第92話 俺の分のオムライスを食べたのはあいつだった?
うー。味気ねえ。
まさか、俺がここまでひもじい思いをするとは。
なんて格差なんだ。
「なあ、貴様はどうしてそのようなモノを食べてるのだ? もしやよっぽど好きなのか?」
手を止め、イザベルが不思議そうな表情で尋ねてくる。
あーん!んな訳ないだろ。
舐めてんのか。
「しょうがないだろ。オムライスがないんだから」
「何? 一人だけないとはどういう事だ? 明らかにおかしいだろ」
にわかに不機嫌そうな表情を浮かべ、イザベルが麻宮を睨み付ける。
「そ、それはですね……実を言いますと、もえこさんが私達の知らない間に二人分のオムライスを食べてしまいまして。残念ながら、足りなくなってしまったんです」
そうか。だから、アイツは苦しそうにしてたのか。
クソやろー!
「おい。ずいぶんふざけたマネをしてくれたな。お前のせいで俺はこの様だ。どうしてくれる?」
赤月の目の前に移動し、厳しく問い正す。
「な、何の事でしょう? 私は一人分のオムライスしか食べていません」
嘘つけー!
めちゃくちゃ目が泳いでるじゃないか。
もはや、言い逃れは出来ないぞ。
「往生際が悪い奴だ。潔く自分の罪を認めろ!」
「いいえ。私は一人分しか食べていません」
「じゃあ、お前はなぜ苦しそうにしている? 人の分も食べたからじゃないのか?」
「ち、違います。それはお水を十杯ほど飲んだからです」
こんにゃろー。ああ言えばこう言いやがって。
さすがに我慢の限界だ。
「もういい。力ずくで白状させてやる!」
赤月の頭にゲンコツを見舞おうとした瞬間、イザベルがそっと肩に手をのせてくる。
「何だよ、いきなり」
「まあ、落ち着け。皆がくつろぐ場でケンカはよくない」
「だがしかし」
「ホラ、こっちへ座って口を開けろ」
「は? なんで」
「いいから早く」
言われるがまま手前のイスに座り、口を開ける。
すると、イザベルがオムライスの入ったスプーンを近付けてくる。
これはもしかして恋人同士がよくある食べさせあいっこじゃないよな。
いや、まさか。コイツに限ってそんな事が。
「では、そろそろいくぞ」
緊張した面持ちでイザベルがスプーンを口のすぐ真横まで持ってくる。
まじかー!
あのイザベルが本当に食べさせようとしてくるとは。
にわかには信じられないが、オムライスを食べられるのならこっちとしては願ったり叶ったりだ。
遠慮なく甘えるとしよう。
「ちょ、ちょっと何してるんですか。すざくさんにあげるなら、まず私に一口下さい」
「きゃー。不潔ー」
やたらと騒がしい声が響く中、ついに念願のオムライスが口に運ばれる。
う、美っ味え。思わずとろけてしまいそうだ。
生きててよかったー。
「あー。ずるーい。私にも下さい」
「バカヤロー! お前はもう十分だろう」
たく。なんて欲張りな奴なんだ。
「ひ、人前で間接キスするなんて。やっぱりあなたは私の敵です」
あ、そうか。イザベルが使っていたスプーンで食べたんだもんな。
うっかりしていた。ただ、俺にそんなつもりは一切なく、味を知りたい気持ちだけだったんだがな。
残念ながら、麻宮には不快でしかなかったようだ。というか、コイツは俺を敵だと思ってたのか。
普通にショックだー。
「どうだ? 美味かったか?」
「あ、ああ。分け与えてくれてありがとな」
感想を聞いてきたイザベルに正直に答えを返す。
「い、いや、いいんだ。それより私はどうだった?」
は?何言ってんだ、コイツは。訳が分からん。
もしかして食べさせ方がどうだったのか聞いてるのか?
「まあ、なかなか良かったんじゃないか。人に食べさせるのは今回が初めてなんだろ? なら上出来だ」
状況が呑み込めないながらも、ひとまず言葉を返す。
「な、何を言ってるんだ、貴様は! 私が尋ねてるのはそんな事ではない!」
眉間にしわを寄せ、イザベルが怒りを露わにする。
すると、麻宮と赤月が椅子から離れ、テーブルに身を隠すように外へと出ていく。
あいつ等めー。さては怖気づいたな。
くっそ。俺だけ地獄に残していきやがって。
絶対に許さんからな。
「悪い。どうやら、質問自体がよく分かってないようだ。手をかけるが、もう一度詳しく教えてくれ」
気持ちを切り替え、冷静に切り返す。
「なんだ。理解すらしてなかったのならしょうがないな。今回は特別だ。許してやろう。では言い方を変えて今一度言うが、私自身の味を教えてくれ」
「は、はい?」
「何をびっくりしたような顔をしている? 貴様は私が使っていたスプーンでオムライスを味わったじゃないか。なら、それくらい分かるだろう。さあ、早く言え」
何じゃ、そりゃー!
コイツはもしやとんでもなくバカなのか?
いくら間接的に口が触れたとしても、オムライス以外の味が分かる訳ないだろうが!
呆れてモノも言えない所だが、またイザベルの機嫌を損ねたら面倒だ。
とりあえず喜びそうな言葉を述べておこう。
「なら正直に言わせて貰うが、ほのかに甘い果実のような味がした。あれは俺の好みだ」
「そ、そ、それは本当か? 嘘ではないんだな」
「ああ」
悪いな、イザベル。
時には嘘も必要なんだ。




