第5話 この子は女子なのか?それともおっさんなのか?
はー。エラい目にあった。
確認してないから分からないが、きっと赤く腫れあがってるんだろうな。
凹みながらも教室へカバンを取りに行き、家どころか木々すら生えていない街道を歩き始める。
程なくすると、やや強めの雨が降ってくる。
ちっ。ついさっきまでは雲一つない青空だったのにどうして急に。
持ち合わせていない傘の代わりにカバンで顔を覆い、街道をひたすらに走る。
うわっ。きっつ。
おしおきされたからか足が重い。
早く家に着かないかな。
歯をくいしばりながら走行を続けていると、やがて前方に一本の木が見えてくる。
やれやれ。やっと中間ポイントに到着か。あとちょっと頑張るぞ!
えいえいおー!
あれ?ちょうど大木の下にフードを被った人がいる。
見るからに厚着だが、何やってんだ?
あ、そうか。雨宿りか。
どうりでずっと動かないでいると思った。
足早に通過しようとするも突如謎のxがしゃがみこんだ為、思わず足を止める。
えー。まさか、具合でも悪いのか?
なかなか起き上がらない所から判断するに間違いない。
こうしちゃおれん!
「あの、ひょっとして気分が優れないのですか?」
すぐさま駆け寄り、声をかけてみる。
「……え、ええ。ちょっと」
パッと聞いた感じでは、トーンが高いな。
という事は女の子なのか?うーん。よく分からん。
ただ、とてもか細い事はハッキリしている。
加えて体が小刻みに震えている状況から考えるに風邪でも引いてるのかもしれないな。
ひとまず俺が家まで運んでやるとするか。
「失礼ですが、お住まいは?」
「…………」
おいおい。無反応かよ。
もしや、尋ね方が悪かったのか?
「よければ手を貸しますので場所を教えて頂けませんか?」
「…………」
もう何なんだよ。沈黙する訳が分からん。
もしかして帰れない理由でもあるのか?
こりゃ、よわったな。さすがにこれ以上は聞けない。
となると宿屋にでも運んで休ませるしかないが、残念ながらまともな金を持ち合わせていない。
さて、どうするか?
えーい。もう面倒くさい。ここまで来たら、我が家に誘っちゃえ!
「もし大丈夫なら、家がすぐそばにあるので休んでいきますか?」
「そ、それは……」
やっとしゃべってくれたと思いきや、また黙り込んでしまったな。
やっぱりいきなりはまずかったか。
「助かります。どうかよろしくお願いします」
おー。こら意外な展開だ。
普通だったら警戒心が働き、即効で断りを入れるだろうに。
よっぽど具合が芳しくないんだろう。
きっと自力で歩くのも困難に違いない。
「では、お連れするので背中にのってください」
「え? 大丈夫ですか? 私、かなり重いですよ」
「何の問題もありません。遠慮しないでください」
「なら、お言葉に甘えて」
名も知らない謎の人物をおんぶし、再び歩き始める。
まさか、こんなハプニングに出くわすとはな。
雨がめっさ冷たい。ちょいとしんどいが、思ってたより全然軽いな。
一体、体重はどれくらいなんだろうか?
ちゃんと食事をしてるんだろうか?
そもそも女の子なのか?男子なのか?
気になる点が多いな。まあ、いいや。
とりあえず最短ルートで帰るにはっと。
やや早歩きで街道を抜け、約三分ほどで商業エリアに足を踏み入れる。
あらら。今朝は出稼ぎにやってきた商人達がわんさか賑わっていたのに。
ほとんど人の姿が見られない。さては商売を切り上げたのか?
どちらにせよ、殺風景な景色を眺めてるより、木造建築や宿泊施設が立ち並ぶ光景の方がなんとなく落ち着く。
ささ、とっとと先に進むぞ。
着々と歩を進め、数分後には森林エリアへ到着。
そして木々に囲まれたまっすぐ進み、二番目の十字路を右に曲がるといよいよ前方に我が家が見えてくる。
来たー。まるで主人を祝福してるかのように光り輝いている。
フフ。あいつもさぞかし嬉しいに違いない。待ってろよー。今すぐ行くからな。
あ、あれ?
数秒前の光景が嘘のように暗く感じる。なぜだ?
うっわ……
めちゃくちゃ真っ黒い。
てか、もともとこうじゃないか。
最初やってきた時もやたら鬱蒼とした森に囲まれ、とにかく不気味だった。
そういえば数か月前に人を招待した時には、ドラキュラ屋敷だの、幽霊屋敷だの散々酷評されたんだっけな。だいぶ苦い記憶が蘇ってきた。嫌な気分に苛まれながらも門を通過し、中へ入る。
ふー。つっかれたー。足がパンパンだ。
にしてもやはり、住み慣れた住まいはいいな。
ホント、経営者のじいちゃんが譲ってくれてよかった。
なんてたってマイスウィートハウスは元宿泊施設という事もあり、広さが尋常じゃない。
パッと見では、大豪邸と言っても過言ではないだろう。
ただ反面、一階から四階まであるせいか掃除が大変なんだがな。
この間なんて家中綺麗にするだけで三時間もかかってしまった。
想像していた通り、一人暮らしは何かと苦労が伴う。
だが、今の所はじいちゃんから送られてくる仕送りのおかげで命の心配はないがな。
さーて、そんじゃあ部屋へ行くとしますか。
具合の悪いご客人を一階にある一〇二号室まで運び、ふかふかのベッドに寝かせる。