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魔女の人形  作者: 少々
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明日の私へ

拝啓 明日の私


おはようございます。


突然ですが、『私』は記憶喪失です。

一日おきに新しい自分にリセットされるといえば良いのでしょうか。


それがいつから続いているかはわかりませんが、おそらく私は一日を過ごしては忘れることをずっと続けてきたのでしょう。

そしていつからか明日の私への手紙に一日の出来事を明日への私への手紙として書くようになったのだと思います。


不思議ですね、記憶が無いのに文字とか一般常識は覚えているなんて。


今日の私は、起きたあとすぐ昨日からの私への手紙を読み、ここ7日間の出来事を読みました。

明日の私もそのぐらいは読んでおいてもいいと思います。

それ以上だと時間がもったいないですし。


それから部屋の外に出ると、背の高い『コウタ』さんと名乗る男の人が待っていました。

以前からの手紙に書いてあった通りです。


それから、私のことを訪ねるとすこし悲しそうな顔をして私の名前を教えてくれました。


しかし、私の名前はここには書きません。


今までの手紙にも私の名前は書かれていませんでした。

ここは慣習に習っておくことにします。


それから、なにをしてもいいと言われたので、今日の私は建物の外に出て庭を散歩しました。

外に出た途端、世界が大きく広がり、私の五感に訴えかけます。

顔をなでる風、さわさわと踊る葉、さえずる小鳥、白い空。

全てが新鮮で、美しく、輝いているように見え、その場から動くことができずに庭を眺めていました。


どのくらいそうしていたでしょうか。

後ろからコウタさんが苦笑いをしながら私を呼びました。

コウタさんは、

「朝ご飯を食べ損ねちゃったからちょっと早めにブランチだね。」

と言いました。

ぐぅーっとタイミングよくおなかが鳴ってとても恥ずかしかったです。


ブランチはパンケーキとベーコンエッグ、それからミルクティーでした。

とってもおいしくて思わず歓声を上げてしまいました。

でも、一食食べ損ねちゃったのはもったいなかったかもしれません。


午後は書斎から本を借りて庭に椅子を置き、そこで本を読みました。

題は『紫の国』というもので、勇敢な騎士が紫の姫のため忠誠を誓い、一途に仕えていく話です。

紫の姫の誕生から始まり、夜会での騎士との出会い、姫に立ちはだかる継承権の問題、暗殺未遂。


半分くらいまで読んだところでしょうか。

姫の暗殺を己の身を盾にすることによって守った騎士が傷を負いつつ暗殺者に挑むシーン、その辺りで外が暗くなってしまい、泣く泣く読むのを断念しました。


晩ご飯はオニオンドレッシングがかかったサラダとふかふかのパン、鳥の香草焼きでした。

「君の好物だろう?」とコウタさんは言っていましたが、まさしくその通りでした。

鶏肉がジューシーでとてもおいしく、おなかがいっぱいでなければもう一皿食べたかったですね。


そして、お風呂に入り、髪を乾かしたあと、この手紙を書いているというのが今日の私の一日です。


読んでもらった通り、私に特に心残りのようなものはありません。


強いて言うなら朝ご飯を食べ損ねたこと、『紫の国』が読み終わらなかったこと、鶏肉をもっと食べたかったということくらいでしょうか。


今日の私はとても幸せで満ち足りています。

このまま今日のすべてを忘れてしまうことは悲しいですが、そのことはあまり考えないことにしようと思います。


あぁ、もうこんな時間ですか。

気を緩めるとすぐに眠ってしまいそうです。

今日感じたこと、見たもの、コウタさんとの会話。

もっといっぱい書きたかったのに。


この手紙は机の上にあるファイルの続きに入れておいてください。

そこに、私、いえ、私たちの手紙が順番に入っています。

少し長くなってしまいましたがここらで終わりにしたいと思います。


私の一日はとても楽しかったです。


それでは、良い一日をお過ごしください。



徳碌23年 5月13日 


今日の私より。

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