第36話 何だ!この柔らかい感触は
へ?何のこった。
あー。しまった。
いろいろあり過ぎたせいですっかり忘れていたが、数字がゼロになったら俺は死ぬんだ……
「どうしたんですか? 急に顔色が悪くなりましたよ。もしかして具合が優れないんですか?」
「いや。別に。ただ、ライフがゼロになったら終わりなのを今思い出してな。少し病んでただけだ」
「なら、ちょうどいいですね」
「え?」
「早く事を成してちゃちゃっと不安を取り除いてしまいましょう!ヤッホー」
おいおい。ちょっと待て。
そりゃ俺だって美少女といちゃいちゃ出来るのは嬉しい。
ただ、さすがにノリでするのはまずくないか?
下手したら、コイツの心に深い傷を残してしまうかもしれないぞ。
悲惨な状況となる前に意思確認だけはしておいた方がいいだろう。
「そらありがたいが、お前はいいのか?」
「はい。私はもともと恩を返す為に来ましたので後悔はありません」
「違う。俺は、お前の意思がどうなのか聞いているんだ」
「え? なんでそんな事を気になされているのですか?」
「なぜって。本人の気持ちを無視したら、相手が傷付くからだろ」
「そ、そうですか。心配してくれてたんですね。ありがとうございます」
あれ?妙にもじもじしているな。
ひょっとして照れたんだろうか?よく分からないが、話の続きをしよう。
「礼なんていいから、本心を聞かせてくれ」
「……分かりました。では、率直な気持ちを。私、赤月もえこはキスをしても何ら問題ありません。なぜなら、明らかな好意を抱いているからです。さ、早くしましょう」
「ちょ、ちょっと待て。こういうのはだな、ムードが必要なんだ」
「ムード……ですか?」
ふー。よかった。
何とか分かってくれたみたいだな。
「ああ。キスというのは、互いの心が高揚した時に行うから意味があるんだ。二人の気持ちが揃わなければ、決して成立し得ない」
というのを昔聞いた覚えがある。
もしかしたらちょっと間違ってるかもしれないが。
「従って――」
「了解です。すざくさんはまだ乗り気じゃないのですね。なら、じっと待ちたいと思います」
ありゃ?コイツにしては妙に物分かりがいいな。
さっと風呂イスに座り、目を閉じたぞ。
どうしたんだろう?まあいい。
何はともあれ、あとは実行に移すのみだ。
実にシンプルだが、そういえばキスってどうやれば?
やべえ。途端に不安が増してきたぞ。
額から流れ出る汗を拭いながら隣のイスに腰掛けるも一向に気持ちは落ち着かず、たまらず目を閉じる。
大丈夫だ。平常心で臨みさえすれば、きっと上手くいく。
いいか。絶対にネガティブになるな。黙々と言い聞かせていた最中、突然唇に何かが触れてくる。
うん?なんだ、この生暖かい感触は。妙に柔らかいぞ。
次第に口の中へ何かが入り込み始めた為、慌てて目を開ける。
すると、わずか数センチ程の距離にいる赤月が視界に入る。
「わっ!」
「いったーい……もう何するですか。女の子を突き飛ばすなんて最低ですよ」
「悪い。びっくりし過ぎてつい。てか、そもそもなぜ顔がすぐ目の前に? もしかして何かしたのか?」
「もう。そんな分かりきった事を。すざくさんたらいけずー」
「バカヤロ。目を閉じていたんだから、何が起きたか分かる訳ないだろ」
「あっ。うっかりしてました。ですよねー。では、私の口から正体を発表したいと思います。唇に触れたモノ。それは……私の唇でっす!」




