第6話 もしかしてあんな事やこんな事をしてくれたりして
かなりぐったりしてる感じだが、休めば少しは良くなるだろう。
しばらくは様子見だ。
「一応、タオルと着替え用の衣服も置いておきますので自由に使って下さい。では、ごゆっくり」
部屋から退出し、水分補給でもしにリビングへ向かう。
や、やべ……
なぜか急に眠くなってきたぞ。
こりゃ、まずい。ちょうど目に入った白いソファーに倒れるようにもたれかかる。
ふー。心が安らぐ。
ほんの十分ばかし仮眠でも取ろう。
十四時時二十五分である事を確認し、目を閉じる。
「石野すざく。待てー」
「ぎゃー」
鬼のイザベルがこっちへ来る。
なんでじいちゃん家にあいつが?
「私の言葉が分からないのか。貴様は!」
「う、うるさい。どうせ、とっ捕まえたあげくゲンコツでも喰らわすつもりなんだろ」
「何を言う。私はただ可愛い教え子の頭をなでなでしようと思ってるだけだ」
な……
超絶美人が何の惜しげもなく、お触りしてくれるだと。
ならば、是非。あっさり誘惑に負け、足を止める。
「その言葉は本当だろうな?」
「フッ。もちろん」
ひっ。鬼が笑った。
何か悪い予感がする。
やっぱ止めだー。
「フフ。かかったな。私がそんな事する訳ないだろうが」
再び走行を開始しようとした時には時既に遅し、まんまとイザベルに腕を掴まれる。
「くっ。思った通り、罠だったか……」
「では、只今から尻叩き百回の刑を取り行いたいと思う。覚悟はいいか?」
「ちょ、ちょっと待て。聞いてないぞ」
「うるさい! 問答無用だ!」
「いってー」
なんで何もしてない俺がケツを叩かれなければいけないんだ?
あまりにも理不尽過ぎるだろ。
「さあ、あと九十九発だ」
「そんな……うわっ」
くー。何だよ、もう。
頭がめっちゃ痛え。
あれ?目の前に薄暗い光景が広がっている。
さらに横には白いソファーがあるぞ。
とすると、今までの悪夢のような出来事は全て夢だったんだな。
何だかホッとした。
てちょっと待てい!
あの人はどうなったんだよ。それ以前に何時なんだ?
げっ。十六時二十五分……
やっべー!ただちに一〇二号室へ直行し、部屋をノックする。
「すいません。中へ入ってもいいですか?」
「…………」
ひょっとしてまだ眠ってるのか?
別にそれならそれで構わない。
が、未だに具合が悪いんだとしたら、最悪の可能性もありえるぞ。
となれば静かにドアを開き、奥へと進む。
すると、ベッドの片隅でじっとしている少女の横顔が目に入る。
もしかしたら女の子かもしれないと思ったが、案の定そうだったな。
はたして調子はよくなったんだろうか?
まあ、自力で起き上がれてる所から判断して多少は回復したんだろう。
とりあえずよかった。
にしても、ほとほと運に見放されてきた俺が女の子と二人きりだなんて。
ムフフフフフ。しかも、上着を脱いだ事であらわになった巨乳。
こら、化け物級にでかいぞ。正面からしっかり顔を捉える為、一、二歩前に出てみる。
おー。素晴らしい。
つぶらな瞳に小さい鼻。加えて顔自体も小さく、銀色のロングヘアーが妖艶さを引き立たせている。
正にパーフェクトな見た目だ。
おそらく年齢は十代後半くらいなのだろうが、何とも言えない神々しいオーラまで漂っている。
うわー。やば……
急に緊張してきたぞ。全然体が動かない。
どうしよう?
「本日は気分が優れない所を助けて頂き、ありがとうございました。感謝してもしきれません」
まさか、美少女から話しかけてくれるなんて。
この笑顔を見てるだけですこぶるいい気持ちだ。
「い、いや。礼なんていいんです。困ってる人を助けるのはいわば当然ですから」
「フフ。本当にピュアなのですね。あなたになら私のすべてを捧げてもいいでしょう」
えー。
その言葉はどういう意味だ?
もしや、何かご褒美でもくれるんじゃ。
ムフフフフフ。きっとそうに違いない。
俺にもやっと春が。神様ありがとー。
やがて彼女がゆっくりと立ち上がり、目の前までやってくる。
そして続けざまに手を優しく握り、目と目を合わせてくる。
おー。ついに超絶美少女から愛の贈り物が。
心なしか胸の鼓動が高まってきたぞ。
「……完了です。只今を持って全ての準備が整いました」
意味深な言葉を残した直後、彼女がそっと体から離れ、コートを羽織り始める。
お、おい。何がどうなっている?
もしかしてこのまま帰るとか抜かすんじゃないだろうな。
「では、私はこれで」
な……
なんじゃ、こりゃー!
丁寧なお辞儀を済ませると、彼女は何ともしっかりとした足取りで部屋から去っていった。