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魔女の人形  作者: 少々
13/15

人形と私 b


コウタさんは黙ったまま困ったように笑っていた。


追及されて心底困ったという感じではなく、そう、例えるならこっそりとつまみ食いしていたのがばれてしまった罪悪感のようなものが伺える表情。


思わず勢いが削がれてしまったが、ここを引くわけにはいかない。


私は確固とした決意を取り戻し、更なる追及をしようとするが、しかし、私が再び口を開くまえに、コウタさんがきっぱりとした口調で宣言した。


「先に朝ごはんにしましょう。どうせ、長くかかるのですから。」


粒がなくなるくらいゆるく炊いた米はおかゆというらしい。


とろとろとやさしい味のするおかゆは肉が入っていないにも関わらず鳥のおいしいエキスに満ちている。


あまり気が進まなかったはずなのに、じんわりと指先まで染み渡るぬくもりに無心で匙を運んでいた。


気が付くと温めなおしたおかゆもなくなって、腹が膨れたせいかさっきよりも気持ちに余裕ができているようだ。



食器を片付けたコウタさんはお茶の入ったカップを私の前に置いた。


再びの沈黙。


さっきと異なるのは、コウタさんに話す意思があるということ。


私は口を挟まず、黙ってコウタさんが話し出すのを待っている。


「『魔女の人形』とは何かという問いに答えるにはまず『魔女』についてお話する必要があると思います。」


「かつて、人にとっての最後となるであろう栄華を極めた時代がありました。

科学の最先端を切り開いたその時代は研究者の欲求が世界を動かしていた時代でもあったのでしょう。

ついに底が見えてきた化石燃料に対する「エネルギー問題の解決法」、

分化多能性細胞の開発と癌細胞の利用法を探る「万能細胞と無限分裂寿命の利用法」、

そしてフロン等によって破壊され続けていた「オゾン層破壊による紫外線問題」、

この3つが“三大探究”として世界中でプロジェクトが組まれ、さまざまな観点から競うように研究されていました。


そんな時代のただ中、とある研究室が炎上、薬品に引火し爆発、山火事にまで発展した事件がありました。

生存者はおらず、炭化した死体は故人の見分けもできないほどであり、見渡す限りのすべてが焼き尽くされていたそうです。

―――水場に潜っていたという一人の少女を除いては。」


「ゆで上げられぶよぶよになった死体とともに引き上げられた少女は、軽度のやけどはあるものの体に目立った外傷はなかったそうです。

直後から、彼女の肉片サンプルが各研究室へわたり、分析され、そして、世界中が驚愕で沸き立ちました。

彼女の細胞にはテロメアの短縮を防ぐ酵素が組み込まれ、さらに分化多能性を持つ細胞の存在も確認されました。

つまり、彼女の細胞はいつまでも若い状態を保つことができ、腕がかみ切られたとしても時間をかければ生えてくる再生力を持っていたとということです。

そうして、少女の身体は『限りなく不老不死に近い存在』と認定されました。」


「それが、『魔女』?」


コウタさんは首を縦にふり私のつぶやきを肯定した。


「つまり、『魔女』は『時を盗んだ』とか言われる前からすでに不老不死だったってこと?」


「はい。彼女が世間に初めて注目されたときからすでにそのような身体にされていました」


されていた……つまり、彼女の実験室における扱いはモルモットと同じようなものだったと予想ができる。


「おそらく、派手な事故で注目を浴びていなければ彼女は再び実験動物の日々となったでしょう。

幸いなことに、マスコミが大騒ぎしたおかげで彼女は一人の少女としての人権を獲得し、無理やり解剖されることはなくなったそうです。」


「彼女はひっそりと学び、自分の身体以外の存在価値を主張し続けました。

名前を変え、様々な場所を転々とし、己の身を守ってきました。

そうして長い年月を経て、彼女は世界でも有数の科学者サイエンティストになったのです。」


コウタさんは一呼吸置き、カップのお茶をすする。

私ものどの渇きを覚え、少しぬるくなったお茶を一口のんだ。


「彼女の存在が忘れられてずいぶん経ち、彼女も市井に紛れて普通の人間としての日々を過ごせるようになっていました。

研究に明け暮れる日々を過ごし、そしてついに彼女は『紫外線遮断層』を発明したのです。」


「それはまさに不可能とまで言われた“三大探究”の一つを根底から覆すものであり、世界を変える発明です。

死に絶えた大地を芽吹かせ、人々を閉ざされた空間から解放する偉大な発明。

しかし一方で損害を被る者たちも確かにいて、プロジェクトメンバーは常に危険との隣りあわせとなりました。」


「そしてある日、彼女に向けられた銃口を発見した一人の同僚が、彼女を、愛する人をかばって撃ち殺されました。

自分の行為に後悔はみじんもなく、地面に体を打ちつける前に意識は暗転、そして二度と目覚めないはずでした。」


「しかし、男は目覚めました。

目を開けるとやつれ痩せ細った少女がいました。

大きく目を開け涙がたまり、心の底から男の目覚めを喜ぶ少女。

がりがりの骨と皮だけになった男を抱きしめ、すすり泣きながら男の名前を呼んでいました。

よかった、よかったとつぶやく声が聞こえました。


しかし、男は、私は返事をすることができませんでした。」


「私は呼ばれた名が自分のものだと理解できませんでした。

頭の中にある記憶も別の誰かの物のように感じていました。

彼は、彼女の愛した男はすでに死んでいたのです。

ここにあるのは彼の姿をしたただの『人形』でしかありませんでした。」


「私が失敗作だと知った彼女は絶望しました。

絶望しながらも狂えない自分を嘆きました。

死ねない自分を呪いました。」


「絶望しきった彼女は研究室に閉じこもり、研究に没頭しました。

男の死とそれに伴う彼女の離脱によって数年の間停滞していた『オゾン層再生プロジェクト』も彼女の復帰によりとんとん拍子で進み、無事に散布が完了しました。

季節が失われたというのは周りにとっては誤算だったようですが、彼女には十分あり得る可能性だったようです。

巷では何年たっても幼いままの姿であることから『魔女』と呼ばれ、事実無根の噂がまるで真のようにささやかれることになりましたが、そのようなことに一切の関心を示さず、彼女は男の蘇生研究で得たデータをフルに使い、とあるを作り上げました。」


「それは死ぬことのできない彼女が、自分の存在を消し去るための薬。」


『記憶改竄薬』……。


過去をすべて忘れることのできる薬。


とても簡単な人生リセットボタン。


知識があるのは当たり前。


これを作ったのは『魔女ユリア』なのだから。


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