第93話 オルガゼフの森
「フフ。そうか。ならば、残りのオムライスも貴様にやろう」
ラッキー。
正にイザベル様様だ。
「はい。アーン」
「えー」
結局一度もスプーンを手にしないままオムライスがなくなり、イザベルはさも機嫌よさげにリビングから出ていった。
はー。何とかオムライスを食べる事が出来たが、めっちゃ疲れた。
やっぱ人が多くいるといろいろと大変だな。一旦部屋で身支度を済ませた後、早めに家を出る。
こりゃ、思ったよりだいぶ曇ってるな。
中からの感じだとそうでもなかったのに。
もしかしたら雨が降ってくるかもしれないぞ。
急いで庭を駆け抜け、門を開く。すると、カバンと首輪を持ったまゆり先輩が目に入る。
「遅い! 一体どれだけ私を待たせるのだ!」
はー?なんで俺が罵倒されなければいけないんだよ。
約束の一つもしてないじゃないか。
というか、どうして首輪なんか……
あー。も、もしやコイツ。
ゲンコツされた恨みを晴らそうとしてるんじゃないだろうな。
うわー。もはやそうに違いない。
こうなったからには逃げるしかない訳だが、あいにく先輩がいるせいで前には進めない。
となると、残る選択肢は後方のみ。学校へ行くには遠回りになるが、止むを得ないだろう。
「すいませーん。気が利かなくて。以後、気を付け……あー。うしろからイザベルがやってきます」
「何?」
先輩がまんまと嘘に引っ掛かり、うしろを振り向く。
よし。逃走するなら今がチャンスだ。
鬼に気付かれぬよう、そっと裏手にある森へ向かう。
「おい。イザベルなどどこにも……うん? ブヒ丸がいない」
やべ。もう気付いたか。
「いた。待てー、ブヒ丸」
ひー。見つかんの早えー。
どうか神様、哀れな子羊をお助け下さい。
死に物狂いで敷地内を駆け抜け、ようやく森の中へ足を踏み入れる。
なるべくならオルガゼフの森とは関わりたくなかったが、状況が状況なだけに止むを得まい。
にしても、相変わらずここは不気味だな。さすが、千年の歴史は伊達じゃない。
外からの雰囲気も然る事ながら内部は想像以上に薄暗く、何か怖いモノが出たとしても驚きはしないだろう。
正に恐怖の森と言っても過言ではない。
しかし、実際はさほど危険ではなく、歩くスペースや安全性はしっかり確保されている。
少なくとも、モンスターや人に危害を加える動物が出たという報告はない。
それに総面積もたった十キロ平方メートル程しかないのだから、よほどの事がない限りは大丈夫だろう。
さあ、一気に外へ出てそのすぐ先にある学校を目指すぞ!
「待てー。言っとくが、逃げたとしても無駄だぞ。地の果てまで追いかけてやる」
とうとう先輩も中へ入ってきたか。
予想通り、足が速いな。
とりあえず今は逃げる事だけに集中しよう。
あたり一帯に散らばる木の根っこや枝に注意しながら、ただひたすらに走り続ける。




