表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅蓮が咲き誇る。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/22

11 月の光


 灰色の広場に擦れた音が響く。私が弾くバイオリンの音だ。

 決して高価なものではない。演奏だって、テクニックに優れているわけではない。独学で弾き方を覚えて、楽しいから仕事のあとに広場で演奏をした。

 親切な人は、開いておいたバイオリンケースにお金を置いていってくれる。生活の足しにもなってくれる私の趣味だ。

 人々が忙しなく行き交う中、数人が立ち止まって聴いてくれる。その中の1人に、目が留まった。

 貴族にも思える上質そうなコートを着ていて、シルクハットを被っている若い男の人。

 ブロンドで、青い瞳の彼は、見目麗しい顔立ち。魅惑的な青い瞳だった。

それを何度か見ながら、演奏を続ける。

 彼は微笑む。つられて笑い返す。なんだか、とても、楽しくなってきた。

普段より、弾むように音を奏でて楽しんだ。

 すると、彼が歩み寄る。カツン、カツン、とブーツを鳴らしながら、私のすぐ、目の前まで来た。

 1曲、弾き終わった私は、バイオリンを持ったままドレスを軽く摘まんで一礼した。

彼を筆頭に拍手をもらえたので、もう一度、一礼した。


「素晴らしい演奏だったね、アネモア」


 低くとも優しい声音で、彼は話し掛けてくれたけど、呼ぶ名前が違う。でも、懐かしい響きの名前だ。


「……ありがとうございます。でも、私はアネモアじゃなくて、ラティーシャです」

「ラティーシャ……」


 お礼を言ってから名乗ると、彼はその声で愛しそうに私の名を口にした。

 青い瞳は熱を帯びていて、優しげな微笑を浮かべながら見つめてくる。

 とても懐かしく感じて、そして愛しく感じた。


「貴方は……?」

「俺は……」


 名前を訊ねたけれど、彼は他所を向く。私も顔を向けると、近所のおばさんが駆け寄ってきた。


「大変だよ、ラティーシャ! アンタの家の前で事故が!」

「えっ……」

「アンタの、アンタの弟が!!」


 おばさんが言い切る前に私はバイオリンを置いて、駆け出す。

 なによりも、大事な。

 なによりも、大事な弟が。

 私のたった1人の家族がっ――!!



 †◆†


 ハッとして、目を覚ます。走ったあとみたいに息が荒くなり、起き上がって深呼吸をした。

 暗い部屋に唯一射し込む明かりは、月の光だけ。背を向けたベランダからだ。

 床にはベランダに立つ人の影が伸びる。なんとなくいる気がしたから、驚くことなく私は振り返った。

 手摺に座っている彼がいた。月色の髪が夜風に揺れる。夢の中と同じ、熱を帯びた青い瞳で優しく微笑んでいた。

 幻想的で魅惑的で、月の光の中に溶けてしまいそう。まるで穏やかな夜の海のような眼差しを持つ、私の愛しいヴァンパイアさん。


「入って、ジェレン」


 ずっと見つめていたいけれど、微笑みを返して私は入る許可を出す。そうすれば、彼は中に入ってきた。


「どうしたの?」

「眠れなくて……一緒にいてもいいかい?」


 夢の中と同じ。男らしく低いけれど、優しい声音。

子守唄のように穏やかな気持ちになるから、私は眠ってしまいそうになる。

 少し壁際に移動して、ジェレンが眠れるスペースを作った。彼は静かに腰を下ろす。


「魘されていたみたいだね」

「夢を見たの……」


 汗に濡れた額を、彼の指先が撫でる。力なく答えた。


「ジェレンはどうしたの?」


 マンションの一室で、仲間と一緒にいるはずだったのに、ジェレンは私の元に来た。


「……(くれない)に会いたくて」


 彼は囁くように優しく言う。


「君のおかげでヴァンパイアハンターは、この街から消えた。……君のそばにいても、いいだろう?」


 1週間前、私とジェレンが出逢ったきっかけの事件を起こしたヴァンパイアハンターの遊佐(ゆさ)に電話をした。

 ジェレン達を見逃すならば、遊佐達に手を出さない。遊佐は受け入れてくれたらしく、ヴァンパイアハンターはいなくなった。

 念のため、ジェレン達と距離を置いていたけれど、もう大丈夫と判断したみたい。


「うん……」


 私はゆっくりと頷く。

 そばにいていい。いてほしい。

 笑みを深めるとジェレンは、私の髪を撫でた。夢心地。もしかして、これも夢かもしれない。ぼんやりと、彼を見つめてしまった。

 すると、ジェレンが顔を近付ける。唇をゆっくりと、ゆっくりと寄せて、私の唇に重ねた。

おやすみのキスかと思ったけれど、一度離れた唇がまた重なる。

 私が瞼を閉じると、ジェレンの大きな手が私の首筋を撫でて頬に当てられた。瞼を閉じていても、月の光を感じる。

 彼の唇が、優しく触れた。ちゅ、と微かに音がする。

 彼の掌がそっと首の後ろに移動するから、私は顔を上げた。もう一度触れると、私の唇に吸い付きながら離れる。優しく、摘まむように、そのキスが繰り返された。

 うっとりしていたら、彼の舌が私の下唇をなぞったから、びくりと強張る。

ジェレンの手は、宥めるように私の髪を撫でた。

 倒れてしまいそうになり、私はジェレンの白いシャツを握り締める。

 深呼吸をしたいけれど、目の前の彼に合わせるように、短い呼吸をした。


「はぁ」


 息を漏らせば、彼に当たるのを感じる。ジェレンが今どんな顔をしているのか、気になってそっと瞼を上げた。

 月光を浴びた海のような瞳と目が合う。ずっと見つめられていたのかもしれない。恥ずかしくて、俯く。

 ジェレンは強く唇を押し付けながら、私の顔を上げさせた。

 ちゅ、ちゅく。

さっきより深く唇が重なる。私も彼に合わせて唇を動かすけれど、精一杯。


「んっ……」


 ジェレンの優しすぎるキスに溺れた。

ジェレンは包むように優しく唇を重ねて、軽く舐める。そのまま、何度も吸い付くように唇を動かした。

 ずっと、彼にキスをされたい。全部委ねてしまいたい。でも……だめ。

 ジェレンの指が、私の寝間着の襟の内側に入り込み、滑るように下りていく。私の胸の上で留めたボタンが、片手で外された。

躊躇してしまったけれど、私は声を絞り出す。


「ジェレンっ……」

「……ん?」


 私の胸の上にあるジェレンの掌を握り締める。目を開けば、月光に照らされたジェレンの顔が短い呼吸が触れ合う距離にあった。

 自分から彼の唇に触れたくなったけれど、なんとか堪える。


「あの、ね……私達……ずっと……愛し合ってきた……」

「うん……」


 何度も生まれ変わってきた私を見付けて、ジェレンは愛してくれた。

500年もの間の中で、愛し合った。けれども。

 大きく息を吸い込んで、私は続けて言う。


「でも……今の私と出逢ってまだ間もないし……その……ゆっくりと……進めて、ほしいの……」

「……」

「まだ、私……16歳だから……ゆっくり」


 6度目の出逢いから、まだ2週間だ。一緒に添い寝もして、キスもして、想いを告げた。

 安達紅は、恋愛経験があまりない。ジェレンが初恋。ジェレンがファーストキスの相手。

 500年も前から愛し合っていたのに、関係をゆっくりと進めたいなんて、今更かもしれない。

 でも、今は16歳だから、心の準備がいる。


「……」


 ジェレンは、少し困ったような笑みを浮かべていた。


「んー……うん」


 渋々と言った様子で、頷く。

 127年ぶりに会った彼としては、やっぱり嫌なのかもしれない。彼に我慢をさせるのは、酷いことなのかも。

 それが顔に出たのか、ジェレンは優しく微笑むと私の髪を撫でた。


「急がないよ……君の心が決まるまで、待つから」


 そう言って、私の額にキスをする。


「でも、今夜は、そばにいてもいいかい?」

「……うん」


 ジェレンは、本当に優しい。

 迷ってしまう。本当に彼の優しさに甘えてしまっていいのかな。


「どんな夢を見たんだい?」


 そっと横になると、私の髪を撫でながら、ジェレンは夢の内容を訊いた。


「……ラティーシャの夢」

「ラティーシャの記憶?」

「うん。バイオリンを弾いていたら、あなたが来てくれた」

「ああ……懐かしいね」


 目を閉じるジェレンは、きっとあの出会いを思い出してくれているはず。それも鮮明に、思い出してくれているはずだ。


「素晴らしい演奏だった。音色に誘われて、君を見付けられた」


 優しい両手で撫でてくれるジェレンに、照れてしまう。照れた顔を見られてしまわないように、彼に寄り添って顔を伏せた。

 彼の甘い香りをいっぱい吸い込む。ぎゅっと抱き締めてくれるジェレンの腕の中で、眠り落ちた。




20150713

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ