第5話 「逃げないかどうか」
五十川太一が所属しているチーム『女子会(仮)』というチームを見ていれば不思議に思うかもしれないが、実は能力者である『希望の光』同士のいざこざというものはとても少ない。
仲間同士で潰しあう時間も、ましてや一般人に対して『光』を使って悪さする時間もない。その間にロボットたちは日々侵攻を繰り返しているのだから。
だからこそ太一のように不良というか盗みをする『希望の光』は珍しかったりする。しかし、最近ここ5年でファクトリーへ向かう『希望の光』が極端に減少しているという。それは恐怖ゆえか。謎のままである。
そんな中、このチーム『女子会(仮)』は正統派攻略組としてファクトリーを目指していた。
「ぐぎゅるるるるる・・・・・」
「口でわざわざ腹の鳴りを表現するとは意外と余裕があるな、美弥子」
「というか、辛いですね、これ」
「あの・・・ガンバロ・・・」
「・・・・・・・・お前ら・・・・・」
現在道を歩いている途中。
実はあの宿屋を出てからすでに12時間が経過している。何度も何度も地図を見たがここらへんに街はなく、泊まる場所すら見つけられずにいた。
「朝食すげー食ってたのにもう腹減ったのかよ」
「五十川くんは・・・平気なの・・・?」
疲れからかもう死にそうな愛華が質問する。五十川はこいつだけはマジで死にそうだな・・・と思っていた。顔がやばい。
「いや、普通あんだけ食えばまだ大丈夫じゃないか?」
「それはなんだ?私たちが食っても食っても腹が減る食いしん坊だと言いたいのか」
「なんでキレ気味なんだ・・・。落ち着け。確かにそう言ってはいるが」
「美弥子、もう食いしん坊でいいんで食い物をくださいー」
「おい、馬鹿!こらチビ!俺の腕を噛もうとするな!」
「ふぇふぇふぇええ」
「くーうーなー!」
「はっ・・・!」
急に我に返ったように美弥子はまばたきをする。
「タコかと思ったら汚い腕でした」
「てめぇ・・・肉ですらないのかよ」
タコいいですねタコ。と呪文のように繰り返す美弥子。こいつももう駄目かもしれん・・・。そう思っていた矢先の出来事だった。
『お、人間はっけーん』
機械的な声。そして寸胴なボディに金属的な光沢。人間とは思えないその体つきの持ち主はもちろん人間などではなく。
「ろ、ろぼっと・・・!」
そこにいたのは同じ形をしたロボット5体。ご丁寧にこちらと同じ人数である。しかしそのロボットの形はなんとも奇妙で『人型』と『量産型』の間の形をしていた。
『人型』に同じ形を持つものはいない。自分の『光』に特化した形になるからだ。しかし『光』を持たないロボットである『量産型』は全てがほとんど同じ形をしている。
『あー君たち、僕たちのこと馬鹿にしてるでしょ。量産型だって、そう思ってるでしょ』
『ノンノン。違うぜレディー達。俺達は量産型と人型の間』
『光を持ってるんだぜー!なめてかかったら死ぬぜ!』
とのことだった。
「わざわざ説明どうも。でも私たちは別になめてはいないさ。たとえ量産型でも全力を尽くしている」
「あなたたちみたいな『新種』が生まれるということも予想済みです」
「恐らくー量産可能な『光』持ちってところですかねー」
「・・・・・じゃあ、みんな戦う・・・よね」
「それしかないだろ。ちょうど5対5だしな」
「いや、まずお前が戦ったらどうだ、五十川」
「なんで!?」
太一は心の底から驚く。ライオンが自分の子供を崖に突き落とすが如くの冷たい行為である。
「まずは体を鍛えたらどうだ、ということだ。能力がいくらゴミでも体術でいろいろな活用が生まれるかもしれんぞ」
「まず俺の能力をゴミ扱いすんな。それといきなり実戦は死ぬだろ」
「別にあなたが死んでも美弥子困らないしー」
「薄情すぎるだろ!」
仲間に引き込んだのはそっちなのに!と本気で泣きそうになる太一。しかし体術を鍛える、というのはいい考えかもしれないと思っていた。実際リーダーである奈奈の能力は竜巻を起こすものであって自分の体を強化するものではない。なのに昨日、太一の『石弾』を斬った。それは体術によるものなのだろう。
「しょうがないですね、五十川くん」
急に由梨が話しかけてくる。その顔にはいつものように笑顔が貼りついているが、由梨のことを知っているものならばきっと恐怖するだろう。
「私も手伝ってあげます」
「いやいい」
「手伝います」
「嫌だ」
「なぜです?」
「お前なんか企んでるだろ」
「何も企んでませんよ。さぁさぁ、いきますよ五十川くん!」
「おい!待て待て!」
しかし由梨はすでに走り出している。それに追いつくように五十川も遅れて走り出す。
「五十川くん!能力を!」
「くそっ!」
両手に石を掴む。今度は昨日のように2発ではない。指と指の間、全てのところに石を挟んでいる。すなわち計8発。これが最大パワーだった。
「『全てを奪う冷却』」
石の熱を奪い凍らす。凍った石はものすごく硬くなり、それで殴るだけでもかなりのダメージを与えられそうである。しかしそんなマネはしない。五十川はそれぞれを同時に少し指で弾く。
「『石弾』!」
石の銃弾が8発同時に放たれる。だがその8発はロボットに当たらずにロボットを通り過ぎていく。
『はははははは!不発だぞ!男!』
「確かにそうかもな。『俺は』不発だった」
「私はどうですかね」
由梨の両手が光りだす。
『な、何をする気だ!』
「『超反射鏡』」
岡山由梨の能力『超反射鏡』。全てを反射する鏡を6枚出現させる。反射させる方向は自分で決めれることができ、またその鏡は自由に操れることができる。鏡の大きさは成人の男ぐらいの大きさであり幅もある。
現れた反射鏡が5体のロボットを囲む。そのうちの1枚に8発の石弾が当たる。当たったと思ったのもつかの間すぐに石弾が反射する。
『なに・・・!反射だと!』
5体のロボットはぎりぎりかわすが、しかしかわした石弾が今度はバラバラに3枚の反射鏡に当たる。
するとそれぞれ違う方向へと石弾が四散する。
『くそ・・・!』
「それもかわすなんてさすがロボ。ですが、次はどうでしょうか?」
『な・・・・・おいちょっとまて・・・』
意地の悪い笑みを浮かべる由梨を見てロボットの1体が何かに気付く。
『鏡がどんどん迫ってきてないか・・・?』
由梨は石弾を反射している時にどんどん鏡を動かしてロボット達の方へと近づけていたのだ。すなわち、ロボットがかわせる場所がどんどん狭くなっていくということである。
『スペースが足りねぇ!』
『任せろ!』
その時1体のロボットが殴るような動作をする。するとそこからビームが放たれた。
『光線拳』。殴った場所からビームを出せるこの能力は空気を殴っても発動する。
しかし反射鏡はビームをも飲み込んで反射した。
『馬鹿野郎!』
『しまったー!』
石弾とビームは全てそのビームを出したロボットに降り注ぎ完全に壊れた。機能停止。というか爆発したかのようにたくさんの部位が抉れていた。
「私の反射鏡は反射すればするほど威力と速度を上げるんです。残念でしたね、ビームさん」
ロボットたちはようやくやんだ攻撃に安堵しつつ態勢を立て直す。
『なるほど。あなたたちお強いようで。ならば作戦Eでいきましょう!』
「作戦E・・・?」
「コンビネーション攻撃かもしれませんよー」
『そうです、コンビネーション攻撃です。いきますよ・・・5男の仇だ』
急に口調が冷たくなり、太一たちは恐怖する。ちなみに美弥子は5男って兄弟なのかよ、というところにつっこみを入れていた。
『さようなら』
そう言った瞬間、太一たちの近くに突如ブラックホールのようなものが開く。ブラックホールの数は4個。太一たちはそれぞれ別々に引き込まれていく。
「なに!」
ふんばっても耐えられない。これは吸いこまれる。そして太一たちはそのブラックホールに吸い込まれてしまった。
『では我々もいきましょう。バラバラで相手をする。これもまたコンビネーションです』
〇
五十川太一は1人だった。恐らくみんな別々に違うところに飛ばされたのだろう、と考える。そしてこの風景、先ほどの道からあまり遠くない、ということも分かった。
恐らくブラックホールの数を増やせば移動させる距離も短くなるのだろう。『光』とは便利だがある程度の制限がつくもの。それは小さいものしか凍らすことのできない太一が一番分かっていた。
「さて、どこにいるんだ?」
『ここだぜ!』
暑苦しい口調のロボット。隠れることもせず、正々堂々と現れた。
『貴様は男だからな!俺は女を攻撃するなんてマネはできん!』
「そうかい、そいつは紳士だな」
『まぁ、ただ不満なのは貴様が弱そうなことだな!残念だ!先ほども5男を倒したのはお前ではなくあの女の鏡だったしな!お荷物なんだろ!』
「あーそうかそうか」
太一は顔に笑みを浮かべる。もちろん自分が一番弱い。それは身にしみて分かっている。だからこそ笑う。自分を強く見せるため道化を演じる。
「残念だったな。俺が最強だ」
太一には考えがあった。ロボットを倒す考えじゃない。この戦いを切り抜けたらあいつらいないし、このまま逃げられる!証拠は握られているが本気で遠くまで行けば警察も見つけられない。第一俺は『希望の光』。最悪でも罰金程度のはず!そう考えていた。
本当に怖かったのはあいつらの能力。逃げた瞬間にボコボコにされるかもしれない。しかし今はそのあいつらがいない!
ロボットは嬉しそうな太一を見て心底不思議そうだった。
〇
「あら・・・参りましたね」
岡山由梨は1人だった。恐らく、1人にしたのはロボットの計算のうちなのだろう。反射することしかできない由梨は単独だと100パーセントの力を発揮できない。
「どうしましょうか」
『私に負ければよろしいかと。レディー』
優しい口調のロボットが現れる。
『楽に殺してさしあげましょう。苦しみは与えません』
「私はまだ死ねないんですよね。みなさんも心配ですし。特に五十川くんが」
『お優しい。お仲間の心配とは』
「えぇ、心配です。五十川くんが逃げないかどうか」
〇
笠井奈奈と伊井愛華は同じ場所にいた。
「おお、みんながいないな」
「お、恐らく違う場所に飛ばされたんじゃないかと」
『その通りだよ』
そこに現れたのは元気そうな声のロボット。
『僕たちのチームワークはバラバラでこそ発揮される』
「ふむ・・・分散もまた作戦、か。愛華。戦えるか?」
「もちろん大丈夫です・・・」
『無駄だよ。僕は兄弟最強だ。死にたくなかったらおとなしくロボットに改造させて』
「馬鹿言うな。それは死ぬよりも嫌なことだ。元人間のお前なら分かるかと思ったがな」
『うーん、そんな感情忘れちゃったなぁ。ま、抵抗しても無駄だとだけ言っておくよ』
「それはこちらのセリフだ」
しかし頭の中では別のことを2人とも考えていた。
(五十川・・・逃げるんじゃないか?まぁ、どうでもいいが)
(でも五十川くんあのままじゃかわいそうだし・・・逃げれるなら頑張って逃げて)
この2人はあまり関心がないらしく、逃がしてもいいや、とさえ思っていた。
〇
木本美弥子は1人だった。
「げっ・・・しかもあのブラックホールの製造者じゃないですか・・・」
『下品な口調だ。女の子ならもう少し・・・』
「そんな説教聞きあきました。だから敬語でじゃべってるっていうのに、効果がねーんですよ」
美弥子はとりあえず自分も無事ならみんなも無事なのだろうと考えていた。場所も先ほどからそう遠い場所じゃない。
「でも歩くのめんどうだし、腹減ってるんで美弥子が勝ったらブラックホールでみんなを一か所に集めてください」
『いいよ。約束だ。だがこちらが勝ったら改造させてもらうぞ。お前らならいい人型になりそうだ』
「嬉しくねー」
それぞれバラバラのところで戦いが始まる。しかしそれは絶望ではなかった。もともとこのチームはそれぞれがソロ。このような場面でも動揺はしていない。
(というか五十川太一のやつ、逃げるんじゃないですかねー・・・)
そしてまた美弥子もそう思っていた。
「いきますよー」
『こい』
割と今日も投稿できました。さすがに次は年明けになると思いますが。
ではまた次回。




