第12話 「もし」
太一と由梨は捕えられていた。あちこちには植物のツタが。それに触れたり切ったりすると生きているため、それを感知し、罠を発動する。
『おとなしくしていてくれ』
太一と由梨は鏡にのって空中に浮かんでいる状態。下にさがっても上にあがっても左右に動いても恐らく罠に引っ掛かる。どうしようもない。動けないのだ。
「五十川くん」
太一がどうしようか迷っている時に横から小声で由梨が話しかけてくる。
「恐らく、このツタは生きているからこそ罠を発動できるはずです」
「ああ、それは分かる。でもこのツタを殺すこともできないぞ。切ったりしたら罠が発動する。風で揺らす程度じゃ発動しないのかもしれないが、踏むというような強い衝撃でも罠は発動する」
そして相手もそれが分かっているのか、太一、由梨のまわりのツタの配置はとても考えられていた。1つのツタを避けて移動しようとすると違うツタに強い衝撃を与えることになるのだ。移動はどうやってもできないようにできている。
しかしロボットはそれを言っていない。先ほどからここから出ようとチャレンジしない太一と由梨を見てロボット感心さえしていた。動かない方が利口。それを理解している。
「たぶん強い衝撃を与えないと発動できないというのはうっかり揺らしちゃって発動とか、罠をしかけたあいつが罠にハマるのを防ぐためだろうな・・・。普段は見えない罠なわけだからそんな弱点というか安全装置もあまり意味がないわけではあるが・・・今は違う。見えているから罠にハマらないのは簡単だ。でもここから移動することはできなくなる」
さすが『人型』ということ。これだけの罠を同時にはることなど普通はできない。人間の時だったならば尚更無理だったのだろう。しかし機械になることによって上限や限界がなくなった。
「・・・・・・はやく屋敷に向かいたいところなんですけど・・・これは無理そうですね」
「幸いなのは相手もこちらに攻撃できないことか」
罠を張り巡らせているため、相手も攻撃しようとしたら罠にハマるだろう。相手自身は罠にハマらないという可能性もあるにはある。でも強い衝撃を与えないと発動しないという制約はやみくもに罠にハマらないようにする、というよりも自分自身がうっかりでハマらないようにする、という方に重きを置いているような気がすると太一と由梨は考えていた。
能力者同士の戦いは推理のようなもの。相手の能力をどのように暴き、そして突破口を開くか、これが大事なのだ。
「こうしている間も幻覚は進んでいく・・・くっ!人をロボットにする幻覚なんてあるとはな」
「それに対しては驚きですね。しかし幻覚には範囲があります。長い間持続させることは無尽蔵の体力を持つロボットに可能だと考えて、幻覚が効く範囲は変えることができないはずです」
「範囲・・・」
「恐らく範囲はこの街全体のはずです。だからこそ街を出たら幻覚はとかれる・・・」
「でもあいつが罠を張っていて外に出れないというわけか・・・」
太一はあたりを見る。もう街の人は逃げていない。でもあの人達もあのままじゃロボットにされてしまう。それだけはさせてはいけない。
「くそ・・・!もう動きがおかしくなってやがる・・・」
太一の腕は少しずつ動きがおかしくなってきている。まるでロボットのように機械的な動き。
「今、五十川くんの特技はロボットダンスですね」
「笑えねぇよ!」
しかし幻覚には個人差があることも分かった。奈奈は1日でロボットになってしまったものの、太一は恐らく明日になったときにロボットになっているだろう。
「ロボットになっても認めなければいいんじゃないのか・・・?」
「無理です。自分がロボットの姿になってしまったのを見てしまっただけも逃れることはできません。ましてや動きが完全にロボットになった段階でもまたそれは認めざるを得ないということになります。人間の脳というのは弱いんです。意志に反して恐らくロボットになってしまうでしょう・・・」
「じゃあこんなところでモタモタしてる場合じゃねぇ!適当に攻撃すれば逃げれるんじゃないか?」
「待ってください。あなたが別に死のうがどうなろうが関係ないですけれど私にまで被害が及ぶかもしれないじゃないですか」
「相変わらず自己中な野郎だな!仲間がロボットになるかもしれないっていうときに!」
「だからってここで死ぬこともまた、できません。罠のロボットを逃がすことになりますし、いい考えが思いついてから行動するべきです!」
喧嘩を始める由梨と太一。
それを見てロボットは言う。
『なんだこいつら・・・』
〇
「笑止」
そう奈奈が呟いた瞬間に『量産型』ロボットは全員爆発する。奈奈が倒したのだ。
「いまさらこのようなもので足止めするなど不毛。無駄だ。ここにザコがいることを考えると強いやつは五十川と由梨のところにいそうだな。ところで」
奈奈は後ろを見て微笑む。
「杏ちゃんは無事か?」
「はい、大丈夫です」
答えたのは美弥子だ。杏は恐怖から声が出なくなっている。しかし美弥子が頭をなでると気持ちよさそうに強張った顔が元に戻る。
「ではこれからどうする?街の中が幻覚の範囲だとするならば街の外に出るのが一番だとは思うのだが」
「でも出入り口には罠があります。大量のナイフだとかなら大丈夫かもしれませんが、たぶんもっと強力なものを張っているはずです」
「・・・・・そうだな。しかし愛華には時間がない。このままロボットだと認めてしまえば幻覚が解けてもロボットだと思い続けてしまう」
「罠にかかる覚悟で外に出ますか?それともあの2人の手助けをしますか?」
「やはり杏ちゃんが心配だな・・・戦闘は何が起こるか分からないからな」
杏は何を言っているのか分からないような顔をしている。
しかしここは重要なものだ。待つのはどちらも危険。
「一番いいのは私が行くことだな。よし、そうしよう」
「え?いや、ちょっと・・・」
「私が罠を外しにいく。ここで待っていろ」
「私も・・・」
「杏ちゃんを危険に巻き込むことなどできない。大丈夫だ。ここに来るのはザコばかりのはずだ。愛華も頼んだぞ」
「でもそれでは奈奈が危ない・・・」
「それこそ大丈夫だ。任せろ」
そう言うと奈奈は走り去って行った。美弥子はそれを見て、心の中で思った。
(ありがとうございます・・・)
〇
「ん・・・・・?」
太一はそこで何かおかしいことに気付く。きっかけは先ほど、街の人のことを考えた時のことである。
(待てよ・・・俺が今、1日で動きが鈍くなり、笠井に至っては1日で完全にロボットになりかけていたはずだ・・・)
太一は鳥肌が立つ。嫌な真実に自分が進んでいるような感覚。
(なのに・・・なのになぜここに住んでいる人達はロボットになっていないんだ!?俺とは比べ物にならないぐらい長い間滞在しているはずだぞ・・・!)
ロボット自体が最近きたことも否定はできない。でも罠を張り巡らされ、ここまで用意周到に動き、さらに認知型幻覚。幻覚は発動したら強いが発動するまでが長い。1日2日じゃできるものじゃないのだ。
(そう考えるなら・・・街の人もロボットになっていないとおかしい・・・)
それともう1つ。
あの人間が生活しているとは思えないぐらいの廃墟感。傷ついた家。あれもおかしいのだ。
(もし・・・もしだぞ。ロボットに変える幻覚ではなかったとしたら・・・そんな単純なものではなかったとしたら・・・・・!)
太一はまたも恐怖する。
あの街の人たちが人ではない何かにすでになっているとしたら。逆に人でない何かから人に見せられて自分は人間だと思わされているとしたら。
人間になっていることが認知型の幻覚だったとしたら。
「岡山!何かおかしいぞ!」
「五十川くん・・・?」
由梨は戸惑った表情をした。おかしいとは何だろうか?という感じの顔だ。
太一は小声で話す。
「もし、もしだ。この幻覚がロボットにさせるというものではなかったとしたら・・・」
「なっ!その可能性はほとんどないんじゃないですか?だって実際に愛華もロボットに・・・」
「ロボットになるという結果が生じる他の幻覚。それに見ろ、この家たちを。傷だらけだろ?街の人に怪我1つないのに家はボロボロだ」
「・・・・・・・・確かに。あれはどうしてああなったのか説明ができませんね」
「だからもし。もし。この幻覚が全てを逆にする幻覚だとしたらどうだ?」
由梨は考える。
「綺麗な家は傷だらけに。人間はロボットに。なるほど。逆ではありますね。人間がロボットになるあたりはこの時代だからこそ思いつく逆ではありますが」
由梨は納得する。
「で、でも待ってください。じゃあ先ほどまでいた街の人は・・・?」
「その仮説を信じるのならば街の人は全員ロボットだ」
ロボットの逆は人間。認知型幻覚によって人間だと思わされているロボット。
「あのー・・・五十川くん。私、嫌な考えが浮かんでいるんですけれども・・・」
「・・・俺もだ」
2人は考える。
先ほどまで泊まっていたあの屋敷。あの屋敷はとてもきれいでハイテクなホテルのようなものであった。では、すなわちあそこは幻覚により屋敷にされている、としたら。
「あの屋敷は本当の廃墟だったんだ・・・」
「でも・・・じゃあ・・・あそこに住んでいると言っていた杏ちゃんは・・・?それにご家族も」
「あれが家族だと誰が判断できる?」
太一たちが見たのはロボットになった姿。それだけでは家族とは判断できない。
「それともう1つ。街の人と同じぐらい住んでいるのにロボットになっていない杏ちゃん。最初からロボット、という考えもあるにはあるが、唯一綺麗だったあの屋敷に住んでいたということから考えて」
「まさか・・・」
「杏ちゃんが幻覚を使うロボットだとしたら・・・やばいぞ」
〇
「おねえちゃん」
美弥子が愛華がいる部屋で杏と一緒に過ごしていた。
「どうしましたか?」
「おねえちゃん、怖い?」
「怖い・・・?いえ、どちらかといえば心配ですね。みんなが」
「しんぱい?でもね、すぐにその気持ちから解放してあげる」
「杏ちゃん・・・?」
いよいよ、この街の戦いはクライマックスです。
ではまた次回。




