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魔女の人形  作者: 少々
6/15

付箋と私 a

9月16日 誤字訂正。

数日前の『私』が書いた『魔女の人形』という言葉が気になる。

その言葉が与えた衝撃はよほどのものだったのだろう。

いくら『気にならなかった』とは書かれていても、いままでの『私』に比べて手紙の文字がかなり歪んでいた。

なので、私は本名『フラヴィオ・エスポージト』で愛称は『ヴィオ』というらしい赤毛の青年にたずねてみることにした。



ちなみに、『コウタ』さんという黒髪の男の人はどこかへ行ってしまった。

正確に言うと、連れ去られたというべきか。

朝食をとってすぐ、白衣を着た女の人がコウタさんを迎えにきた。

なぜかコウタさんが名残惜しげな顔をしていたが、ヴィオは軽く手を振って送り出していた。

「大丈夫、こっちには俺がいるから。」

それを聞いたコウタさんはますます抵抗したが、女の人に乱暴するわけにも行かないらしく、連行されていった。

ブロンド髪の女の人のほうが明らかに小さいのに、図体のでかい男がずるずると引きずられていたのは滑稽だった。


朝食のあと、二人で香ばしいお茶を飲んでゆったり過ごす。

数日前の『私』によると、『私』自身よりもコウタさんのほうが喜んだらしい。

あ、だからさっきあんなに抵抗したのかしら?

そんなに飲みたかったのなら、夕食時にでも入れてみようかな。

「なぁ、今日は何をするんだ?」

特に予定のない私は、『魔女の人形』について聞いてみた。

「……『魔女』を知らないのか?」

どうやら、『魔女』は小さな子供でも知っている存在らしい。

「どんだけ箱入り娘なんだ……」とつぶやきながらも、彼は私に『魔女』にまつわるお話を聞かせてくれた。




昔々、まだ、石油燃料で自動車が動いていた頃のこと。

世界は『オゾン層の破壊』という脅威にさらされていた。

地球の表面を紫外線から守っていたオゾン層が、かつて冷媒として大量に使われていた物質により破壊され薄くなっていたのだ。

これをなんとかしようと世界中の研究者が莫大な資金と時間をかけて研究、開発に取り組んだ。

そして、ついに一人の女性が『紫外線遮断層』を開発した。

その結果、紫外線の脅威はなくなった。

しかし、空は今の白と水色が混ざり合ったような色になり、四季というものがなくなった。


「知ってるか?

昔は人が死ぬほど暑い日や湖が凍るほどの寒い日があったらしい。

今でも時たまに雪は降るけど、昔は人の背よりも高くつもったこともあったと書籍に記されている。

とても暑い季節と寒い季節、それからその中間の季節の4つが一年というサイクルで移り変わっていた。

それらの季節の移り変わりがなくなったことで、人々はとても混乱したそうだ。」


そんなある時、人々の間に『魔女』の噂が流れた。

『季節を盗んだ魔女』、『時盗みの魔女』。


「四季を、時の流れを盗んだ『魔女』はそのおかげで不老不死になったというものだ。

今まで散々ちやほやされていた『魔女』は真実を知った人々に非難され、やがて一人になった。

孤独な魔女は寂しさを紛らわすために『人造人間ホムンクルス』を作ったらしい。」


それが、『魔女の人形』。


「それでも孤独に耐えられなかったのか、ある日を境にぱったりと行方しれずになってしまったらしい。

残ったのは『人形』と一人の『弟子』だけだった。

残った『弟子』は『紫外線遮断層生成物質』の作り方を後世に伝え、『人形』はどこかの研究室であるじの帰りを待ち続けているそうだ。」


強ばる顔をなんとか動かし、なんでそんなに詳しいのかを聞いたら、『魔女の弟子』の話が好きで旅の最中によく本で読んでいたそうだ。

変わってるね、と言っておいた。


——————————————————————————————


私は一人になりたいと部屋に戻った。

殺風景な部屋に入り、ベッドに腰掛ける。

ベッドが重みでギシギシ鳴った。


私は『魔女の人形』?


『人形』は研究室にいるそうだが、ここは研究室なのかしら?

数日前の『私』によると、『丘の上の白い建物』と言ったらとても嫌な顔をされたらしい。

ということは、ここは町のなかでは有名な施設なのかもしれない。


そういえば、ブロンドの髪のおねえさんは白衣を着ていた。

彼女に連れて行かれたということは、コウタさんも研究者なのか?


何の?——————————『魔女の人形』の。


人造人間ホムンクルス』はそう簡単に作れるものではないのでは?

もし、『人造人間ホムンクルス』が世界にただひとつ、『魔女』の作ったものしか存在しないとしたら、それは立派な研究対象となるだろう。


何でできているのか、どんな行動をとるのか、何を好むのか……

それら全てが研究対象で、観察対象だろう。


『私』からの手紙を見ると、コウタさんは毎朝必ず入り口に立っているようだ。

もちろん、今朝もいた。

もしそうだとしたら、その執着は奇妙な記憶喪失の娘一人に対してというのは異常だと思う。


でも、『研究対象』に対する態度としてなら納得がいく。


では、ヴィオは?


あの様子からすると『ユリア』を『人形』としては見ていないと思う。

ということは、ここがどんな場所なのかも知らないのかもしれない。


それでも、あの知識の量は見逃せない。

何かを探ろうとしているのかしら。


人形は魔女の孤独を癒せなかった。


だから、魔女は人形を置いていった。


それは、人形が不良品だったから?


毎日毎日リセットし、昨日のことも思い出せない、あるじのことすら忘れてしまう人形。


失敗作だとわかったとき、一体どんな気持ちだったのだろう?


どんな気持ちで『ユリア』を捨てたのだろう?



『ユリア』を作ったあるじ様、『魔女』とはどのような方だったのだろうか……。


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