第1話 俺だけのハーレム王国を作るハズだったのに……
「あ。あっちー。背中が焼ける」
俺は今、誰一人いない校庭でドラゴン達と戦っている。敵の数はおよそ三百。剣一つしかない持ってない俺にはハッキリ言って絶望的な状況だ。
「だから、熱いと言ってんだろ。もういい加減にしてくれ」
ドラゴン達の口から放たれたいくつものファイアーボールが体のすぐ横をすり抜けていく。
このこんちくしょうが。
一体、俺が何をした?俺はただ青空の下、昼休みに校庭で寝ていただけなのに。
空からドラゴンが現れたと思ったら、好き勝手に暴れ回りやがって。
もう、許せん!こうなったら、魔法で奴等を葬ってやる!
本来、魔法とは人間の体内にある生命の源、マナ。
ここから魔力が生み出される事が魔法発生の必須条件となる。
さあ、さっそく呪文を唱えるぞ。残念だったなドラゴン共。
この最大の武器がある限り、俺がお前等に負ける事はない!
「我が敵に雷を下さん」
攻撃をよけながら集中力を高め、力強く詠唱を行う。
よし。来い!天下無敵の奥義おなーりー。
それからあっという間に数秒の時が経過するが、変化は何も起きず、魔法が発動される気配は一向にない。
あ、あれ……
どうした?もしかして呪文を間違えたのか?
やがて脇で静かにしていた銀竜が地を這うような低い声を上げ、威嚇を開始する。
うわっ。もたついている間に一番やばそうな奴が臨戦態勢に入ってしまった。
このままだと確実にまずいぞ。不安と恐怖が増す中、ついに銀竜が大きく口を開き、内部に黒く丸い物体を形成し始める。
あれは間違いない。
たぶん、ダークアルスターブだ。
ドラゴンの中でもより高い戦闘力を持たなければ放てないとされている。
そしてエネルギーをため終えたあかつきには高くジャンプし、標的に投下。
その威力は半端なく、半径百メートルまで被害が及ぶと言われている。
おそらく、人間に直撃すれば跡形もなく塵となってしまうだろう。
そうなる前に早く手を打たなければ。
「出でよ、サンダー」
なりふり構わず詠唱を行うと、快晴だった空がたちまち暗闇へと変化を遂げる。
続けざまに雷鳴が轟き、電光石火の如く放たれた雷が、モンスターを捉える。
えー。ウッソー。
よもや、適当に唱えた呪文で魔法発動に至るとは。
正直驚きだが、それ以上にびっくりなのがこの申し分ない攻撃力だ。
さっきまでさかんに動き回っていた魔物共があっさり黒焦げとなり、瞬く間に見るも無残な灰となってしまった。正しく神の力と言っても過言ではないだろう。
まもなく雷が全ての敵を捕らえ、しつこくはびっこていた全モンスターが視界から消えてなくなる。
あー。何とか助かった……
一時はかなり焦ったが、結果オーライだ。
大事に至らなくてまじでよかったー。
「きゃー、すざく様かっこいい」
「私のお嫁さんになってくださーい」
な……
この黄色い歓声はどこから?
うしろを振り返ってみると、校舎の窓から顔を覗かせている女子生徒達の姿が目に入る。
もしかして彼女達は熱い戦いを眺めていたんだろうか?
フッフッフッフッ。きっとそうに違いない。
これはチャンスだ!
「ふっ。俺の前ではお前らは無力だ。背が低いからといってなめるなよ」
かっこいいセリフを吐きながら、クールにターンを決めてみせる。
「きゃー」
「素敵です」
やはり強い男はモテるな。フフ。フハハハハハ。
すっかり調子にのっていると、突如謎の電子音が聞こえてくる。
もう。うっさい!あ、あれ?なんじゃ、こりゃ。
白い天井に見慣れたベッド。それに勉強机まであるぞ。
まさか、今までの出来事は全て夢だったのか?
ちっくしょー。いくら何でもあんまりだ。
俺はこっから、ハーレム王国を作ろうと思ってたのに。
そりゃ、今思えばおかしいと思う事はあったさ。
残念ながら俺は、屁みたいな魔力しか持たない。
従ってあそこまで簡単にモンスターを一掃出来る訳が……
はー。朝から気が滅入るなー。どうにかこうにかアラームを止め、時刻の確認を行う。
えっと、現在は七時二十五分か。よし。
頑張っていくぞ!ただちに一階のリビングへ移動し、パンをトースターにかける。
にしても、こんな便利なモノをよく異世界の奴等は発明したよな。
それに電話、電気、エアコンも今や生活に欠かせない。
ホント、凄まじい文明力だよな。
実は、俺等の住むフォルティアには数年までこのような機器なモノは存在しなかった。
しかし、魔法によって次元の異なる人間を召還出来るようになった事でさまざまな技術実用化。
結果、現在に至る。
近々、携帯やパソコンなるものも導入されるみたいだし、ますますハイテクが進みそうだ。
ごくごく簡単に食事を済ませてから着替えなどを行い、八時ジャストには家を出る。
今日は雲一つない快晴だな。
気温は約三十度といった所か。ちょっと暑いが、まあいい。
さっさと学校へ行くぞ。
今から遡る事およそ半年前、俺は魔法学校へ通う為、わざわざ住み慣れた町を離れてこの地へやってきた。残念ながらさほど有名でないグランダールは世界に六つ存在する六大陸の西側、レイバンド王国内に西方に位置している。
お世辞にも、決して規模は大きいと言えない。ちゃっかり三つ程エリアがあるがな。だが、不幸にも俺はあたり一帯が木々に囲まれている森林エリアに住む羽目となってしまった。今思えば、これが大きな誤算だった。なにせ周辺には、酒場や食べ物屋どころか家自体もないんだからな。おかげで毎日寂しいったらありゃしない。正に人肌恋しい今日この頃だ。
さっそくテンションダウンに襲われながらも、無事森林エリアを抜け、次の商業エリアをただひたすらに歩く。続けてさらに先にある街道も終わりにさしかかると、いよいよ前方に校舎が見えてくる。
いやー。しかし、相変わらず凄いな。
レンガで構築しただけあってめちゃくちゃおしゃれだ。
加えて建物の色も茶を基調としていてどこか古風な雰囲気を感じる事が出来る。
ああ。なんて素晴らしいんだ。間近で眺められるだけでも入学してよかったと思える。
さすが、名の知れた名門校。千年の歴史は伊達じゃないな。
魔法師の卵が集まるオスフェリア魔法学園は約千五十年前に設立され、これまでに数多くの名魔法師を輩出してきた。一方で勉学に関しても力を抜く事はなく、一般科目の授業も他校同様に行われている。制服は上が男女共に白いYシャツ、下は男が黒いズボン、女子は白いスカートという具合になっている。
にしても今日は暑いな。
早くも大量の汗が放出中だ。
あーあ。まじたまんねー。足取りは重いながらも、めげずに歩行を続ける。
あれ?そういやまだ、生徒の姿を目にしてないな。
おかしい。月曜なのになぜだ?もしや、時間を間違えてるんじゃ。
恐る恐る右手にしていた時計に意識を向ける。
な、なんじゃこりゃー!もうとっくのとうに十時を過ぎてるじゃないか。
一体、どうなってんだ?確か俺は、いつもと変わらない時刻にちゃんと出発したハズだ。
「にも関わらず、なんでこんな事になったんだー!」