第89話 モンスター女が家にやってきてしまった……
「ほー。お前にしては上出来だ。よし。のった。では、風呂場に行くぞ」
先輩が赤月の手をがっしり掴み、ドア方向へ移動を始める。
「ちょ、ちょっと何するんですか。私は反対です。呑む気はありません」
「お前の意見などは聞いていない。これは強制だ」
「や、止めて下さい。私はすざくさんと入浴するんですっ!」
踏ん張りを利かせ、赤月も負けじと先輩に対抗する。
意外や意外、赤月も奮闘を見せ、両者一歩も引かぬ状態が数刻程続く。
な、なんだ、この熱い戦いは。
奴等の体から、熱い炎のようなモノが溢れ出ている気がする。
一体、今後どうなっていくんだ?
そうこうしているウチに赤月にもとうとう疲れが見え始め、徐々にドアの方向へ引っ張られていく。
「フフ。どうだ、私の力は。さっさと観念しろ」
「…………」
どうやら長かったバトルは、先輩に軍配が上がりそうだ。
いいぞ。俺にとってはこっちの方が都合がいい。
さあ、二人とも早く大浴場へ行くんだ。
瞬く間に赤月が外へ連れ出された為、俺も四階廊下へと移動を行う。
「きゃー。助けてー。このままだと私、さらわれちゃいます」
「黙れ。これは誘拐でも何でもない」
「じゃあ、拉致です」
「馬鹿者。私がそんな事するか。素直に言う事さえ聞けば、ただちに開放する。心配するな」
「本当ですかー? 心の奥底では私にイタズラしようと思ってるんじゃないですか?」
「な、何を言うんだ、お前は。ハレンチ過ぎるぞ」
あ、あれ。意外とこの二人。
なかなか楽しげにしてやしないか?
もちろん本人達にそんな気はないのだろうが、不思議とそう映る。
もしかしてコイツ等は何気に上手くやっていけるんじゃないだろうか。
「だって先輩はエッチな顔をしていますもん」
「何だとー」
まるで俺の存在など忘れたかのよう、二人は熱い舌戦を繰り広げながら四階から消えていった。
ふー。やっと平穏が戻ったな
しばらくは静かに過ごせそうだ。
いい気分のまま食事と風呂を済ませ、早々に眠りにつく。
そういえばすっかり忘れていたが、奴等はどうなったんだろうか?
妙に気になるな。まあいい。どうにか上手くやってるだろう。
翌朝。六時二十五分に目を覚ましたのもつかの間、部屋をノックする音が聞こえてくる。
誰だ、こんな朝早くに。もしや、昨日のリベンジをしに花崎がやってきたのか?
入口へ移動し、恐る恐るドアを開けてみる。
するとそこには、いつもながら黒い服に身を包んだイザベルの姿があった。
えー。一体、なんでコイツが家に。
全く訳がわからんぞ。
「フフ。どうやら、かなり驚いているようだな」
そりゃ、そうだろ。
よりにもよって目の前に現れたのが、身の毛もよだつ鬼教官だったんだからな。
正直、モンスターが侵入してきたような感覚と言っても過言ではないぞ
「もう何なんだ、お前は。びっくりし過ぎて心臓が止まったらどうしてくれる。もしかして何か用でもあるのか?」
「ああ。その通りだ。私は貴様に伝えなければならない事があってやって来た」
やっぱりか。でなければ、コイツが来訪してくる訳ないもんな。
問題は訪ねてきた理由だが、わざわざ学校で顔を合わせる前にやってきたのだから何か緊急
の用であると察しがいく。
ひょっとしてまた校舎周辺にモンスターが発生したんじゃないだろうな?
もはや、悪い予感しかしないぞ。
「分かった。若干聞くのが怖いが、さっそく話してくれ」
「いいだろう。実は、私は校長からある事を頼まれたのだ」
うわっ。思った通りだ。
おそらくイザベルは、戦闘員不足を解消する為に派遣されてきたんだろう。
そう。全ては俺に助けを求める為にな。
はー。実に迷惑な話だが、困ってる人がいるなら止むを得まい。
断る訳にはいかないだろう。
「了解した。はたして俺に何が出来るのか分からないが、快く頼みを受け入れたいと思う」
「そ、そうか。貴様がこうも快く私を受け入れてくれるとは嬉しい限りだ。今日からよろしく頼むな、すざく」
恥ずかしそうに顔を赤らめると同時にイザベルが可憐な少女のような笑みを見せる。
え?何言ってんだ、コイツは。
まるで状況が呑み込めない。
「なあ。お前が言わんとしてたのは、モンスター退治に手を貸してくれって事なんだよな?」
「なんだ、その話は。モンスターなどどこにも出現してないぞ。」
「は、はい?」
「私が頼まれたのは救援要請でも人助けでもない。ここに住んで欲しいという事だけだ」




