第7話 「同じ名前」
『勝算、などないのだろう、レディー。強がっちゃいけないよ』
「・・・・・・」
岡山由梨は一見ピンチであった。6対1である上に能力である反射鏡を1枚壊された。遠距離系の攻撃をほぼ反射する反射鏡は物理攻撃に弱いのだ。
『しかし、驚いたよ。鏡を壊せたとはいえ、ほら』
そう言って見せてきたロボットの足は抉れていた。
『まさか物理攻撃すらはねかえすとはね・・・最後の4撃目は側面を蹴らせてもらったよ』
「そう・・・ですか・・・4撃目は側面に」
由梨の顔から笑みは消えない。今にもふはははははーと高笑いしそうなほど口元がゆるんでいる。ロボットはそれを不快に思いつつ不思議に思っていた。なぜ、笑っているのかと。
「あなたのその6体。5体は分身ですね。実体のないただのはりぼて」
『・・・・・なぜそう思われた?』
「簡単です。私の鏡を4撃で破壊したところです。自慢するようなことではありませんが、物理攻撃もはねかえすとはいえ、大したダメージにはならない。それに耐久もないので4体一気に襲いかかられたら一撃で粉砕されてしまいます」
『なるほど』
しかしロボットの足は抉れるというかなりのダメージを負っており、4撃でようやく壊すという結果だった。それは1つの実体が連続で攻撃した、ということに他ならない。
「それにあなたたち、6体が同時に話したことなんてないでしょう。だからもしかしたら実体しか話せないんじゃないかなぁ、と思ってというわけです」
ロボットは黙る。それは負けを覚悟したから、というわけではないということを由梨も知っていた。だからこそ残り5枚の鏡を自分のところに引き戻す。本来鏡をフルに使っての攻撃は由梨のバトルスタイルではない。6枚中4枚を送り、2枚を自分の盾として使うのがソロの時の戦い方だった。
「で、ここまで私がペラペラ話しているのに攻撃を仕掛けない、というのはどういうことでしょうか?」
戦いのさなか、しかもロボットと人間がお互いに言葉を交わす、というのは少なかった。生きるか死ぬかの戦いで言葉を交わすなんて愚かなマネをする者なんていない。
だからこそ不思議だった。由梨に話させることが。由梨はわざと隙を作っていたのだ。そこを攻撃するかと思いきや、ロボットは殺気すら放たなかった。
『いや、別に警戒しなくてもいい、レディー。我が兄弟が全員話したがりでね、ロボットにあるまじきことだとよく非難されていたよ』
(非難・・・兄弟・・・?ロボット同士で非難しあうってことでしょうか・・・?それに兄弟の概念、というのも誰が・・・)
そこで由梨は口を閉じる。ここから先は謎解きではなく、死闘。もう謎解きは終わりだと自分の推理に自信を持っていた。そして相手を攻撃するにはどれか1つの実体を攻撃しなければならない。
(恐らく相手は分身を移動するのでしょう。攻撃した瞬間に別の分身に移動して攻撃し終えた分身はただの張りぼてへと変化する。それで石がきかなかった、そのはずです)
由梨は手にたくさんの石を持つ。打開策はない。ただがむしゃらに攻撃をして本体に当てる。それか相手の攻撃の瞬間に一撃をくらわす。
『《虚実の似姿》』
ロボットはそう言った。
(なるほど、確かにその能力名は危険ですね。相手に能力が知れ渡りやすい)
由梨は5枚のうち3枚を相手側に送る準備をする。少しでも相手が動いたらすぐさま石をあびせる予定であった。しかしそれは叶わない希望となる。
「・・・!?」
ロボットが分身とともに瞬時に消えたのだ。いや、厳密には消えたのではない。由梨は知らないことだが《虚実の似姿》はとても扱いにくく分身を一度消すともう1度出すにはかなりの体力と時間がいるのだ。
しかしその能力の本質は分身間の移動ではない。それは実は付加価値であった。本来の力を出す際に生じる副産物。それが分身間の移動。その本質は分身および実体の瞬間移動。
『こちらです』
声が聞こえた方に振り向くとそこにはロボットの分身が6体。声に出して教えた、ということは余裕の表れであり、そして偽りなくロボットの勝利は確実だった。すなわち後ろを振り向いたときには蹴りを繰り出していたということである。
(本体・・・!)
石を投げている時間もない。絶体絶命。
しかし由梨の顔はまだ笑顔だった。
(そういえば五十川くんもアイシクル、とかいう能力でストーンバレット、とかいう技を繰り出してましたね)
そんなことが一瞬脳裏をよぎる。
(私もできるんですよ、そういうこと)
結果としてロボットの蹴りは由梨に当たらなかった。ロボットは身動きがとれなくなっていたのだ。
『な・・・に・・・!』
そう、由梨が盾として残らせておいた2枚の鏡の間に挟まれて、だ。
「『無限反射』」
鏡がロボットを思いっきり挟み込み、その反射を片方の鏡が吸収、それをまた反射する。するとその反射がもう片方の鏡にあたり反射する。その繰り返しである。物理攻撃をも跳ね返す反射鏡は永遠にその反射を繰り返す。その間にいるロボットは壊れるまでその反射を受け続ける。
『な・・・がっがぁああああああああああああああああああ!』
由梨は意地悪く笑う。
「痛みを感じないくせに叫ばないでくださいよ、うっとおしい」
由梨は侮蔑の視線を送る。
「そもそも、6体の分身を瞬間移動させないと移動できないなら6体も出すのが間違いです。2体でも同時に攻撃されたらどれを鏡で挟めばいいか分からなくなりますのに」
ロボットは先ほどから6体を同時で操ることはなかった。必ず攻撃するなら1体のみを動かしていた。
しかし由梨はそういいつつ、2体なら2体で石を反射させて攻撃していたのだろう。確率は2分の1。6体より断然当てやすい。
「さようなら、紳士なロボットさん」
『ぐあぁああああああああああああああああああああああ!』
そう言ってロボットは爆破する。その衝撃は鏡を破壊することすらできなかった。同時に分身たちも消えてしまう。
「今の爆発、恐らくみんながこの近くにいるのなら伝わったでしょう。私は先に五十川くんを探すことにします」
そう言ってロボットの無残な姿を見もせずに歩き去った。
〇
「ふむ、今の爆発。恐らく誰か、だな」
「そ、そうですね・・・」
笠井奈奈と伊井愛華は爆発の音をきいた。それはロボットも同じらしく悲しそうな表情をしているように見える。
『今のは恐らく長男・・・優しい男だったのに・・・』
「おい、ロボット。私たちを恨むならお門違いだぞ。そもそも戦力を分散させたのはお前たちのほうだ」
『恨むわけないよ。これが結果だから』
それにね、とロボットは区切る。
『最強は僕だからさ。あいつが破壊されても戦力に差はない』
それに、とまた区切る。
『戦力を分散させたんじゃないよ。僕のせいで分散せざるを得なくなったんだ。まぁ、戦力を分散させたわけではないけれどね』
「お前のせいで・・・?」
奈奈は剣を抜く。そのサーベルに似た剣に刀身はない。しかし少し経つとうっすらと風が刀の形に鍔の上に形成されていく。名前を呼ぶことなしの『暴れ狂う風波』。それは暗殺に役立つ能力へと変化する。うっすらとしか刀身が見えないため鍔と柄を見せなければ相手は刀を抜いたことすら気付かない。
『光』の名前も刀身もとても分かりやすい能力のため、こうした技術が必要となるのだ。
(この先に街がある。そこにつくまでにはまだ時間が必要。ここで無駄な体力を使いたくはない)
暗殺モード。
奈奈は刀を隠し、間合いを詰める。『暴れ狂う風波』は刀を形成する力ではなく、風操る力。足元に風を起こし、それで敵までの間合いを瞬時に詰める。
『なっ・・・!』
刀も見えず、距離があったため油断していたロボットは驚く。
「くらえ!」
しかし奈奈の竜巻刀は相手に当たる前に止まってしまう。止まったのは奈奈自身が止めたからだ。理由は簡単。刀身の竜巻が消えていた。
「なに・・・!」
ロボットはにひひと笑う。
『どうやら君は風を使うみたいだね』
だけど残念だ、と呟く。
『僕も風を使う。風を操るんじゃない。風を刃へと変化させるんだ』
そう言った瞬間。奈奈の体が切り刻まれる。
「がっ・・・!」
『風とは君が起こすもの以外にも自然に起こるものもある。だから味方も巻き込んじゃうんだよね。無差別だから、さ。君の攻撃は一切使えない』
「能力を明かすとは・・・馬鹿なのか」
『馬鹿じゃない、僕の《暴れ狂う刃》は無敵なんだ』
(同じ名前・・・!)
そこに驚いたが、それは長続きしなかった。
『後ろを見てみなよ。風が君の近くにだけ起こると思ったら大間違いだよ。お仲間は君と違って鍛えてないんじゃないのかい?』
「!?愛華!」
後ろを振り向くと愛華が倒れていた。腕がちぎれ、多大な量の血液を流している。かろうじて意識があるのかはっ・・はっ・・・という声だけが聞こえてきた。
「愛華ぁあああああああああああ!」
『馬鹿はそっちだぜ。その女、死んだな』
奈奈の叫びが虚しく響く。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。
別に停止するわけでも終わるわけでもないですけれど。なんか最終回みたいなテンションですね。
でもまだまだ続きます。
ではまた次回。




