第60話 貴様。生涯を誓い合った私に隠れてエッチな事をしていたんじゃないだろうな?
こ、この声は間違いない。
鬼のイザベルが部屋のどこかにいる。
うわっ。あいつが近くにいると思うだけでゾッとする。
一体、奴はどこにいるんだ?何も考えずに横を向いてみると、険しい表情のイザベルが目に入る。
ぎゃー。
一体、いつの間にいたんだ。
「フフ。かなり驚いてるようだな。貴様のびっくりした顔が見れて嬉しいぞ」
手を口に当て、イザベルが不敵に微笑む。
このやろー。
一人で勝手に楽しみやがって。
心臓麻痺を起こしたら、どうしてくれるんだ。
「だが、今はそれ所じゃない。あの女は誰だったんだ? もしや、貴様。生涯を誓い合った私に隠れてエッチな事をしていたんじゃないだろうな?」
イザベルの眼光が一気に鋭さを増す。
そ、そうだった……
俺はコイツとも生涯を誓い合っていたんだ。
まずい。どうにかしてごまかさなければ。
「言っとくが、俺はエッチな事など何もしていない。お前の言うキノコ女子とは、単なる幼馴染だ。決して将来を誓い合った訳ではない。どうか信じてくれ」
とっさに考えた嘘で状況打開をはかる。
「……分かった。ならば、今回は貴様を信じよう」
納得したような表情を浮かべた直後、イザベルは静かに部屋から出て行った。
ふー。一時はどうなる事かと思ったが、大事に至らなくてよかった。
安心したのもつかの間、今度はイザベルと入れ替わるように赤月が部屋に入ってくる。
おいおい。何だよもう。
「ひどい……私はただ一途に信じていたのに。すさくさんはそうではなかったんですね」
目の前に来るなり、赤月が今にも泣きだしそうな表情を見せる。
な、何がどうなっている?
間違いなく部屋にいなかったハズの人間が、どうして俺の発言を把握しているんだ?
こんなのありえないぞ。
「やっぱりすざくさんは私なんか捨てて綺麗なイザベルさんを取るんですね。なら、いいです。私はここで死にます」
次の瞬間、赤月が制服の胸ポケットから透明な袋を取り出す。
粉の入った袋なんて取り出して何をするつもりだ?
まさか、毒が入ってるんじゃないだろうな。
「これは火王粉と言います。主に凶暴な植物モンスターから抽出され、強い衝撃を与える事で爆発する性質を持ちます。ですので非常時にも使える代物なのですが、今から死ぬ私には必要ありません。では行きます」
赤月が右手を上に挙げ、粉を叩き付けるそぶりを見せる。
「ま、待ってくれ。正直に言う。イザベルに言ったあの言葉は全て嘘だ。だから、思い留まってくれ」
「え? それは本当ですか?」
赤月が動きを止め、やや驚きの表情で尋ねてくる。
「ああ」
「きゃー。うっれしー。すざくさんを信じてよかった」
騒がしく何度も飛び跳ね、赤月が喜びをあらわにする。
どうやら、もう心配はいらなそうだな。
よかった、よかった。安堵感からベッドに倒れこむ。
「お、おのれ……」
うん?なんだ今の低い声は。
あ、いけない。そういえば、赤月の事を忘れていた。
あいつはまだ部屋の中にいたんだったな。
あれ?でも、赤月の声とは若干異なるような気がするが、思い過ごしだろうか?
うしろを振り返ってみると、まるで鬼のような形相をしたイザベルが目に入る。
な……
なんでコイツがここにいるんだー!
冗談じゃないぞ。ただただ茫然としていると、突然背中に痛みが走る。
いって。いきなり何だよ。
「す、すいません。廊下でボール遊びをしていたら、手が滑ってしまって」
申し訳なさそうな表情で少年が目の前に姿を現す。
はて?俺は今まで自分の部屋にいたハズだが、どうやら学校にいるようだ。
何がどうなってんだ?やがてボールを手にした男子生徒は、静かに教室から去っていった。
あ……
思い出した。そういや俺は、一限目の途中でとんでもない眠気に襲われたんだったな。
おそらく、部屋での出来事は全て夢だったんだろう。ホント、現実でなくてよかった。
何だかようやく頭が回ってきた感じだが、教室にいる生徒の数が明らかに少ない。
もしかしてちょうど昼休みなのか?えっと、現在の時間は一時二分……
え?なんだ、こりゃ。確か、昼休みが終わるのは一時十分だよな。
という事は、授業が始まるまでたった八分しかないではないか!
あっのバカ。なぜ俺を起こさなかった?
教室を見回してみるが、ステファンの姿はどこにも見当たらない。
畜生。しっかりオーケーサインまで出したくせに。
なんて奴だ。見つけ次第こらしめてやる。
「あら、やっと起きたわみたいね。てか、アンタはいつも寝過ぎよ」
背後から女子の声が聞こえてくるが、普通に無視する。
あいつはどこにいるんだ?
さては食堂か屋上でくつろいでるのか?
くっそ。幸福そうな奴の姿を想像するだけでも腹が立ってくる。
「ちょっと、話を聞いているの? どうせアンタは、ステファン君の事を探してるんでしょ? 私、彼の居場所を知ってるわよ」
謎の女子の言葉に興味を惹かれ、うしろを振り向く。
「なんだ、俺に話しかけてきたのはお前だったか」
「そうよ。わざわざアンタみたいなのに話しかけてやったんだから、感謝しなさい」
いかにも高圧的な態度でミリアン=キーリが言葉を返してくる。
たく。コイツはいつも上から目線だな。
そりゃ、キーリは綺麗な金色の髪をなびかせ、かつ顔も整っている。
それでいて胸もまずまず豊満で勉学に関しても優秀だ。少しくらい自信
過剰になってもおかしくないだろう。
ただ、あまりにも俺への態度がひど過ぎやしないか。
さすがにへこむぞ。
「分かった、分かった。お前には感謝している。で、ステファンはどこにいるんだ?」
ショックを受けつつも会話を続ける。




