第9話 黒こげの男がいる
「何やってるんだー。逃げてるだけじゃつまらないじゃないか!」
「真剣に戦ってください!」
たく。うるさい奴等だ。
AランクとEランクが戦えば、こういう戦いになるなんて十分に想像が付いただろうに。
いい加減一言くらい言い返してやりたい所だが、確かにこのままではただの恥さらしだ。
何とかして一矢報いなければ。隙を伺いながら黙々と回避し続けていると突如相手が苦しい表情を浮かべ、膝に手を付く。
よし。さすがの奴もエネルギー切れらしい。
チャンスは今しかない。
「我が敵に雷を下さん」
直後、快晴だった空一面が曇り始め、急激に周囲が暗くなる。
な、何だ?この魔法は、標的の頭上にしか雷雲が発生しないハズだ。
一体、どうなってんだ?やがて空がまばゆいばかりに光り、訳の分からない状況は悪化の一途をたどる。
う……
目がチカチカする。
「ま、眩しい……」
「きゃー。いきなり何なの」
すっかり生徒達もテンパってるようだな。
まあ、無理もない。おそらく校庭にいる全ての人間が、目を閉じてると言っても過言ではないだろう。
にしても、誰がここまでふざけたマネを?
そういや、俺が呪文を唱えた後におかしくなったんだよな。
という事はもしや、俺自身が異常な事態を招いたのか?
いや。絶対にありえん。いくら集中力が欠けていたとしても、こんな事になるのはまずない。
きっと、考えすぎだ。混乱が続く最中、突如雷鳴が轟き、思わず地面にひざまづく。
ひー。怖え。
もう何なんだよ。とても戦いどころではないじゃないか。
耳を塞ぎ、ただひたすらにじっとしていると漆黒の闇に僅かながら光が差し込む。
心なしか、影が薄くなった気がする。
加えて轟音も聞こえてこない。もう顔を上げて大丈夫かな。
ゆっくり立ち上がると、雲一つない青空が目に入る。
いやー。最高の景色だな、こら。
うん?ちょっと待て。生徒はおろか、教官の姿までないぞ。
しかも、いつの間にかシールドまでなくなってるじゃないか。
もしかして。全員が恐れをなして逃げたんじゃ。
にわかには信じられない話だが、誰一人いないという事はそうに違いない。
ちっくしょう。あんだけ逃げ回っていた俺を愚弄したくせに自分達だけさっさととんずらしやがって。
今度あったら覚えてろよー。
あれ?何となく焦げ臭いニオイが漂ってくるのは気のせいだろうか?
あたりを見渡してみると、右斜め前方で横たわる黒焦げの物体が目に入る。
お、おい……
何だか人間っぽくないか。
そういえば、対戦相手も同じ方向にいたような。
不安にかられながらも近づいてみる。
う……
このがり勉っぽい顔に焦げた眼鏡。
間違いない。こいつは俺が対峙していた男だ。
一体、何がどうなってんだ?
「おーい。大丈夫かー」