第56話 黒豚でも落ちてきたのか?
ひー。どうやら近くに悪魔がいるみたいだぞ。
一体、どこに?周りには誰もいないぞ。
も、もしかして。上にでもいるんじゃ。
「しまったー」
広大な空間が広がる天井に目をやろうとした正にその時、頭上から何かが覆いかぶさってくる。
な、何だ、いきなり。
目までしっかり被さっているせいか、何も見えやしない。
おまけに落ちてきた物体が重すぎるせいで首がひん曲がりそうだ。
ひょっとして黒豚でも落ちてきたんじゃないだろうな。
まじ辛え。もはやこうなったら一カバチかだ。
力ずくでどうにかしてやる!勢いよく謎の物体に触れ、感触を確かめてみる。
こりゃ、想像以上に柔らかいな。
やっぱ動物なんだろうか?
「バ、バカ。尻に触れるなどハレンチ極まりないぞ」
お、おい……
まさか、俺が豚だと思っていた物体は先輩だったんじゃないだろうな。
「そ、それはどういう事です? 俺は単に顔にのってるのを……ハー。ハー。ただただどかそうとしていただけなんですが……どうして尻がどうとか言ってるんですか? 理由を教えて下さい。まゆり先輩」
「実はだな」
試しに名を出してみたが、コイツは一切否定せずに話を始めた。
おそらく、謎の未確認生物は悪魔で間違いないんだろう。
またしても危機の到来だ。
「私はお前にキックを食らわせようと思い、高くジャンプしたんだ。そこまではよかった。しかし、途中でバランスを崩してしまってな。止まるに止まれず、股間から顔に落ちてしまったんだ」
たっく。バカ丸出しだな。
人にいきなり攻撃を食らわせようとする馬鹿がどこにいる?
全くもって危険な奴だ。だが、よく考えてみればこれは男にとって最高のシチュエーションなのではないか。なにせ、頭上にあるのは尻だ。興奮しない訳がないぞ。
「そうだったんですか。ケガはないですか?」
「ああ。お前がクッションとなってくれたからな。助かった。ただ、このアンバランスな体勢は何かと辛い。一刻も早く床に下してくれ」
ちっ。せっかくのパラダイスタイムが終わってしまうのか。
残念だ。しかし、もう首が限界だ。止むを得まい。
ゆっくりと体を傾け、首を地面に付ける。
「よし。ここまで来ればもう大丈夫だろう」
まもなく首を襲っていた圧迫感がなくなるが、未だに視界は暗く、目の前の景色を見る事も出来ない。
はて?何がどうなっている?
重みを感じなくなった代わりに目を押さえつけられている感じがするぞ。
「あの先輩――」
「しばし大人しくしていてくれ。暴れなければ一瞬で終わる」
おいおい。コイツは一体何をしようとしているんだ?
全く訳が分からん。と言っても、現状況ではとても逆らえそうにないがな。
「分かりました。静かにしときます」
「フフ。賢明な判断だ」
ただただじっとしていると、突如として金属がこすれるような音が耳に入る。
な、なんだ、この怪しい感じは。
心なしか首にも妙な違和感を感じるぞ。
もしや、どさくさに紛れて何かよからぬ事を。
いても立ってもいられなくなり目を開けると、不気味にほほ笑む先輩が視界に入る。




