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創世術師ノルン  作者: はせろう
第1章
8/14

立ち往生

「緊急放送、緊急放送! 乗客の皆様、衝撃に備えてください!」

 急を告げる放送が車内に流れる。

 そして疑問を感じる暇もなく、ノルンの体は、前方に投げ出された。

 ノルンは、訳もわからず宙を舞った。横ではノルンと同様にリーフが投げ出されている。

 キセノだけは、席にしっかり座ったまま目を薄く開いた。

 するとキセノのマントが膨れ上がり、部屋いっぱいに広がった。

「うぷ!」

 ノルンは、分厚いクッションと化したマントに包まれた。

 窓が砕ける音が聞こえ、破片が飛び散る。だが、マントに包まれていたおかげで、ノルン達には当たらない。

 風通しの良くなった窓から、他の部屋の客達の悲鳴が聞こえてきた。

「ぷはっ――おはようノルン。もう朝?」

 マントをかき分けてリーフが顔を出す。

「分からない」

 ノルンは、寝ぼけ眼をこすりながら、窓の外を確認する。

 すっかり日は昇っており、おまけに列車も止まっていた。

「お客様に連絡いたします。本列車は、進路上に浮遊石が落下してきたため、緊急停止いたしました。現在乗組員が客室を回っておりますので、怪我のある方はお申し付け下さい」

「浮遊石?」

「その名の通り空中に浮かんだ石だ。術材として有名な鉱石さ」

 ノルンの疑問に、欠伸をかみ殺してキセノが説明した。

「この地域じゃ、浮遊石の落下は珍しくない。線路に落下するのは稀だがな」

「じゃあ、線路に浮遊石が落ちたってことですか?」

 ノルンは、興味津々な表情でリーフに目配せした。

「キセノさん。僕達ちょっと外の様子を見てきます」

「勝手にしろ。俺はまだ寝る」

 興味ゼロのキセノが指を鳴らすと、マントは元の大きさに収縮して戻る。

 マントから解放されたノルン達は、砕け去った窓から外に飛び出し、進行方向前方に向けて走り出した。

 前の方では、黒い煙の筋が立ち上り、ノルン達のように外に出た乗客が集まっていた。

 人だかりの中心、線路の真ん中には、ちょっとした丘ほどもある巨大な物体が横たわっていた。石というより巨岩だ。

 真っ黒な表面の中に、所々緑色に光を反射する結晶質が飛び出している。

「でっか~! こんなのが浮いていたのかぁ」

「はいはい。危ないからこれ以上近づかないでください」

 浮遊石を囲っていた制服の作業員が、一般の乗客を遠ざけた。

「復旧作業には、どれくらいかかるんです?」

「この規模の落石ですから――早くても一週間はかかるでしょう」

「そんな……」

「お客様には申し訳ありません。我々も最大限の努力を尽くしますので」

 作業員は、野次馬の質問に丁寧に応対していた。

 それを遠巻きに聞きながら、

「どうやってどけるんですか?」

 ノルンは、手を挙げて質問した。

「掘削して岩を線路上から取り除きます。破片や粉塵が出ると思いますので、皆様は車内にお戻り下さい」

「一週間もあの狭い部屋に詰め込む気か!」

 恰幅のよい男が、作業員に噛み付く。

「それでしたら、近隣にジスプロの街があります。そこでお休みになられる方が、快適かもしれません」

 あちこちで上がる乗客の不満や質問に、添乗員も総出で対応している。

「ここに居てもつまらないし、私達もその街に行こうよノルン?」

 リーフに声をかけられたが、ノルンは、腕組みをして浮遊石の山を観察し続けた。

「? 私その辺に散歩しているね」

 リーフは、そう言い残してノルンから離れていく。

 ノルンは、山のような浮遊石とそれに挑む作業員を見て唸った。どう見ても、人手不足だし、作業員は列車の乗務員で、掘削作業に慣れた感じはない。

「キセノさんなら、この山を早くどかす方法を知っているんじゃないかな。どう思うリーフ?」

 リーフの返事は当然なかった。

「リーフ……あれ?」

 今さっきまで横にい彼女の姿は、影も形もなかった。

 ノルンは、周りをきょろきょろと見回す。

 麦わら帽を被った少女が、浮遊石の岸壁に生えているのを見つけるのに、時間はかからなかった。

「お譲ちゃん危ないから降りてきなさい!」

 作業員が下で必死に呼びかけている。

「リーフ!」

 ノルンは、野次馬の間を縫って、リーフの元に向かった。

「ちょっと君! ここは危ないから出て行きなさい!」

「すみません。でも、あの女の子は僕達の友達なんです」

「そうなのか? じゃあ君達からも降りるように言ってくれないか?」

「はい。おーいリーフ、降りて来ーい!」

「もうちょっと」

「何がもうちょっとだよ。作業員の人が迷惑しているから、早く降りてよ」

 リーフは、ノルンの言葉に頭を揺らすだけで、岸壁にしがみついたままだ。何か踏ん張って、引き抜こうとしているように見える。

「採れた!」

 歓喜の声と共に、彼女の体が宙に舞う。

「うわ!」

 ノルンは、慌ててリーフの落下点に先回りする。

 そして、笑顔で落下してくる彼女を受け止め、踏ん張り切れずにひっくり返った。

「いたた……リーフ危ないよ!」

「見て見てノルン! 石もう見つけちゃったよ!」

 リーフは、ノルンの注意を無視して、手に握っていたモノをノルンに渡した。

 それは、浮遊石の所々に見えた緑色の結晶だ。親指ほどの大きさがある。

「これでノルンを弟子にしてくれるよね!」

 リーフは、にっこりと微笑んだ。

「僕のために採ってきてくれたの?」

「うん!」

 ノルンは、手の中できらきら光を散らす結晶をリーフの手に返した。

「ありがとうリーフ。でも、きっとコレはキセノさんが話していた石とは別の石だよ」

「え~~~! そっかぁ……」

 リーフは、がっくりと項垂れる。が、すぐに笑顔で立ち上がる。

「まあいっか。綺麗な石だし宝物にしよ!」

 リーフは、光る浮遊石をズボンのポケットに入れた。

「ほらほら君達! もう浮遊石に近づいたら駄目だよ!」

「あ、はい! すみませんでした!」

 ノルン達は作業員に頭を下げて、野次馬の集団から抜けて客室に戻る。

 部屋の窓は、既に修復されており、硬く閉ざされていた。

「キセノさん、開けてください」

 ガンガンと窓を叩く。

「うるせえぞコラァ! 俺の安眠を妨害するとは、慰謝料とるぞ!」

 キセノは、完全に悪役の雰囲気で、窓の外にぬっと顔を出した。

「なんだお前等か」

「凄く大きな浮遊石でしたよ! もう山くらいあって――」

「興味ない。小僧、まさかそんなくだらん報告のために、俺を起こしたわけじゃあるまいな?」

 キセノの瞳が怪しく光る。

「大き過ぎて、復旧まで一週間かかるらしいです」

「あっそう。寝て待つか」

「キセノさん。今こそ創世術で乗客の人を助けてあげましょうよ!」

 ノルンは、嬉々として言ったが、返ってきたのは全くやる気のない白けた顔だ。

「山みたいな岩をどかすなんて、できるわけがないだろうが」

「できないんですか?」

「これだから素人は困る。創世術を魔法か何かと勘違いしやがって。昨日も少し話したが、創世術は無から有を生み出すことは決してできない。そんな大岩を破壊するには、相当量のエレメントが必要だ。そのエレメントを召喚するために術材が必要になる。発火草や火薬岩がベストだが、そんなもんないだろうここには? まあ術材があっても、無償で働く気なんてさらさらないがな俺は。それに、なんで俺がお前等の願いを聞かないとならん? いや、聞く義務など皆無。むしろ安眠を妨害したお前等を、逆さ吊りにして、列車の外に干す義務があるんじゃないかと俺は思うね。うん。三度寝する前にお前等におしおきを――」

 ぴしゃん!

 ノルンは、話しの雲行きが怪しくなったため窓を閉じた。

「ノルン。キセノさんって悪者? やっつけた方がいいかな?」

「僕達を助けてくれたこともあるし、悪い人ではないよきっと。術材があればきっとやってくれると思うんだよね」

 ノルンは、列車から移動する乗客の行列を見た。

「こうしていても仕方ないし、僕達もジスプロの街に行こう。キセノさん! 僕達ジスプロの街に行きますよ!」

 ガラガラと窓が開く。

「うるさいぞ小僧。吊るされたいのか?」

 ノルンは、冷たさを通り越して怒りに到達したキセノの視線で射抜かれた。

「い、行ってきます!」

 ノルンは、逃げるようにジスプロの街に向かう、長い列に合流した。


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