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第66話 羽かい締めをしているのは男なのか?それとも美少女なのか?

 魔法が解けてしまう前に二階へ移動し、いよいよ保健室まで約三十メートル程に迫る。

 いいぞ。今までの所はイザベルを見かけなかった。

 問題はこっからだ。見た感じ、イザベルらしき人物はどこにも見当たらない。

 このまま進んでみよう。


 周囲に気を配りながら一歩ずつ進んでいき、やがて誰とも遭遇する事無く、保健室前に到着する。

 やっぱイザベルは周辺にいないようだ。

 あとは中のみだが、内部から人の気配は感じない。

 たぶん、あいつは外でも探してるんだろう。

 自信たっぷりに保健室のドアを開けるが、案の定そこにイザベルの姿はなかった。

 

 やった。あいつには今まで数えきれないほど苦しい思いをさせられてきた

が、初めて裏をかけた。


 ああ。なんていい気分なんだ。

 奴が悔しそうにしている姿が目に浮かぶ。

 もしかしたら今回の件で俺への認識を改め、厳しい態度も一変するかもしれない。

 そうなったら、正にパラダイスだ。フッフッフッフッ。

 喜びも程ほどに保健室へ入る。


 

 いやー。本当に素晴らしい。

 外の天気も最高にいいし、何だか祝福されている気持ちになる。

 もう何もトラブルが起きませんように。

  


 気ままに中をうろついていると突然背後から両腕を強く締め付けられ、体が宙に浮かぶ。

 は、はいー?何がどうなってんだ?おそらく何者かに羽交い締めをされているのは分かる

が、なぜ俺がターゲットになる?

 

 そもそも保健室には誰にもいなかったハズだし、第一俺は今、透明化しているんだから

触れられる訳が……

 

 あー。いつの間にか体が見えてる。

 くっそ。だから、謎の人物は、簡単に俺を捉える事が出来たのか。

 油断していた。正しく注意力散漫が招いた自らの失態と言っていい

が、はたして背後にいるのは誰なんだ?


 俺は誰かの恨みを買った覚えなんてないぞ。

 全く腹立たしい限りだが、コイツが依然として言葉を

発しない所を見ると交渉の余地はないと思われる。


 残念ながら、力ずくでどうにかするしかないようだ。

 唯一動かせる手の指で愚か者の体に触れる。


「あん」

 あ、あれ?なんだ、今のいやらしい女声は。

 もしかして背後の人物は屈強な筋肉男ではなく、女子だったのか?

 うわー。何となく嫌な予感がしてきた。もし仮にそうだったとしたら、むやみに手を出せない。

 参ったな。もはや、打つ手なしだぞ。


 ってちょっと待てよ。よく考えてみろ。

 さすがにここまで強い腕力を持った女子がいるだろうか?

 いや、いない。絶対にいる訳がない。


 とするとひょっとしたらコイツは、ある特殊な魔法を用いて自らの声を変性させ、

油断した標的を確実に仕留めようとしてるのかもしれない。


 その可能性は十分にありそうだ。

 考えを改め、今一度指の動きを再開させる。


「あ……あん」

 フフ。いいぞ。ずいぶん効いているようだな。

 なおも指を動かし続けていると次第に締め付ける力が弱まり始め、ほんのわずかながら

体を動かせるようになる。


 そしていくばくもしないウチにとうとう筋肉男が腕を離した為、前方へ走り、およそ

数メートル程の距離を取る。


 

 よし。まずまず離れたから、羽かい締めされる心配はもうないだろう。

 よかった、よかった。にしても、奴はどんな見た目をしてるんだろう?

 何だか無性に気になる。というか、どうしてこんな事をしたんだよ。

 せめて理由くらい教えて貰わなければ、腹の虫が収まらない。


 勢いよくうしろを向くと、黒い服に身を包んだ細型の人間が目に入る。

 残念ながら下を向いているせいで顔はハッキリ見えないが、目の前の人物

は女性同様に髪が長く、驚くべき事に胸もしっかり付いている。


 

 俺は夢でも見てるのか? 

 コイツは間違いなく女じゃないか。

 しかも、黒いキャットスーツを着ているという事は……

 奴はイザベルで間違いない……



 うわー。急に寒気がしてきた。

 一体、どうしてこうなった?

 もはやパニック寸前だが、今はあれこれ考えている場合ではない。

 一刻も早く逃げなければ。

 

 なぜか微動だにしないイザベルに気付かれぬよう、神経を研ぎ澄まして移動を開始する。

 が、歩き始めてまもなく足を取られ、勢いよく床にずっこける。

 

 

 しまった。俺とした事が。

 今の音をきっかけにあいつが動きを再開してなければいいが。

 恐る恐るうしろを振り返ってみる。


 


 

 

 

 

 

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