の地図だな、この力以外は・・・・・・なんか封印されてんな」
俺は隠されているものが好きだった。
特に、階段を下から見上げるのは大好きだった。
ましてや、ぱっつんぱっつんの布に隠されていたりすると滾る。
「【ディック】ほー、ん、なかなか、こしゃくな、もうちょい、ちょい、ちょい」
地図に手を添え、封印を解く。
「よいしょっと!!」
声と共に辺りに溢れていた“力”が地図に集まり始めと、“力”はまるで渦を巻くようにして地図に吸収される。
渦がなくなった後には地図があり、その地図の上には小さい人形がいる。
「長耳族?」
その人形は長耳族を可愛くデフォルメした二等親の人形で、二等親の癖に仰々しい雰囲気を発していた。
人形はこちらを見上げ、
「リセットをなさいますか?」
と話した。
俺はすかさず。
「応!!」
サムズアップしながらの良い返事をした。
「かしこまりました」
人形は無機質な声で答えると、トコトコ歩いて来て俺の膝によじ登り、腰を下ろした。
「オイオイ、俺の膝はベンチじゃねーぞ」
「・・・・・・」
「オイ、って、なんだこりゃ?」
地図を見ると、地図に描かれている国がどんどん分割されていき。最終的には20を超える国となった。
そして地図の上には、二等親の人形がその国の数だけ現れた。
犬人族、 狼人族、 虎人族、 猫人族、 狐人族、 狸人族、 長髭族、 長耳族、 吸血族、 鬼人族、 竜人族、 龍人族、 そして人族。
「なんだこりゃ?」
「リセットが完了しました」
「よくできた人形だな」
ぼーっと見ていると、急にそれぞれの人形が動きはじめる。
犬は周りに愛想を振りまき、狼を虎に喧嘩を売り犬に叱られて泣き、虎はそれを買い犬に叱られて泣いている。
猫はまわりを気にせず寝だし、狐は周りの人を傅かしている。
狸は商品の宣伝をして、髭は何かを作っており、耳はドワーフを睨んでいる。
血は一人胸を張り、鬼は猫の近くで腰を下ろし酒を飲んでいる。
竜は龍を褒め称えて、龍は我関せずで飯を食べている。
「スゲーなこりゃ、まさに世界の縮図だな。じゃあ人様は何をしているのかな?」
狐に傅いている者以外は、畑を耕したり他の種族に奉仕している。
しかも楽しそうではなく、どこか辛そうに見える。
「おいおい、何だよ、まるで奴隷じゃねーか。人としてこれは許せんな」
「・・・・・・」
「よし、ひと肌脱いでやるか」
俺は意識を集中して、地図への干渉を試みる。
「【ディック】・・・なんだ堅いな、くそっ、こなくそっ!」
地図に手をかざして意識を集中してみると地図の力に触れる事はできたが、侵入していく途中で何か堅い物にぶち当たった感触があり、それ以上先に進むことができない。
こ・れ・は!!
テンションが上がった、他も上がった。
が今は役に立ちそうにない。
とにかく、この堅い物を抜けなければ干渉できそうにないが、破れない、まるで鉄の塊。分厚い鋼鉄の扉だ。
「くうぅうう!」
鋼鉄の扉に対して素手で挑んでいる気分になった。
まるでビクともしない。
押しても駄目、引いても駄目、叩いても駄目。
先ほどまでの全能感はなんだったのか。
「くそっ!!うぉぉおおおおおおおお!!!」
ドン、ドン、ドン――――ドン、ドン、ドン――――ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン!
駄目だ。
俺の必殺三三七拍子なら返事があるのかと思ったが、くそっ、俺はこれまでどんな封印も破いてきたというのに・・・それともまさか時代は魔導短長か?
まあいい、礼儀しらずな奴め。
さてどうするか。
・・・憂さ晴らしだ。
「えいっ」
とりあえず目の前で人を傅かせている狐にデコピンを食らわせる。
俺とのサイズの差もある為、狐は人と虎と犬と髭を巻き込んで派手に転がっていく。
「ざまぁ」
狐はプリプリ怒り、俺に向かって手を振り上げ抗議し、人はさらに辛そうな顔し俯き、虎は毛を逆立てさせ警戒し、髭は一睨みして黙って作業に戻った。
それを見ていた犬は虎を心配そうに眺め、狼は尾をパタパタ振りながら薄く笑った。
「なんだ地図の上から出れないのか、良い事きづいちゃった」
「リセットが完了しました」
膝の上の長耳族がなんかって言っているが無視だ。
俺は楽しそうに尻尾を振っている狼をつまみ上げてみる。
そのまま目線の高さまで持ち上げてみる。可愛くデフォルメされてはいるが、綺麗な子だった。
狼は楽しそうにしていた表情を澄まし顔に変え、尻尾をたらんと垂れ下げ、俺は冷めた瞳で見据えてくる。
「ふふふ、どこまで澄ましていられるかな?」
ラベンダーはそのまま、どんどん手を持ち上げていく。
狼の態度は変わらず、超然としている。
高く持ち上げタイトなスカートの中を覗き見るが、その一枚の布っきれはなかなかどうして防御力が優れており、その奥に隠されている秘境をしっかりと守っている。
「オラ、ワクワクしてきたぞ」
人形相手にいけない遊びをしている事に僅かな背徳感を感じつつ、さらなる興奮を求めもう一つの手が人形のスカートに伸びる。
自然と口角が持ち上がる。
「はあっはあっ」
「・・・リセットが完了しました」
こんなに興奮したのはいつ以来だ。
そうだ、兄の上にも三年に体験入店した時以来だ。
俺はロリコンじゃあないがあの子は凄かった、あの子に負けまいとグランドマスターになるまで店に通い詰めたのはいい思い出だ。
あの子は今どこで何をしているかな?元気でやっているかな?
少し寂しい気持ちになってしまった。
この心の隙間を埋めてもらおう。
ぺちっ
「ん?」
ぺちっぺちっ
相変わらず冷めた瞳のまま、彼女はその小さな手を、俺の白魚のような繊細な手に叩きつけている。
「オイオイ、なんだ?抵抗すんのか、へっへっへ、そりゃいけねぇえなあ、悪い事する子にはお仕置きだぁあー」
やる事は変わらないが、少し遠回りをした。
足先から撫で上げていき、撫で下ろす。
上下に撫でる、撫でる、撫でぇる。
徐々に範囲をスカートに近づけていき、指先がスカートの端に触れた。
ぺちっ、ぺちっ、ぺちっぺち、ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち
彼女は一心不乱に手振り下ろし、抵抗しているがそれは俺の嗜虐心を煽るだけであった。
「天使様のおなぁーりー」
「・・・リセットが完了しました」
持ち上げた、するとそこには純白に輝く天使がいた。天使は窮屈そうに身をよじり、こちらから身を隠そうとしている。
「天使様!」
ギュウゥ
「いてぇえ」
そこには俺の指先を摘み、屹然とした表情ながらも、両の目から涙を溢れさせている彼女の姿だった。
「おいおい泣くなよ、俺が悪かったよ」
何か悪いことをしたような気になってしまった。
自分は彼女の正しい成長を願い、心を鬼にしてお仕置きをしようとしていただけなのに。
世の中は不条理だ。
どうしようもないクソッタレだ。
しょうがないので俺は彼女を下ろし解放してあげた。
慰めようと頭を撫でると手を叩かれたので諦めた。
「はあー」
焦ったように狼に駆け寄る犬、狼は犬に抱きつきその頭を撫でられていた。その様子を少しだけ心配そうに見ている虎。
犬は優しい表情であやし、それに安心するようにくたーっと全身を弛緩させる狼。
頬に残る涙の後を輝かせ、彼女の顔には笑顔が戻っていた。
「なんかほっこりするなぁー」
この素晴らしい光景見て、やっぱり俺のした事は間違いじゃなかったと心に刻む俺。
守りたいこの笑顔を。
ッドン!
「っぐぅ」
顎に衝撃を感じ、下を見ると。膝の上の長耳族がこちらに杖を向けていた。
「テメー何すんだよ!」
「リセットは完了しています」
「なんだぁ・・・」
「・・・」
「で、どうすりゃいいんだよ」
「・・・」
「ちっ、まあいい、なんとなく分かった」
「・・・・・・」
「さっき感じたあの分厚い扉を抜ければいいんだろ」
「・・・・・・」
「無愛想なやつだな、・・・へへっ、それじゃあ仕切り直しだ」
人形に触って気付いた事があった、ただ強引に力を通すのではなく、パズルのようにチェスのように手順を踏んでいけば、扉を開けそうだと。
「つっても少々強引にいかないといけないんだけどな【ディック】」
そう、三三七拍子でもなく魔導短長でもなく、今は魔導ノッカーの時代だ!!
相手の魔導映像機に自分の顔が映っていることを想像し、最高のスマイルを浮かべる。
そして言うんだ。「消防の方から来ました」と。
扉が僅かでも開けばこちらのもの、すかさず足を突っ込み営業技能を駆使して相手 を口説く。
消火器を出せばこちらのものじゃー。
イメージ、イメージ!イメェージ!!
「っしゃ」
消火器で住民を殴りつけ、蹂躙し、わが道を進み続けると“力”があった。
その“力”に触ってみると、地図上の人族の国との繋がり感じる。
「ん?これって盤上遊戯か?」
「始めます」
膝の上の長耳族が声を発すると同時に、地図上の人形たちはそれぞれの国の上に陣取った。
そしてそれぞれの人形の足元にはさらに小さい人形が出現し、ワラワラとひしめき合っている。
先ほどまでの、和気藹々とした様子はすっかり鳴りをひそめ。ただ静かに人族を働かし、奉仕させている。
「人の国はほとんどが属国なのか」
人族の国から隣接する他種族の国に力が流れてくのを感じ、目の前の光景と合わせ不愉快になり、少し眉をひそめる。
すると膝の上の長耳族が話始めた。
「遥か昔、巨人ワンケは倒れました。倒れたワンケは大地となり空となり、そして様々な種族となりました。最初に生まれたのは龍人族、 長耳族、 鬼人族、 吸血族、 狼人族、 虎人の6族、それから少し時を置き、他の族人達が生まれました。生まれた族人達は巨人を慕い信仰しました、巨人もそれに応え族人達に力を与えました。中でも6族に与えられた力は凄まじいものでした」
「・・・プロローグか?」
「それからさらに時を置き、最後に人族が生まれました・・・大陸は混迷の時である・・・・・・」
「って終わりかよ、最後が酷いなおい」
膝の上の長耳族はそれっきり静かに地図を眺めている。
俺も静かに地図を眺めている。
「ふーん、まあ混迷だわな、今から俺が大陸を阿鼻叫喚させてやるし」
「・・・」
「まずは、他種族共に巨人から与えられた力が邪魔だな」
「・・・」
意識を集中し、他種族に力を与えている存在を探す。
見つけた。
まずは君サヨナラだ。
「ほいっと」
存在をあっさり握りつぶす。
地図上では他種族が一斉に首を傾げていた。
「あー、気付いてないのか?」
少しして他種族達は慌てだした。
「ぶほっ慌ててるよ、よっしゃ、まずは調子に乗ってる狐からやるか」
狐国の周囲は全て人族の小国が占めており、周りを全て属国としている。
焦っている今でも、人を傅かせており、尻尾の毛繕いに余念がない。
「おいおい、隙だらけだな」
俺は地図に干渉する。
すると突然毛繕いをしていた人が狐に飛び掛かり拘束する。
それに合わせて周りに傅いていた人達も飛び掛かり、狐は光となって消え失せる。
周囲の反応は冷ややかであり、狐が消えたことに対してその反応は寂しいものだった。
「しゃっ、・・・次は大陸中央を狙うか」
大陸中央には犬国が位置取り、かなりの数の人族の国と隣接している。
犬は愛想よく国を駆け回り、人、他種族問わず仲よさげにしていた。
常に笑顔を浮かべており楽しげだ。
見てて元気になる。
「うんうん、良い子だな」
狼とは特に仲よさげにしており、国が隣接していることもあってかお互い国境線でじゃれあっている。
見ていると罪悪感がもたげてくる。
こんなにいい子の国を蹂躙しようというのか、そんな事をしていいのか?
それは人としてやってはいけない事なのではないのか?
人としてはいけない・・・。
いけない。
行けない。
ん?
「ああああああああああああああああ!!!」
泡姫、泡姫だ!!
俺は今日、皇帝ジョブチェンして朝チュンを楽しむんだ。
忘れていたよ、あぶねー。
まさかこれが徹夜しても終わらない掃除の真相なのか?
恐ろしい何かを味わった気がするぜ。
こんなの構わず冥土に行っちゃうぜ!
「ぬぬううぅう、う、動かん、身体が動かんぞぉぉおおお!!」
どうゆう事だこれは。
ん?地図と俺がラインで繋がってる?
普通には身体を動かせる、逃げようとすると身体の支配を奪うってわけか。
ふざけやがって、たかが地図の分際で俺を支配しようってか!?
やらせわせん、やらせわせんぞぉ。
「ぐおおおぉお、ふおおおお、ふごごおごごごおお」
駄目だ逃れられん。
のらりくらりと躱されてしまい、ラインを断ち切ることができん。
一体いつの間に契約なんかしたんだ、俺はサインした覚えがない。
廃エルフの発明よりタチがわるいぞ。
「くそっ、んんんんんが、にょほほほほおほおおぉお」
まさか返却期限が過ぎてしまったのか?
それとも書面を作り内容証明郵便を利用しないといけないというのか?
くそ、辣腕でならした俺が、楽器にされてしまうとは情けない。
「・・・・・・」
しょうがない、ここは地図の意に乗ってやる。
膝の上の長耳族を見ると、無表情のまま少し俯き肩を震わせている。
(ああーむかつくぅ)
心機一転心を入れ替え、事に当たらねば。
大分時間を浪費してしまった。もう余裕はないと思わねばなるまい。
心の贅肉を捨て、意識を研ぎ澄ましていく。
本気だ、本気で心を鬼にしていくぞ。
「俺は特級のラベンダーなんだ、地図には負けんぞ」
それから俺は血の涙を流し、愛を斬り、愛を捨て、愛を求めて、愛に果てた。
戦場を縦横無尽に駆け回り、敵をばったばったと薙ぎ倒し。
手助けしてくる相手を騙して裏切り。
抵抗する者達は撫で斬りにし。
林立する人族の国を統合して巨大帝国を作り。
国力に物を言わせて近隣諸国を蹂躙した。
「ふははははは、圧倒的ではないかわが軍は!!」
大陸中央に誕生した巨大帝国。
増大する帝国に、ついに他種族が連合を結成。
全方位から袋叩きにあう。
発生するレジスタンス。
耐え忍ぶ戦場、崩れる戦線、灰燼に帰す都、敗走につぐ敗走。
「なっ、なんという事だ、私の第三帝国が・・・」
特に不味いのが東部戦線。
最後に平らげる予定だったので碌に戦力を配置していなかった為、かなり押し込まれている。
南部は膠着状態。
地方の人族の国が裏切り、他種族に加勢して第三帝国に抵抗しているが、今のところは小競り合い程度。
西部は泥沼状態。
西部はもとより主力を配置していたので、むしろ順調に攻略が進みあとわずかで制圧。
と、いったところでレジスタンスが発生し、瞬く間に西部全域が戦場に。
帝国の力に揺らぎを感じたのか、離反する人族国家も出始め主力が敵勢力圏内に取り残されてしまう。
北部は火薬庫。
既に制圧済みで、戦場では後方だったこともあり落ち着いている状態だったが、西部のレジスタンスの噂が流れ、民心が動揺、その為北部全域では戒厳令が引かれる状態に。
「何故だ?何故俺の邪魔をする!?俺はただ泡姫に行ってわんわんとにゃんにゃんしたいだけなのに!!!」
その間にも削れていく兵力。
「やべぇーーーー!」
「考えろ、考えるだラベンダー、・・・・・・駄目だ何にも思いつかねぇ!!」
こうゆう時は主人公を思い出すんだ!いつだって彼らは圧倒的に不利な状況でも、それをひっくり返してきたじゃないか。
敵に囲まれ、レジスタンスが発生し、裏切り者が続出してようと、彼らは己の内なる力で乗り越えて来たんだ。
それを信じるんだ。
俺ならできる。
内なる力を信じるんだ。
そうだ、俺のスピリチュアルを呼び覚ますんだ!
俺の由来を、そこにヒントがあるはずだ、俺に名付けてくれたママンの言葉を思い出すんだ!!
「んーとね、えーとね、・・・・・・忘れちゃった!」
思い出した。ママンの頭はお花畑だった。
くそっママン駄目だ!。
「おおおおおおおお、そ、そ、そ、それを父さんに聞いてくるのかいラベンダー、父さんは嬉しいねぇえ。あああああ、嬉しいなあ。君が生まれた時は本当に嬉しかったんだ。僕は落ち着きがなくてとても子供は生まれないと思っていたし、妻はああだろう、僕は昔から子供は口から生まれてくるという事を信じていたんだ、だから、落ち着きがなくしゃべり過ぎの僕の口から生まれてくる子は小さすぎて見えないし育てられないと思っていた。妻は妻で子供はお花畑でできると信じていたからね。あれには驚いた、まさか妻がそんな事を信じていたなんて、ふふふ、可愛いところがあるだろう。僕には勿体ない女性さ。ああ、ええとなんの話だっけ?んー、子供だ子供!だけどそれは間違いだった。本当はね、妻がダイエットに成功した時にプレゼントとしてコウノトリが運んでくれるんだ。凄いだろう!!信じられるかい!!!まさかあんなに太っていたのに一晩で痩せられるなんて!だからねラベンダー、将来はふくよかな女性と付き合いなさい。妻は運よく太ることができたけど、皆が皆そうじゃないしね。」
黙れくそ親父、結局答えてねーじゃん。
親父が駄目すぎる。
生きるのが辛い・・・。
ああくそッ、自分で思い出す。
――――ん、あー、あー、っあ!
思い出した。疑惑だ。疑惑!
俺は疑惑のラベンダーだ。
親父が俺の事を自分の子供だと信用しきれず、床に落ちて潰れたラベンダーを見て咄嗟に名付けたんだった。
子供が口から生まれない状況と潰れたラベンダーのコラボで、ティンと来たって言ってたっけ。
「疑惑のラベンダー、よし、よっしゃ、これで勝つぞ――――って勝てるか!!」
ふざけんじゃねーよ!なんだよ、疑惑のラベンダーって、首都で反乱起きちゃうよ!
何なんだよ。俺の名前の由来酷過ぎ。
あーなんだよやる気なくなっちゃった。
あー駄目だ駄目。
・・・・・・
正攻法でやろ。
「まずは講和」
国境線を下げてもいいからまずは戦争を一回止める。
こいつら頭が平和そうだから通じるだろ。
仲良くしましょーね。戦争はいくない。
「よしっ・・・馬鹿共が」
少し本音が漏れてしまったが、大丈夫気付かれていない、馬鹿共が。
攻められていた場所は大分国境線が下がってしまったな・・・まあいい。
まずは東部。
敵との間に緩衝地帯を作りたいから、滅ぼした国を独立させてやる。
国境沿いの細長い土地だけどな。
っぷ、わろた。
次は南部。
領土を一部割譲する、ただし個別の国にそれぞれ譲るのではなく、南部連合にだ。せいぜい他種族と裏切り者とで奪い合うがいい。
西部。
置き去りになり孤立していた主力を帰国させる。国境は、連合結成時の位置まで下がってしまった。
っくそ。
北部。
不満分子が出始めたので、西部の国境沿いに国を作りそこにぶち込んだ。
あースッキリした。
「・・・とりあえずこれで落ち着いたか」
地図上では、さまざまな種族達が訪れた平和を楽しんでいた。
東部では、独立させてやった犬が包帯を身体に巻きながら、楽しそうに細長い領土を行ったり来たりしている。
同じく独立させた狐は俯きながら、尻尾の毛繕いをしている。
同じく独立させた狸は青い顔になりながら、帳簿をめくっている。
東部国境線を引き下げる原因となった龍と長耳は、胸を張って喜んでいる。
南部では、人と狼が割譲した土地の奪い合いに勤しんでいた
西部では、なんとか滅亡を免れた鬼が猫達と宴会を開いている。
西部の国境沿いでは独立させた不満分子の髭がやっぱり何かを作っている。
「世界は平和だな、ふふふふ」
(馬鹿共がっ!今でも我が第三帝国の地力は大陸一なんだよ、せいぜい束の間の平和を楽しんでおけ)
まずは、西部の反乱を起こした人族の国を恫喝し併合、頭を挿げ替えて傀儡国家として独立させる。
(雑魚が手間かけさせやがって)
東部全域に情報封鎖をしき他の地域の情報が入らないようにする。
バレても保険の干渉国家もあるから大丈夫だと思うが、念のために。
南部は放置だ。
北部は問題なし。
準備完了。
(西部に奇襲作戦じゃあ!)
西部雑魚すぎワロタ。
傀儡国家使っての裏切りうまうま。
主力部隊の残した置き土産もあり、東部に気付かれる事なく速やかに西部を制圧。
もちろん独立させてやった髭も再度潰してやりましたわ。
(次は南部だ、割譲した領土を返してもらおうか!)
圧倒的な戦力差で、争っていた両者を磨り潰す。
(ザマーーーーー!)
鎧袖一触とはこのことか!楽勝過ぎるわ!
(ちっ)
さすがに南部で大規模な動員をかけると東部に気付かれるか。
東部が動き始めた。
だがしかーし、緩衝国家がさっそく仕事を始めてくれました。
東部と我が第三帝国が戦争をする場合、戦場になるのは緩衝国家上だ。
せっかく独立できたのに、戦場の中心地にはなりたくないだろう。
それに純真な動物達は、再度滅ぼされる為に独立させたとか理解できないだろーし、攻めなきゃ攻められないとか思ってそーだよな。
(プププッ)
狐と狸は真っ青な顔で龍、長耳達を説得し、犬は争いは良くないと説いている。
馬鹿が、独立させたのはただの方便。
細工は流々仕掛けは上々、後は仕掛けをご覧じろってか。
「時間稼ぎご苦労、・・・・・・総力戦だぁああーーー!!」
狐と狸は燃え尽きており、犬は泣いていた。
龍、竜、長耳、猫は掛かってこいやと、挑発している。
東部全域で激しい戦闘が行われている。
特に激しいのが東部北域の龍との戦いだ、どちらも譲らず一進一退の激しい消耗戦となっている。
東部中央域では、帝国軍がジリジリ前線を押し上げるが、耳長も負けじと押し上げ膠着状態になりつつあった。
一番変動しているのは東部南域。
「押して、押して、押しまくれぇええ!」
東部南域は圧倒的な速度で竜と猫を蹴散らし両者を滅亡させた。
「しゃあぁあああ!っ次ぃいいいー!」
膠着している東部中央域。
そこに南域を制圧した部隊が襲い掛かる。
「包囲しろ!包め、包めっ包めぇえ!!」
三方を囲まれ長耳も滅亡した。
「滾る、滾るぞぉおお!!ラストォオオーーーー」
激しい戦闘している龍は他の種族が全滅している事に気付かないぐらい集中して戦っていた。
両軍の激しい戦闘は、双方多大な消耗を招いているが両者一歩も引くことなく戦い続けている。
「今だ、突撃ぃいいいい!!」
そこに側面、後方から東部中南域の部隊が襲い掛かる。
気付いた時には遅かった、悉く討ち取られ、人以外の全種族の国家は滅亡した。
「シャアアアアア!」
俺は衝動の赴くままに拳を突き上げ喜んだ。
最高だ、最高すぎる。俺は偉大だ、偉大な大帝だ。
ああ、世の中の全てが俺を祝福している。
この全身を包む心地よい倦怠感、兄の上にも三年でグランドマスターになった時以来だ。
ああ・・・・・・
「終わりました。それでは開始します」
膝の上に乗っていた長耳族が言った。
「っえ?」
ラベンダーは光に包まれた。
「えっ?」
光が収まった後にはラベンダーは居らず、一枚の地図だけが落ちていた。
ありがとうございました。