第62話 保健教官は美女か野獣か?
えっと、保健教官はどこだ?
正面の机には誰もいないな。
それと用具入れ、流し台、窓付近にも人は見当たらない。
となると、カーテンが閉まってるせいでよく分からないが、ベッドで
ケガ人の看病でもしているのかな?
そういえば保健教官はどんな人なんだろうか?もしかして絶世の美女だったりして。
出来ればそうであって欲しい所だが、期待に反して汗だくで暑苦しいおっさんの可能性もある。
あまり期待しないようにしよう。いきなりカーテンを開けるのも気が引けた為、ひとまず声を
かけてみる事にする。
「すいません。意識がない人がいるので寝かせてあげたいのですが、カーテンを開けてもいいですか?」
大きい声で話しかけてみるも、中からの反応は全くない。
おかしいな。よっぽど集中して看病を行っているのか?
めげずに再び声をかけてみるが、残念ながら返答が返ってくる事はなかった。
うーん。ここまで反応がないという事は、ひょっとして中に人がいないのか?
考えてみれば、さっきから声どころか物音すらしてこない。
ちょっと確かめてみるか。
おもいきってカーテンをめくってみる。
そこにはやはり人の姿はなかった。
何となく予感はしてたが、案の定そうだったな。
正直、大した驚きはない。だが、生徒がいないのはまだしも、教官
までいないとはどういう事なんだ?
本来だったら万一に備え、教室に待機しているのが普通だと思うんだが。
もしかして保健教官自体存在しないのか?
かなり謎な状況だが、とりあえずベッドは二つとも空いている訳だし、イザベルを休ませよう。
すぐさまイザベルをベッドに寝かせ、布団をかける。
よし。これで俺に出来る事は全てやった。
あとは、意識が回復するのを待つだけだ。
保健室中央のイスに腰掛け、気ままに時間を潰す。
現在の時間は一時二十一分か。
という事は、まだ昼休み終了から十分弱しか経ってないんだな。
ドタバタしてた割には進みがスローだ。
「う……」
退屈しのぎに机の本を読み漁っていると、ベッドの方から突然うなり声が聞こえてくる。
うん?もしや意識を取り戻したのか?
こっそりカーテンをめくり、中を見てみる。
すると苦痛に顔を歪めながらも、上半身を起こそうとしているイザベルが目に入る。
「おい、大丈夫か?」
すかさず声をかけ、イザベルの手を持つ。
「な、なんで貴様がここにいるんだ?」
そう言われてもな。反応に困るぞ。
なにせ、俺が保健室にいるのはお前を気絶させ、運んできたからに他ならない。
その真実を正直に告げたら、きっとイザベルは怒るだろうな。
下手したら、殺されるかもしれない。
それを避けるには何か話をでっちあげるしかない訳だが、さすがにすぐには思いつかない。
ひとまず今の言葉は聞き流して話をそらそう。その隙にいろいろと考えるのがベストだ。
「まあ、いいじゃないか。そんな細かい事は。まずは体を起こす事が最優先だろ?」
「確かに。貴様の言う通りだな。では、さっそく体を起こそう。すまんが、私の手を引っ張ってくれ」
よし。何とか上手い具合にごまかせたようだな。
幸先いいぞ。
「ああ、分かった」
言われた通りに手を引っ張り、イザベルの体を起こす事にあっけなく成功する。
しかし、手を放した瞬間、イザベルがうしろへ倒れそうになった為、背中を支える。
「悪いな。世話になって。貴様は意外と優しいんだな」
固い表情のまま、イザベルが予想外の言葉を口にする。
えー。ウッソー。
まさか、鬼のイザベルが俺を褒めるなんて。初めての経験だ。
本来なら飛び上がるくらい嬉しい事のハズなんだろうが、そもそも
コイツがこんな風になったのは俺が原因だ。喜べる訳ねー。
「べ、別に優しくもないと思うぞ。きっと、他の奴も俺と同じ行動を取るハズだからな。どうか、遠慮しないで頼ってくれ。何でもするから」
こうでも言わなきゃ、俺が犯した罪は償えない気がする。
せめてイザベルが自分の意志で動けるようになるまでは俺がコイツの手足となろう。
「じゃあ、さっそくお言葉に甘えて頼みたい事がある。のどが渇いたから、水が欲しい。持ってきてくれないか?」
「分かった」
ひとまずイザベルをベッドに寝かせ、ただちに水の調達作業へ入る。




