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創世術師ノルン  作者: はせろう
第1章
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人型植物「マンドラゴラ」

 街の北に行くと、クロムの病院はすぐにわかった。溢れた患者が、庭園のような病院の敷地に溢れるほどに詰めかけていたからだ。

 何百人も入れそうな大きな病院だった。

「先生! 常備薬も底を付きそうです。これ以上の治療は――」

「山の薬草を採取しに向かった者が、もうすぐ帰ってくる。なぁに心配はいらないよ」

 病院の入り口で、他の医師を励ますクロムがいた。

「クロムさん!」

「ノルン君、リーフ君! ずいぶん早いじゃないか?」

「走ってきました」

「そのままだと冷えるぞ。誰か二人にタオルを持ってきてくれ」

「クロムさん、僕達大丈夫です」

 ノルンは、遠慮したがクロムは、にっと笑った。その笑みには、疲れが滲んでいる。

「タオルくらいあるさ。心配するな」

 タオルを受け取り、ノルンとリーフは汗を拭いた。

「すごい人。これ、全員患者さんなの?」

 リーフは、クロムに尋ねる。

「残念ながらね。他の病院も皆こんな様子だ……宿泊客達には伝えられたかい?」

「うん。全員伝えたよ。あんまり逃げてくれなかったけど」

 リーフは、手を挙げてから肩を落とした。

 クロムは、首を左右に振りリーフの麦わらをぽんぽんと撫でる。

「それで充分だ。街に着いて間もない人が、少しでも避難できればそれでいい。君達ももう街を去りなさい」

「でも、これから街の人にも、避難するように伝えるんですよね。僕達も手伝います!」

 クロムは、また首を左右に振った。

「予想よりもずっと感染の速度が速い。避難を勧めると言ったが、とてもそんな状況ではなさそうだ。今避難させれば、近隣の街にも病が拡大する恐れがある」

「そんな! まだ諦めるのは――」

「ごほ、ごほ!」

 クロムが激しく咳き込み、しゃがみ込む。

「クロムさん! 大丈夫ですか!」

「げほ……ふぅ。私もこのざまさ」

 クロムは、苦笑を浮かべて立ち上がった。

「クロム先生! 容態が急変した患者が!」

「すぐに行く!」

 クロムは、苦笑いを浮かべ、

「休んでいる暇もないよ。ノルン君、リーフ君、ありがとう。街を代表して礼を言うよ」

 クロムの手が、ノルンの目の前に差し出された。

「クロムさん……僕……」

 戸惑うノルンに、

「君達はよくやったよ。後は大人に任せなさい!」

 ドンと胸を叩いて咳き込み、無理やりに笑みを作って見せた。

「クロムさん大丈夫?」

 心配そうな表情のリーフ。

 ノルンは、頭をぶんぶんと振り、クロムの手をがっちりと握った。

「僕は皆を助けるまで、この街を離れません!」

「ノルン君の気持ちは有難い。だが、君達がいてくれても、もうできることは何もないんだ」

「できることはないかもしれない。でも……やりたいこと、やらなきゃいけないことがあるんです!」

 ノルンは、両手でクロムの手を包み、目を強く瞑った。

 黒く閉ざされた視界に、見たこともない色や形の物体が現れ、無数に飛び回る。ぶつかり合って大きくなり、さらにぶつかってバラバラに千切れていく。

 それは、クロムを形作るエレメントの動きだ。

「ノルン君? どうしたんだ?」

「ノルン……もしかしてそれ」

 リーフは、ぴょんと跳ねて、不安げな表情になったクロムに言う。

「クロムさん! ノルンが、皆を治してくれるよ! 創世術で治してくれるよ!」

「はは、それは頼もしいな」

 クロムは、全く信じていない様子で乾いた笑いを浮かべた。

「あー! クロムさん信じてないでしょ!」

「私だって信じられるものなら信じたいが――」

「ノルンは助けてくれるよ」

 リーフは、そのことに何の疑いもない瞳をノルンに向けていた。

「リーフ君?」

「だってノルンは、困った人を助ける創世術師だもん!」

 リーフの言葉に後押しされるように、ノルンの手が青く淡い光を放つ。

「クロムさんを治して!」

 ノルンは、その光に必死に願った。

 だが、ノルンの想いと裏腹に、光はノルンとクロムを明るく照らすだけだ。

 そして、しばらくすると力を失い、光は消えた。

「……ごめんなさい。クロムさん、僕……」

 悔しそうに俯くノルンの肩に、クロムの手が添えられる。

「ノルン君。周りを見てごらん」

 ノルンは、クロムに言われた通り顔を上げた。

「奇麗な光だよパパ」

「そうだな。奇麗だったな」

「あんな子どもが頑張っているんだから、私達も」

 周りで一部始終を見ていた患者やその家族、医者達は表情に少しだけ明るさが戻っていた。

「病気を治すだけが、人を助けるということじゃない。ノルン君。何もできることはないと言って悪かったね」

「クロムさん……僕、光ならいっぱい出せます! それで皆が元気になるなら――」

「どいてくれ! 今のはエレメントの光だぞ!」

 ノルンを囲む人垣をかき分けて、眼鏡の男が現れる。

「アルマン? どうしてここに?」

 アルマンは、クロムの質問に対して手に持っていた袋を掲げた。

「私の所で作れるだけの特効薬を持って来た――数人分だがな。それより、今の光はいったい誰が?」

「彼だよアルマン」

 クロムの指差す先にノルンを見つけ、アルマンは首を振る。

「馬鹿を言うな。こんな若い頃から、あんなに強くエレメントを召喚できるものか」

「君達の術について、私は全くの素人だ。だが本当にノルン君が光を出したんだよ」

 周りの人々もクロムの話しに頷いた。

 アルマンは、少し苦い表情を浮かべる。

「皆が言うことが本当なら、彼はよほど才能に恵まれているのだろうな」

「そうか……アルマン。頼みがある」

「何だ?」

「ノルン君とリーフ君を街から避難させて欲しい」

「クロムさん! 僕達は、まだ頑張れます!」

 ノルンの肩を、クロムが掴んだ。

「君には素晴らしい才能があるようだ。しっかり勉強して、この街を救えるような創世術師になってくれ。君ならきっとなれるよ」

「まだ、僕――」

「十分だよ。君は、もう十分に私達を救ってくれた。後は私達に任せてくれ」

「うっ、うく……」

 ノルンは、拳を握りしめて俯いた。

「頼むアルマン」

「わかった。これが残りの特効薬だ。代金は、お前につけておくからな」

「ああ、生きていたら必ず払うよ」

 ノルンとリーフは、満面の笑顔を浮かべるクロムの元から、アルマンへと預けられる。

「さあ、街の外まで行――」

 ノルンとリーフの肩に手をかけたところで、アルマンは動きを止めた。

「何だと……これは!」

「どうしたの?」

 リーフは、アルマンの顔を下から見上げる。

 アルマンは、無言で彼女の頭にある麦わら帽子を取り去った。

 剥き出しになった、リーフの頭にある新芽を確認して、アルマンは、目を輝かせる。

「やっぱりそうか! マンドラゴラだとエレメントでわかったぞ!」

「え? え? マンドラゴラ?」

 リーフは、疑問符を浮かべる。

「アルマンさん?」

「どうしたんだアルマン?」

 ノルンとクロムは、喜びはしゃぐアルマンの様子に眉をひそめた。

「どうしたも何も、マンドラゴラだよ! 特効薬の材料になると話しただろう?」

「ああ。とても高い材料だったな?」

 クロムは、アルマンの話を思い出して頷く。

「そう、それがここにある! それも大量にだ! この量なら住人全てを救えるかもしれない!」

 アルマンは、興奮気味にまくし立て、リーフをノルンから引き剥がした。

「待てアルマンさん! リーフをどうするつもりなの!」

 抗議の声を上げるノルンに、アルマンは、

「何をするも何も薬の材料にするんだよ。これはマンドラゴラ――人型の希少植物だ。頭頂部に生えた子葉も、その特徴の一つだ」

 リーフを指差して続けた。

「これほど大きなものは、初めてだ。少し待っていてくれ。すぐに薬を――」

「リーフは、僕の友達だよ! 薬になんかしないで!」

 ノルンは、リーフを取り返そうとアルマンに飛びかかる。

「おっと」

 アルマンは、ノルンを軽くかわし、ノルンは、そのまま地面に倒れた。

 クロムは、ノルンに駆け寄り助け起こす。

「ノルン君! 大丈夫か?」

「僕は平気です。それよりリーフを!」

 起き上がるノルンの目の前に、アルマンの操るエレメントの光が溢れた。

 リーフの頭に構えたアルマンの手が、リーフのエレメントを吸いだしている。

 光は空中で集まり、塊となって地面にいくつも落ちた。

「こ、これは?」

「特効薬だよクロム。早くそれを患者に飲ませるといい」

 話す間にも、リーフから取り出した生命力の結晶が、ぽろぽろと振り続ける。

 リーフは、頭の葉を垂らし、苦しそうに顔を歪めた。

「止めて! アルマンさん!」

 ノルンは、リーフの腕を掴み、術に集中して隙だらけのアルマンから、引き剥がした。

 だが、アルマンの薬作りを止めることはできない。離れたリーフの体から淡い光がアルマンの両手まで伸び、結晶を生み出し続けていた。

「リーフ! しっかりして!」

 ノルンは、リーフを守るように抱きしめ、アルマンの術から逃れようとする。

「無駄だよ。一度術を始めれば、障害物など関係なしだ。君が壁になっても守ることはできない」

 アルマンは、淡々と説明して、

「何をしているんだクロム。この薬で早く患者を治してくるといい。薬代は特別に無料にしておくぞ。ははは!」

「アルマンさん止めて! お願いだから!」

 ノルンは、声を張り上げ助けを求めた。

「私は街を救うためにやっているんだ。私の創世術で街を――」

 アルマンの言葉は、突然の空を引き裂く轟音にかき消される。

 その爆音とともにアルマンの足元が炸裂した。

「うわぁっ!」

 突然のことに、アルマンは術を解き尻餅をついた。

 ノルン達を囲う群集から悲鳴が上がり、人垣が左右に裂ける。

 ノルンの視線の先には、拳銃を構えたバーバスがいた。


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