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創世術師ノルン  作者: はせろう
第1章
7/14

弟子の条件

「ド田舎のチンピラにしちゃ、ずいぶん持っているな」

 キセノは、ほくほく顔で金を座席の上に広げると、そこで初めて気付いたかのようにノルン達に視線を向ける。

「いつまでそこに立っていつもりだ?」

 と、キセノは、冷静に突っ込む。

 ノルン達は、キセノから目を離さないように席に座る。着席後も二人は、じーっとキセノの様子を伺った。

 キセノは、ノルン達の不審者を見るような視線などまったく気にしない様子で、鼻歌を歌っている。

「寒っ」

 と、呟き、討ち抜かれた窓にキセノは手を掲げた。

 すると、紫色の光が彼の手から溢れ、みるみるうちに窓が元通りに直ってしまう。

 さきほどまで命の危険に瀕していて気付かなかったが、ノルンは、復元する窓とそれを成した光を見て、大切なことに気付いた。

「創世……術師?」

「何だ小僧? 創世術に興味でもあるのか?」

 初めてまともに言葉かけてきたキセノに、ノルンは頷いた。

「僕達、創世術を習いにアルクレーセに行く途中なんです」

 ノルンは、光をふっと吹き消すキセノをまじまじと凝視した。

 風のように現れ、ノルンの村を救ってくれた英雄――ノルンの記憶に残っている創世術師エルスと、目の前のキセノという男はずいぶん違うように見えた。

「ふぅんお前達がねー」

 キセノは、ノルン、リーフを順番に眺めて失笑する。

「何を期待しているのか知らんが、お前達など門前払いだぞ」

「え?」

「たまにいるんだよ。アルクレーセで創世術の門を叩こうとする田舎者がな」

「確かに田舎者ですけど……それと創世術と何も関係ないじゃないですか」

 ノルンは、故郷を馬鹿にされた気がして、むっとする。

「大ありだ。創世術の広まっていない地方では、創世術に対する常識がまるでない」

「知っています。だからアルクレーセにある創世術の学校で勉強して――」

「だからそこで門前払いに会うんだよ」

 キセノは、可笑しそうに冷笑する。

「行ってもないのに、どうしてそんなことがわかるんですか?」

「お前は金持っていないだろ?」

 キセノは、白い目でノルンを見下ろした。

「創世術学校の入学金がいくらか知っているか? アルクレーセにも何校かあるが、だいたい一〇〇万グランだぞ」

「ひゃくっ!」

 リーフは、仰天のあまり席から飛び上った。

「ねえノルン? 一〇〇万ってそんなにすごいの?」

 リーフは、指を折りながら聞いてくる。

「うん。オルガノ村なら、一〇年くらいそれで過ごせると思う」

「それが、お前達が門前払いされる理由その一な」

 キセノは、弱い者を虐めて楽しむようににんまりと笑い、

「もう一つが致命的で絶対的な理由――創世術の学校は、創世術師の推薦がないと入れない。創生術師の推薦っていうのは、創世術師協会から認可を受けた創生術師に弟子入りし、基礎となる修行を終えた者だけに与えられるものだ。そして、創世術師に弟子入りにも金とコネがいる。コネがあるのは、アルクレーセのような都会に住み、金を持ちで教養に溢れる生活が送れる貴族のような身分の者だけだ。どこの馬の骨かもわからない田舎者を弟子にする奴はいない。ま、入学金の何十倍もの謝礼を積まれれば、首を縦に振るだろうが」

「それじゃあノルンは、創世術師になりたいのに、なれないってことなの?」

 リーフは、葉っぱを垂らして顔を曇らせる。

「はははは! まあ確実にそうなるなー、残念残念!」

 何故かすごく楽しそうに笑うキセノ。

 リーフは、目をうるうるさせて、ノルンを見つめた。

「ノルン可哀そう」

「泣いても無駄。これが現実ってやつさ。金がないと創世術師にはなれん」

 キセノは冷たく言い切り、金勘定を再開する。

 ノルンは、リーフの肩に手を置いて、

「泣かないでよリーフ。だって僕達全然可哀そうじゃないよ。むしろ幸運さ」

 明るく笑った。

「幸運?」

「そうだよ。だって、アルクレーセに着く前に創世術師に会えたんだよ! ちょっと想像していたのと違うけど、本物の創世術師だ! 創世術のこといっぱい聞けるよ!」

「でもノルンは創世術師になれないって……」

 ノルンが何故笑っているのか、不思議そうに見つめてくる緑の瞳に、ノルンは、首を左右に振った。

「なれるかなれないかなんて僕は気にしていないよ」

 ノルンは、体の前でぐっと拳を固めた。

「創世術師って肩書きが欲しいわけじゃない。僕は、創世術を覚えて、リーフやいろんな人を助けたいだけだからね。そのために頑張るだけさ」

「そっか……そうだねノルン!」

 リーフは、頭の葉っぱをぴんと立てた。

「よし。そうと決まったら、キセノさん!」

「何だ?」

 金を数えながら不気味に笑うキセノに、ノルンは頭を下げた。

「僕をキセノさんの弟子にしてください!」

 札を数えるキセノの手が、ぴたりと止まる。

「俺の弟子に? お前が?」

「はい! お金はないですけど、雑用とかいっぱい働きます! お願いします!」

 必死に懇願するノルンを、キセノは、絵本に出てくる悪魔のように口の端を吊り上げて見下ろす。

「弟子になりたいなら、まずはお前のエレメントを見せてみろ」

「エレメント?」

「くく、やはり知らんか」

 キセノは、楽しそうに笑って、

「これだよこれ。この光のことさ」

 掌に紫の輝きを浮かべた。

「この世界を構成する万物は、全てエレメントという最小の単位の力から成っている。創世術は、エレメントを自由に引き出し、組み替える術だ。エレメントの召喚できる才能がなければ、いくら努力しようと、どれだけ学ぼうと創世術は使えな――」

「できますよ僕!」

 ノルンは、静かに右手を掲げる。

 部屋中に青白い光が溢れた。

「…………」

 キセノは、目を細めて明らさまに嫌そう顔をする。

「小僧……お前どうしてそれを?」

「昔創世術師に助けてもらったことがあるんです。その時から、この光を出せるようになりました」

「そのリストバンドも、その創世術師からもらったものか?」

 キセノは、ノルンの右腕を指差した。

「そうですけど、それが何か?」

「別に。それより、もうわかったからエレメントを消せ」

「あ、はい!」

 ノルンは、手を閉じてエレメントを消した。

「これで弟子にしてもらえるんですよね!」

「誰がエレメンターなら弟子にすると言った」

「さっき言ったよ! 弟子になりたいならって、キセノさん言っていたよ!」

「うるさい葉っぱ娘! 今のは最低限のチェックだ。弟子になりたいなら見せてみろってことで、見せたらするってわけじゃない」

 キセノは、ぷいと窓の方に逃げるように視線を向けた。

「お願いします! 僕を弟子に!」

 知らん顔するキセノに、ノルンはまた頭を下げる。

 車輪が線路を走る音だけが室内に響き、ノルンもリーフもキセノも固まったまま、しばらく沈黙が続いた。

「…………ふむ。まあそれも面白いか」

 キセノは独り言を呟き、ノルンに向き直る。

「そんなに俺の弟子になりたいのか?」

「はい! お願いします!」

「俺は金にならないことはしないし、使えない小間使いを抱える気もない。お前がどれだけ役に立つ奴かテストしてやろう」

 キセノは、意地の悪い笑みを浮かべて続ける。

「エレメント能力以外に、創世術師に欠かせないものがある。何かわかるか?」

「誰かのためにがんばれる高い志ですか?」

「そんなもの一ミリたりともいらん。創世術師に必要なものは、創世術に使用する貴重な材料だ。俺達はそれを“術材”と呼んでいる」

「創世術の材料? この虫使えるかな!」

 リーフは、虫袋をキセノに突きつける。

「使えん。術材はもっと貴重で高価だ。俺の弟子になりたければ、今から言う術材を持ってこい。賢者の石、マンドラゴラの葉、クヴェルの羽、この内一つでも持って来ることができれば合格だ」

「どれも聞いたことないんですけど、どんな形をしているんですか?」

「それを調べるのもテストの内だ。言っておくが、この程度の術材を集められないようじゃ、創世術師になるなんて到底不可能だからな」

「わかりました! 必ず持って来ます!」

 キセノは、口元に微かな笑みを残して頷いた。

「まあ頑張れば。もう俺は寝るから。騒いだら窓から放り出すからな」

 そう言って、キセノは目を閉じた。

「やったねノルン! 石とか草とか拾ってくればいいだね!」

「うん! アルクレーセについたら、探してみよう」

「うん……そうだね……はふぅ」

 リーフは、大きな欠伸をする。

 日はもう完全に水平線の下に隠れていた。

「僕達も寝よう。今日は疲れたね」

「うん。お休みノルン」

「お休みリーフ」

 度重なる騒ぎの疲れで、ノルンは、すぐに眠りに落ちた。


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