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第68話 美少女のお尻に触れる?

「いいか。立派な魔法師になるにはだな。一に早起き。二に勉強。三に」

 安堵したのもつかの間、イザベルが真面目な表情でかたっ苦しい話を始める。


 げっ。まじか。

 俺はこういう退屈そうな話が最も苦手なんだ。

 勘弁してくれー。



「そして六に本を読む。七に外の世界を知る」

 まじめに聞いているふりをしながら、状況打開の策を練る。

 さて、どうするか?


 そもそも話を止めて貰うだけでも難しそうだが、体から離れさすのはさらにハードルが高そうだ。

 参ったな。せめてコイツの意識さえそらせれば、チャンスも出てくるんだろうが。


 なかなか難しい。ならいっその事、尻にでも触れてみるか?

 そうすれば不審に思ったイザベルがうしろを振り返るハズだ。

 場合によっては、触れたモノが何なのか気になり過ぎてあたりをうろつき始めるかもしれない。

 それが実際に現実となれば、保健室から出るのも実にたやすいだろう。 

 よーし。いっちゃやってみるか。



「なぜ早起きが大事なのかというとだな、我々の体に流れるマナが」

 いいぞ。イザベルは話に熱中しているせいか、瞬きすらしないで俺の顔を見ている。

 ちょっと照れくさいが、意識が集中している今なら手を動かしたとしてもバレないハズだ。

 気付かれぬようゆっくり右手を動かし、いよいよ臀部に触れる。

 

「うん? 尻に何かが触れた感触があったが、気のせいか?」

 不思議そうな表情を浮かべ、イザベルがほんの少し視線を上に上げる。


 お、かなり気になってるようだな。

 思った通りの反応だ。さあ、さっさとうしろを振り向け。

 

「まあいい。虫かなんかが一瞬だけ触れたんだろう。気にする事はない」

 予想に反し、イザベルが再び視線を下に下げる。

 

 えー。そんな馬鹿な。

 まさか、ここまであっさり話を片付けられるとは。

 どうも、触り方が弱かったらしい。

 ならば、今度は強めに触ってやる!

  

「であるからして朝早く起きるのは重要なんだ。次になぜ勉強が重要なのかという事だが」

 程なくするとイザベルが瞬きしないで顔を見始めた為、勢いよく尻に触れる。


「きゃっ」

  

 な、なんだ、この反応は。

 可愛すぎて思わずキュンとしてしまったではないか。


「何なんだ、もう。また虫か? 全くしょうがない奴等だ」

 イザベルが静かに立ち上がり、あたりを見回し始める。

 

 来たー。ついに待望の瞬間が訪れたぞ。

 あとはコイツが背を向けさえすれば、逃げる事も可能となるハズだ。

 

「どうやら、正面と横にはいないみたいだな。という事はうしろか!」

 ゆっくりとイザベルが体を反転させる。


 やった。ようやく待ちに待った時が訪れたぞ。

 今のウチにずらかろう。勢いよく体を起こそうとするも手以外に

上手く力が入らず、どうする事も出来ない。

 


 え?一体、何がどうなってんだ?

 今一度起き上がろうと試みるが、見事失敗し、途方に暮れる。

 

 

 何でだー。せっかくここまで来たのにあと一歩でまたこうか。

 くっそ。どうして力が入らないんだ。

 まさか、イザベルの奴……

 

 俺が気付かぬ間に体を動かせなくなる魔法でもかけたんじゃないだろうな。

 そうでもなければ何か悪い病気にでもかかってるんじゃ……

 うわっ。一気に不安が増してきた。

 

 ひょっとしてこのまま保健室に放置されたままなんて事はないだろうな。

 嫌だー。悪い夢なら早く覚めてくれー。

 

「うーん。虫はどこにもいないみたいだな。どうやらあれは、私の勘違いだったようだ」

 もたついている間にイザベルが正面を向き、あさはかな逃亡計画は無残にも失敗に終わった。


 はー。結局ダメだったか。とても残念だ。

 というか、もはや逃げる事なんてどうでもいい。体の状態が何より心配だ。


「おい、どうした? 中年のおやじみたいに汗まみれだぞ。具合でも悪いのか?」

 立ったままの状態でイザベルが尋ねてくる。


 ホントだ。手がべとべとだ。

 今まで全く気付かなかった。

  

「別にそういう訳ではない。ただ、体が思い通りに動かなくてな。知らず知らずのウチに焦って汗をかいてしまったんだろう」

「なるほど。それは気の毒だったな。しかし、何も心配する必要はないぞ。なぜなら貴様が体を動かせないのは、手以外の神経を麻痺させる魔法を私が気付かれぬようかけたからだ」

 少しも悪びれる事なく、イザベルが衝撃の言葉を口にする。


 何だよ。もしかしたらとは思ってたが、やっぱ犯人はコイツだったか。

 たく。面倒な事しやがって。おかげで俺は生きた心地がしなかったんだからな。

 

「一体、お前は何のつもりなんだ? 魔法をかけた訳を教えてくれ」

「そんなの決まってるだろ。貴様が悪い子だからだ。それ以外に何がある?」

  

 こ、このやろー。

 知らぬ間に魔法なんてかけるお前の方がよっぽど悪い子だろうが!



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