第59話 口付けすればいいんじゃないかだと!冗談じゃない!そんな事出来るかー。
「おー。我が友よ。聞いたぞ。二日前のモンスター襲撃事件はなんとお前が窮地を救ったんだってな」
中に入るなり茶髪がよく似合う悪友、ロード=ステファンスが話しかけてくる。
朝なのにも関わらず、コイツはいつも通り爽やかだな。
ちょっと羨ましいぞ。
「そういえばお前はあの日、学校を欠席していたんだよな。ならばいろいろと知らなくて当然だが、俺がモンスターを退治出来たのはただ運がよかっただけだよ」
「あれ? いつもならすぐ調子にのるのに今日は妙に謙遜してるじゃないか。ひょっとしてお前。ここぞとばかりに女の子の好感度を上げようと、クールにふるまってるんじゃないだろうな」
にわかにステファンが警戒した表情を見せる。
「バカ言え。お前じゃあるまいし、そんな事するか」
「フフ。バレたか」
白い歯を見せ、ステファンが爽やかな笑みを浮かべる。
「そりゃ誰が見たって分かるだろ。なんてたってお前は、ほぼ毎日可愛い女子達に花束を贈り、自分の存在をアピールしようとしてるんだからな。気付かない訳がない」
「フフ。そうだろ。俺は無類の女の子好きだからな」
何を勘違いしたのか、ステファンが誇らしげに胸を張る。
どうしてこうコイツは馬鹿なんだろう。
勉強は凄まじく出来るくせにアホ丸出しじゃないか。
「だったらなおの事だ。いい加減女子達に花を贈るのは止めた方がいいぞ」
「ど、どうしてだ?」
「だって女子は皆うざがってるからな」
「な……」
ステファンの体が突如硬直し、決して動く事ない銅像のように完全静止する。
あ……
しまった。
つい正直な言葉を口にしてしまった。
こりゃ、やばいパターンだぞ。
「あーあ。まずい事をしたな」
若干にやつきながら、ラースが近寄ってくる。
「やっぱ言っちゃいけない言葉だったよな。俺はどうしたらいい?」
「そうだな。口付けでもすればいいんじゃないか」
何食わぬ顔でラースがふざけた言葉を口にする。
「バカヤロー。少しは真面目に考えろ、このクソデブ」
「な、なんだとー。人が真剣に考えたというのになんて奴だ」
頬を膨らませ、ラースが怒りを露わにする。
「フン。ぬかせ。口付けすればいいと答えたお前のどこが真面目なんだ」
「ぬぬ。それは……おっと、バカ話をしてる間にイザベル教官のお出ましだ」
「なに?」
イザベルの名を聞いた瞬間、全く微動だにしなかったステファンが移動を開始する。
そしてしっかりとした足取りで自分の座席に腰掛けた。
えー。これはどういう事だ?
まさか、イザベルの名前を聞いただけで気力が回復したってのか?
普通ならありえないような話だが、あいつの表情はとてつもなく嬉しそうだった。
そう考えるのが妥当だろう。ホント、単純だな。
イザベルに叱られぬよう。俺もステファンの真横の座席に着席する。
程なく、いつもながら不機嫌そうなイザベルが教室に入ってくる。
「諸君、おはよう」
「おはようございます」
「フフ。元気がよくて何よりだ。どうやら皆体調はよさそうだな」
出席確認を行った後、イザベルから二日前の出来事について報告が成された。
話によるとモンスターが大量発生した原因はいくつかあるものの未だ謎も多く、
完全に真相がハッキリするまで今しばらく待って欲しいとの事だった。
「通達事項は以上だ。では、気を引き締めて授業を受けるように」
クールに話を締め、イザベルは颯爽と教室から去っていった。
「くー。イザベル教官はいつ見てもかっこいいな。正に威厳溢れる女神のようだ。お前もそう思うだろ?」
目をキラキラと輝かせ、隣のステファンが話しかけてくる。
「まあな。あいつは美人だし、スタイルも抜群だからな。男なら誰でもいい印象を抱くんじゃないか」
「そうか。お前も密かにイザベル教官を狙っていたんだな。ならば俺達は友であり、ライバルでもある訳だ。決して負けないぞ」
爽やかな笑みを浮かべ、ステファンが親指を立てる。
は?何言ってんだ、コイツ。
一体、誰がイザベルを狙っていると言った?
「おい。それは誤解だ。俺は――」
「イザベル教官との出会いは、雨が降りしきる四月五日の午後だった。俺はあの日から教官の事が……」
あーあ、ダメだこりゃ。
完全に自分の世界に入ってしまっている。
面倒そうだから無視しよう。
適当に時間を潰している間にあれよあれよと五分程経過する。
「すると教官は不機嫌そうにしながらも」
えっと。今の時間は八時五十九分か。
そろそろ授業開始だな。確か、一限目は歴史だったハズだ。
そうこうしてるウチに授業開始のチャイムが鳴り、大柄な男性教官が教室に入ってくる。
「では、授業を始める」
この頃にはさすがのステファンもバカ話を止め、机の中から教科書を取り出す。
何だかんだ言ってもコイツは真面目だな。
きちんと休み時間と授業の切り替えが出来ている。
そりゃ、成績もいい訳だ。
だが、出来の悪い俺だってやれば出来るんだからな。
見てろよ。意気込んではみたものの、授業開始からたった数分でとてつもない眠気に襲われる。
ヤ、ヤバい……
まさかの事態だ。眠くてしょうがない。
「この日はのちの英雄となったアリフォロス一世が、魔王ドラクレイシスを葬った事で知られている。よく覚えておくように」
うっ。ダメだ……
残念だが、持ち堪えられそうにない。
万一の寝過ごしに備えて机からメモ帳を取り出し、昼休みまで眠っていたら起こしてくれと書き記す。
よし。あとはこれをステファンに渡すだけだ。
まもなく男性教官が背を向けた為、隣の机めがけてメモ帳を投げる。
すると、すかさずメモ帳を手にしたステファンが紙に目を通し始め、笑顔で親指を立てる。
どうやら、内容を理解したようだな。
なら、もう心配する必要はない。
おやすみ。
「すざくさんは……私の事が世界で一番好きですか?」
いきなり部屋に上がり込んできた赤月が、顔を赤くしながら問いかけてくる。
「ああ。あたり前だろ」
「フフ。そうですか。その言葉を聞いて安心しました」
満面の笑みを浮かべたかと思いきや、赤月がそのまま部屋から出ていってしまう。
はて?あいつはどうしてあんな事を聞きに来たんだ?
確認せずとも俺達は生涯を誓い合った仲なんだから、心配する事もないだろうに。
もしかして俺が他の女子に目移りするとでも思ったのか?
だとしたら、バカだなー。男の中の男である俺が簡単に心変わりする訳ないのに。
「おい、すざく。私というものがありながら、今のキノコ女はなんだ? 返答次第では地獄に葬るぞ」
誰もいないハズの部屋から、突如ある女の声が聞こえてくる。




