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創世術師ノルン  作者: はせろう
第1章
13/14

本物の創世術

「何幸せそうな顔で、寝ようとしている」

「イタッ!」

 頭に響く鈍い衝撃に、ノルンの意識は、強制的に覚醒させられる。

 目を開くとそこには、不機嫌極まりない顔をしたキセノが待っていた。

「キセノ、さん?」

「寝ぼけやがって――これを飲め」

「ん、んぐぐ」

 熱で苦しむノルンの口に、キセノは、強引に紫の怪しい液体を流し込んだ。

「げほ、ごほ! に、苦ぁ」

 ぺっぺとするノルンは、すぐに体の変調を感じた。

 体を煮るような高熱も、息苦しさもなくなり、朦朧としていた意識もはっきりしてくる。

「か、体が!」

「葉っぱ娘。お前はこれを食え」

 と言って、キセノは、深緑の虫をリーフに与えた。

 それを食べるリーフの頭に生えた芽が、むくむくと元気を取り戻す。

「もぐもぐもぐもぐ――うん、美味しい!」

「大丈夫リーフ?」

「うん! 元気でた! ノルンこそ平気?」

「嘘みたいに体が軽いよ――でも……」

 熱はすっかり引いたが、体は光ったままだ。

「これを腕につけろ」

 ノルンは、キセノが投げつけてきたモノを受け取る。それは、千切れ飛んだ宝物のリストバンドと瓜二つのもの……ではなく、蛇や髑髏が描かれた禍々しいリストバンドだった。

「キセノさんこれは?」

「それは、エレメント召喚能力を抑える飾りだ。お前はまだ、自分自身で能力を制御できていない。今も周囲からエレメントを召喚し続けている。このまま放っておけば、また高熱を出すぞ」

 そう言われて、ノルンは、慌ててリストバンドを右の手首にはめた。すると、すぐに体の光が収まった。

「これでよし」

 キセノは、ノルンが安定したことを確認して、くるりと背を向ける。

「おいチンピラ、治療したぞ。金をよこせ」

「バーバスのアニキ~! 助けてくだせぇ!」

 キセノは、縄でぐるぐる巻きになったドッカーとモンバサをげしげしと蹴っていた。

「ははは、わざわざこんな不便な場所までありがとうございます。周りの群集も怯えているので、部下を蹴るのはその辺で――」

「出たな主犯。よくも俺をこんな面倒な所に呼んでくれたな――覚悟はいいか?」

 キセノは、人質を踏みつけながら、完全に座りきった目でバーバスを射抜く。

「は、ははは……。いやだなあキセノさん! 私は、このガキどもに脅されて、しかたなく部下をキセノさんへ遣わしただけです。ええ、そういうことですので!」

 バーバスは、愛想笑いと冷や汗を浮かべながらキセノの足元から部下二人を回収し、脱兎のごとく逃げだした。

「バーバスさん、ありがとうございました!」

「ありがとう~。もう悪いことしないでねー!」

 ノルンとリーフは、群集に紛れる縞模様のスーツに手を振る。

 そして、背中を向けたままのキセノに、

『ありがとうございましたキセノさん!』

 二人は、頭を下げた。

 感謝の言葉を聞いて、ゆっくりと振り返るキセノの顔には、悪魔のような微笑が貼りついていた。

「どういたしまして。さ、俺を酷使してくれた罪を償ってもらうぞ」

 顔は笑っているが、目は全然笑っていない。

「新薬の実験体にするか、それとも極めて危険度の高い火山の毒性ガスを回収してきてもらうか――」

「あの、取り込み中申し訳ない」

 ノルン達のやり取りを遠巻きに見ていたアルマンが、口を挟む。

「なんだ? 貴様は?」

 思考を中断されたたキセノは、ぎろりと睨み返した。

「わ、私はアルマン。この街で創世術の医療を広めている者だ」

「で?」

「この周辺にいた患者は、ノルン君のおかげで元気を取り戻した。だが、まだ街中に患者が溢れている。これをどうにかしなければならない」

 アルマンは、手を大きく広げ、大袈裟な動きで説明する。

「で?」

 キセノは、つまらなそうに同じ言葉を返した。

「いや、だから、その、マンドラゴラを譲ってもらえないか? それだけの量があれば、私の創世術で街の住人全員分の薬を造ることができる。ノルン君は、貴方の弟子。そのマンドラゴラは、貴方ものなのだろう?」

「…………」

 キセノは黙り込んで、アルマンを上から下まで品定めするように眺める。つかつかと歩み寄り、そして、思い切りグーで殴り倒した。

「ぐぁ! な、何をするんだいきなり!」

「なるほどな。諸悪の根源はお前か」

「しょ、諸悪の根源?」

「そうだ。お前がしっかりしていれば、こんなことにはならなかった」

「た、確かに病が広る兆候が出た時点で、手を打つべきだった。その失敗は認める。だが、重要なのは、今苦しんでいる多くの命を助けることだ! 違うか?」

「違うね」

『えっ?』

 ノルン、リーフ、アルマンの声が重なった。

「重要なのは、誰が、この俺の安眠を妨げた上に無料奉仕までさせたか。そして、その罪人を徹底的に苛め――ではなく、裁くことだ」

 キセノは、アルマンを睨み付ける。

「あ、ああ、あ……」

 アルマンは、その迫力にがたがたと震え出した。

「そしてもう一つ重要なのは――」

 キセノの視線が、アルマンからノルンに向けられる。

「ここにいる連中に、お前達の拙い術が創世術だなどと勘違いして欲しくないと言うことだ」

 口の両端を持ち上げるキセノの体が、紫の雷光に包まれる。ノルンが生み出した光の柱よりずっと力強い輝きに、詰めかけていた人々から悲鳴があがった。

 キセノは、怯える群衆に見せ付けるように、右手を天高く掲げる。地上に落ちるはずの雷が、キセノの腕から空へと放たれた。

 空高く昇った稲妻は、街中央の上空で留まり――そして、弾けた。

 光は消え去り、それに変わって、巨大な円形の文字盤が浮かび上がる。見たこともない文字が並ぶ円の中央からは時計の長針の様な針が伸び、さらにその文字の外周を取り囲む様に鐘がいくつも並んでいた。

「万物の素よ――我が意に従え」

 キセノの言葉に同調するように、停まっていた針が、ゆっくりと反時計回りに動き出す。

 それと同時に、ノルンは、周囲のエレメントのざわめきを感じとる。

 石畳の隙間から生える草、樹木、木にとまる小さな虫、家の壁、石畳自体からも、淡い光の粒が一つずつ舞い上がる。それらは、上空に現れた文字盤に次々に吸い込まれ、文字盤は、次第にその輝きを増していく。

 しばらくすると、ゆっくりと動いていた針が、一周したところでぴたりと停止した。

 そして、鐘の音が街中に響く。文字盤から文字が外れ落ち、それは溶けて光の雨となって街に降り注ぐ。

 雨粒は、人に、植物に、虫に当たって、優しい光で包む。

 キセノに怯えて騒いでいた群衆は、言葉を失ってその光景に見入っていた。

「きれい……」

「うん……」

 ノルンもリーフも、見たこともない美しい雨に心を奪われて、ただただ見上げていた。

 その雨が降り出して数分もしないうちに、白衣を着た医者が街の方々から次々に集まってきた。

「クロム!」

 現れた白衣の一人が、クロムを呼ぶ。

「ゲルマ! それに他の皆もどうしてここに? 君達の病院の患者はどうした!」

「それが……この雨が降り出した途端に、みんな回復したよ。街中病気が治ってすごい騒ぎだ!」

「ほ、本当か!」

 クロム達の会話が、ノルンの耳にも微かに届いた。

「これが創世術だ」

 キセノは、はっきりとノルンの目を見て言った。

 ノルンは、キセノを見つめて、

「キセノさん、僕――」

「お前は、病気を吸い出して助けたようだな。アイデアは悪くない。だが、失敗していれば、病気だけじゃなく生命力も奪い取っていたかもしれない。この三流が、葉っぱ娘にしたようにな」

 アルマンを指差してキセノは続ける。

「創世術はもちろん、エレメントの召喚は、素人が扱うには危険だ。わかったな?」

「はい……ごめんなさい」

 ノルンは、しゅんと肩を落とした。

「それよりも何よりも俺に迷惑をかけたことが最も悪い」

「はい……」

「お前と葉っぱ娘、それに街の住人全員分の治療費をお前に払ってもらうぞ」

「……はい」

 あんなに凄い術の代金など、ノルンには想像もつかない。

 ノルンは、この世の終わりのような沈痛な表情で俯いた。

「私も手伝うよノルン! だから元気出していこ~!」

 リーフは、元気いっぱいに両の拳を空に突き上げる。

「ありがとうリーフ。アルクレーセで仕事を探そう」

「誰が金で解決しろと言った。ただ金を貰うだけじゃ、つまらんだろうが」

「え?」

 キセノは、楽しくてしょうがない顔で、

「体で払ってもらうぞ。くくく、さっきも言いかけたが、お前等にやらせたい危険な仕事が山とあるんだ」

「き、キセノさん……リーフだけは許してくれませんか?」

「駄目だ。連帯責任。俺が満足するまで、俺の元から逃げることは許さん。ま、逃げたとしてもすぐに捕まえてやるがな」

 そう言って、キセノは、ノルンに背を向けて歩き出す。

 ノルンは、リーフに励まされながら、重い足取りでその後に続く。

「それと俺が出したテストだが……どうやらマンドラゴラの葉が何たるか理解したようだな。今後、俺のことは師匠と呼べ。分かったな」

 ノルンは、その言葉に顔を勢いよく上げた。

「それってもしかして――」

「ああ疲れた。俺は先に帰る」

 キセノは、逃げるように歩みを速める。

 その様子を見て、ノルンとリーフは、顔を見合わせて笑った。

 その夜は、創世術の光に包まれ、ノルンを祝っているようだった。


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