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第10話 黒こげにした犯人は俺?

 うわっ。教官達が一斉に走ってきやがる。

 なんて状況だ。おそらく周囲に誰一人いないという事を考えると、俺が疑われるべき人物として徹底マークされるに違いない。


 とりあえず被害者のふりでもしよう。僅かばかり距離を取り、かつ彼等の観察を行うべく目を若干開けて横たわる。

 

 

「ひどい。誰がこんな事を」

「ですね。何者の仕業でしょう?」

 

 予想はしてたが、教官達は犯人が気になってしょうがないみたいだな。

 ますます不安になってきたぞ。

 

「今の所、詳細については不明だ。だが、幸いにもダメージは軽い。意識もしっかりあるのだから、少なくとも命に別状はないだろう」

「では、タンカに乗せて処置をしましょう」

 まもなく男子生徒は、複数の教官達によってどこかへと運ばれていった。

 

 ふー。よかった。

 さすがに死んでなんかいたら、後味が悪いからな。

 安堵したのもつかの間、しばし遅れてイザベルが姿を現す。


 げっ。よりにもよって鬼が……

 冗談じゃないぞ、おい。

 もはや不安しかないが、俺だってこうして病人したくしてるんだ。

 乱雑には扱われまい。やがてイザベルが目の前までやってくると、軽く息を吐きながら地べたにしゃがみ込む。


 相変わらず怖えー。

 おそらくは、状態をチェックしたいが為に大勢を低くしたんだろう。

 もう勘弁してくれー。んな事されたら、無傷である事が完全にバレてしまうではないか。

 不安と緊張が高まる中、イザベルがなまめかしい表情で顔を近付けてくる。


 は?何がしたいんだ、コイツは。

 も、もしや……


 

 なかなか目を開けないもんだから、キスで目覚めさせようとしてるんじゃ。

 いや。きっと、何かの間違いだ。と思いたいのは山々だが、既に距離が五十センチ程度しかないではないか。ぎゃー。現実から視線を逸らすべく目を閉じた瞬間、乾いた音と共に強い衝撃が頬に走る。

 

 いってー。いきなり何だよ。

 まるで頬が焼けるように痛いじゃないか。

 何が起きたというんだ?ほんの少しばかし目を開けてみると、今正に右手を振り上げたイザベルの姿が飛び込んでくる。


 な……

 はてしなく嫌な予感がするのは単なる偶然か?

 直後イザベルの右手が急降下を始め、罪なき左頬が餌食となる。

 

 ちっくしょう……

 なんで俺だけいつもひどい目に。

 さすがに我慢の限界だ。


 と言いたい所だが、すぐ熱くなってはダメだ。

 確かにイザベルは間違いなく、変態暴力女だ。

 疑いの余地はない。だが、一方で頭がキレるのも事実だ。

 おそらくコイツは俺が小芝居をしていると早い段階で判断し、ビンタ後の反応を見てるに違いない。

 そこから本当にケガ人であるのかないのか見極めようとしてるんだ。

 危ない、危ない。まんまと引っかかる所だった。

 握りしめていた拳の力を抜いた瞬間、再び悪魔が不穏な動きを見せる。


 お、おい。

 また手が上空に。

 という事は……

 

 案の定悪い勘は的中し、二発目のビンタをお見舞いされる。

 

「こ、このやろー! 倒れている奴を平気でバシバシ殴りやがって。お前は何様のつもりなんだ」

「ほー。立ち上がる元気があるというのに横たわっていたのか」

 


 う……

 どうやら、まんまとコイツの術中にハマってしまったようだ。

 面目ない。


「さぞかしいいご身分だな。話によると、貴様が魔法を唱えた後にさまざまな異常が発生したという事になっているが」


 げっ。こら、まずいぞ。

 今のままだと、間違いなく犯人として扱われてしまう。

 必死に思考を巡らせてはいるが、何一ついい手が浮かんでこない。どうしたらいいんだ?

 

 うーん。あれ?

 ちょっと待てよ。

 

 

 確か雷鳴が鳴り終わった後に目を開けた時、周囲にはひとっこ一人いなかったよな。

 しかも、校庭にいたほとんどの奴は空が光りだした時点で目を閉じていたに違いない。

 とすると、彼が黒こげになった瞬間なんて誰も見てない可能性が高い。

 ひょっとしたら、そこに濡れ衣を晴らす手だてがあるかもしれないぞ。

 

「残念ながらお前が言った事は事実だ。否定する気はない。だが、実際に一部始終を目撃した奴がいるのか?」

「いや。いない。頼みの教官すら逃げてしまったからな」

 

 

 たく。審判が途中でいなくなるなんて普通じゃありえないぞ。

 最初はかっこいいと思ったのに。


「だが、現在校庭にいるのは貴様だけだ。見た所、傷もない。となれば、怪しいと思われても仕方ないだろ」

 

 そ、それはそうだが。

 少しは俺を信じてくれたっていいじゃないか。


「気持ちは分からなくもないが、あまりに情報が不足してやしないか。もしかしたら不審者がどこかに――」

「黙れ! 潔く罪を認めろ」

 何だよ。まともに喋るチャンスすら与えないってか。

 なんて事だ。こうなったら、しょうがない。


 


「う、腕が……」

「いきなり何だ?」

「実はさっきモンスターに襲われてな。早く治療を行わないと死ぬかもしれない。帰っていいか?」


 もはや、危機的状況を逃れるには嘘しかない。

 望み薄だが、賭けてみるしかないだろう。


「馬鹿者! 魔物が来た形跡なんて一つもないではないか!」

 

 くっ。ダメだったか。

 だからといって絶対に諦めないぞ。

 俺が犯人である確固たる証拠はないんだからな。

 

「違う。ここに来たのは飛行タイプだ。であれば、跡が残らなくても不思議じゃないだろ」

「まだ嘘を貫き通すつもりか? いい加減にしろ。もし仮に話が本当ならばケガ人は一人じゃ済まなかっただろうし、目撃情報がもっと出てきていいハズだ。違うか?」


 畜生。正論過ぎてとても言い返せない……

 さすがイザベルとしか言いようがないが、なんて憎たらしい言葉遣いなんだ。

 俺だって一応はクラスの人間なんだぞ。なのに。

 

 

「イザベルのいじわる!」

「な、何を子供みたいな事を」

「フン。お前だって年齢的にはガキだろうが」

「うるさい! 貴様にだけは言われたくないぞ」

「何がだ。この冷血女狐!」

「(おのれ。すっかり調子にのりおって。本来ならただちにゲンコツを見舞いたい所だが、教官が多くいる場所ではいくら何でもまずい。心を鎮めなければ)

ゴホン。まあ何にせよ、現場にしばらく残っていろ。逃走を図ろうとしてもろくな事にならないだろうからな」

 いつもながらクールな表情で話を締めると、イザベルは静かに校舎へと消えていった。

 結局何も出来なかったな。不本意だが、仕方がない。

 言いつけ通りに留まっていると、まもなくある人物がこちらへ歩いてくる。


 整った顔立ちに引き締まった体。

 加えて軍人を思わせるかしこまった服。

 あれは昨日、火を消してくれた若教官だ。

 ちゃっかりいたんだな。

 

「君が石野すざく君か?」

「はい」

「聞きたい事があるんだが、ちょっといいかな?」

 それからしばしの時間を挟み、一連の出来事に関する話が続いた。

 しかし濡れ衣を晴らす事は出来ず、程なく教官達は皆目の前から去っていった。


 

 ホント、最悪だ……

 動く気力すらない。


「石野すざく!」

 わっ!いきなり何だよ。

 振り返ってみると、姿を消したハズのイザベルが目に入る。


「いつの間に。もしや、不幸な男を笑いに来たのか?」

「いや、その……実は私も、Eランクの貴様にあんな事が出来るとは思えなくてな。百パーセント確証がある訳ではないんだ。だから、あまり気を落とすなよ」

 


 えー。まさか、励ましてくれてるのか。

 にわかには信じられない。しかも、こんなに顔を赤くして。

 フフフフフフ。ギャップ萌え最高。

 たまらんなー。おかげで少し気持ちが楽になった。

 

「あ、ありがとな、声をかけてくれて」

「いや。いいんだ。とりあえずあとの事は私に任せて授業を受けろ。分かったな」

「ああ」

 イザベルを一人残し、校内へと戻る。

  

「見て、見て。噂の少年よ」

「おい。アイツには気を付けろよ。同じ目にされちまうぞ」

 あー。うぜえ。証拠もないのにあーだこーだ言いやがって。

 そろそろ我慢の限界だぞ。そのすぐ後に校内アナウンスで呼び出され、教官室横の校長室へ向かう。


 はー。不安だ。

 まさか、校長からじきじきに説教されるんじゃ。

 心なしか変な汗まで出てきたぞ。そうこうしているウチに部屋の前へ到着した為、ドアをノックする。

 

「一年E組の石野すざくです」

「どうぞ」

 扉を開け、ついに中へと足を踏み入れる。






 

 





 



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