第91話 なんで俺の分だけないんだ
「もちろんだ。断る理由はない」
「済まないな。貴様にはいろいろと助けて貰ってばかりだ
「別に気にするな。俺もお前の世話になっている訳だから、お互い様だ。ところでいつから暮らし始める予定なんだ?」
「一応、今日からのつもりだが、まだ必要な荷物を持ってきていない」
なら、すぐ部屋を決める必要はないな。
「じゃあ、朝食でも食べに行くか。まだ済ませてないんだろ?」
「あ、ああ」
「よし。決まりだ」
さっそく、イザベルと共にリビングへ向かう。
「そういえば、俺の部屋を誰から教えて貰ったんだ?」
「赤月だ。話をした後に教えてくれた」
ほー。あいつにしては気が利くな。
というか、昨日の事を考えたら赤月がこんな早くに起きてるのが信じられないんだが。
一体どうなってんだ?程なくリビングの前へ到着した為、窓から中を覗いてみる。
すると、手前側にいる麻宮と向かいに座っている赤月が目に入る。
どうやら二人は食事中のようだな。ちゃっかり制服にも着替えている。
正にいつでも学校に行けるような状態だが、一方で花崎と先輩の姿は見当たらない。
おそらく、奴等は部屋にいるんだろう。さっそくドアを開け、リビングへと足を踏み入れる。
「おはようございます。遅いお目覚めですね」
中に入るなり、赤月が声をかけてくる。
「別に普通だろ。お前達が早すぎるだけだ」
「かもしれませんね。私達は今日、五時に起きましたから」
「な、なんでそんな早く?」
「実は昨晩、校長先生から電話がありまして。火急の用でイザベル教官を五時二十分に向かわせるとの連絡があったんです。ですから、翌日に備えて花崎さんのお部屋にお泊りし、今日という日を無事迎える事が出来ました」
なるほど。赤月が準備万端だったのは花崎のおかげだった訳か。
さぞかしあいつも、寝坊助娘には手を焼いた事だろう。
苦労した姿が何となく目に浮かぶ。
何だかとても気の毒だが、もっと可哀想な奴がここにいるじゃないか。
畜生。なぜ俺にだけ重要事項を伝えなかった?
これはちょっとしたイジメか?もう泣けてくる……
「お前は調子が良さそうでいいな。俺は何の情報も知らなかったよ。ハハハハハハ」
はー。
早くも気が滅入りそうだ。
「おい。何をしている? 早く前へ進め。ひょっとしてまだ目が覚めてないのか? だったら眠気覚ましにゲンコツを見舞ってやるぞ」
「いやいや。それだけは勘弁してくれ。体が持たない」
「なら、しょうがないな」
たわいもない会話をしていると麻宮が勢いよく立ち上がり、流し台の方へ移動を始める。
何だよ。俺の声が目障りだってか。
コイツには相変わらず嫌われているようだな。
「今から朝食を運びますので待ってて下さい」
食べ物を調達しようとしていた所、麻宮が声をかけてきた為、イザベルと共に手前側の
イスに腰かける。
一体、今日の朝食は何なんだろう?かすかにだが、いい匂いが漂ってくる。
加えて目の前には赤月が使用したであろう皿が残されているが、所々にケチャップ
と思われる染みが付いている。
はたしてどんな料理が出てくるんだろうか?
実に気になる所だが、妙に赤月が苦しそうにしているな。
大丈夫なんだろうか?そうこうしているウチにイザベルの目の前にオムライスが運ばれてくる。
す、凄っえ。なんてご馳走なんだ。
めっちゃ美味そう。
「これは貴様が作ったのか?」
イザベルが麻宮に問いかける
「はい。四時三十分に起きて作り始めました」
「素晴らしい。褒めて遣わそう。では、さっそく頂くとするか」
緊張した面持ちで麻宮が向かいのイスに腰掛ける。
あ、あれ?もしかして俺のは持ってきてくれないのか?
はー。全くいじわるだな。
「うん。美味い」
「あ、ありがとうございます!」
ちっ。褒められて嬉しそうにしやがって。
なんか腹立つー。怒りをグッと抑え、一人寂しく流し台の方へ向かう。
さてさてガステーブルにはいくつかの鍋やフライパンがあるが、オムライスちゃんはっと。
一つ一つフタを取り、中身の確認を行う。
がしかし、残念な事に食材のひとかけらも見つける事は出来なかった。
これはどういう事だ?ひょっとして俺のだけ作ってないんじゃ。
信じたくないが、ないって事はそうなんだろうな。
うわー。何だかもう泣けてくる……
「おい。何をやっている。早くしないと遅刻してしまうぞ。もしや、貴様は何も食べないつもりなのか?」
オムライスを口に運びながら、イザベルが声をかけてくる。
うるへー。食べたいのは山々だが、何もないんだからしょうがないだろうが。
くっそー。こうなったら何でもいい。とにかく腹に入れてやる。
冷蔵庫からパンの耳を取り出し、勢いよく口に運ぶ。




