第11話 「警告」
太一は焦っていた。何にでもない。奈奈がやられたとかそんなことすらどうでもいい。まだ太一は仲間だと心からは思っていないのだ。だからこそ、この場は俺が制しなければ、と思っていた。
みんなを見返すチャンス。ここで敵ロボットを倒せば一気に地位は上がるとそう思っていた。
(くそ・・・!)
しかし当てはない。思い切って飛び出してきたもののそのロボットがどこにいるのかさえ分からない。
太一は走りながら考える。
(認知型幻覚はそれなりに高度な能力。それだけ大きな代償を払わなければ発動できないはず・・・)
使い方によっては一気に何万人という命を奪える認知型幻覚。
そんな能力を簡単に発動できるわけがない。しかし考えるべきことはもう1つあった。
(そしてもう1体。恐らくこの街には2体のロボットがいる・・・!)
罠を仕掛けたロボット。そいつは確実に認知型幻覚とは別のロボットだろう。罠をしかけるのと幻覚をかけるのは別物だ。特に見えない罠というのはおかしい。認知型幻覚は認知しなければ発動しないのに、見えない罠は見えていないのに発動した。
ってことは敵は2体だと、それぞれ別の能力を持つ2体だと考えた方がいい。
「・・・・・・・」
それと気になっていることは人の多さ。さっききたときも多かったわけなのだが、普通ロボットが来たら人間を襲うだろう。そしてロボットに改造するはずだ。
なのにまわりの人間はいつも通りの日常を送っていた。急ぐ太一がむしろ不自然だと言わんばかりの目で見ている。
(どう考えてもおかしい・・・)
街の廃墟みたいなたくさんの建物。なのに傷1つない街人。
ここに何かヒントがあると太一は考えていた。
「五十川くん」
すると後ろから由梨が鏡に乗ってきた。
「げっ・・・マジかよ・・・」
手柄を独り占めしようとしていた太一はその姿を見てがっかりした。そしてそれを見逃す由梨ではない。いつものように黒い部分が見え隠れしている。
「なんで今、少しがっかりしたんですか?」
「なんでもない・・・」
顔をそらして精一杯誤魔化す。
「で、探す当てはあるんですか?」
「そんなものはない。適当に走ってたらそのうち見つかるだろ」
太一のそんな考えに由梨はため息をつく。
「五十川くん、奈奈の姿を見ましたよね。今は愛華が身代わりになっていますが、遅かれ早かれいずれ私たちもロボットになってしまいます。急がなければたぶん間に合いません」
ロボットになって、そしてそのうちそれが普通になり、本物のロボットと変わらない殺戮の道具になってしまう。人間の思いこみの強さを逆手にとった認知型。
「くそ、わかってるけどよ・・・」
太一も由梨も太一が奈奈を置いて自分の手柄のために走り出したことについて言及しない。お互いにまだ仲間だと思いきれていない部分があるのだ。
太一は新しく仲間になったばかりということもあるのだが、他のメンバーよりも由梨は軽く扱いがちになる。だからこそ、太一を責めない。同じなのだ、由梨も太一も。
「ん?」
そこで太一が何かをふんだ。ぐにゃぁっというような変な感触。しかし足元を見ても何もない。
「まさか・・・これが・・・!」
次の瞬間。真横から大量のナイフ。愛華を襲ったものと同じ攻撃だ。
しかし先ほどとは違う。もちろんピストルのマネごとしかできない太一ではかわしきれないが、ここにはもう1人能力者がいる。
「『超反射鏡』」
由梨が能力名を言う。そうすると5枚の鏡(1枚は由梨が乗っている)が同時に飛び出し、太一をナイフから守るように盾になる。
もちろんナイフは鏡にぶちあたり、そしてものすごいスピードで跳ね返されていった。
跳ね返した先はただの民家でその壁に刺さり、ナイフは動きを止める。
「おい、街の人間もいるんだぞ・・・あまり跳ね返すと危ないんじゃ・・・」
あたりの人がこちらを見る。とても不審がられている目。
「避難しないあいつらが悪いんですよ。流れ弾に注意してくださいねー」
笑顔であたりの人間に手をふる。
するとさすがに異常性に気付いたのか人があちらこちらに逃げ出した。
「これで避難はできましたね」
「絶対ここまで考えてなかっただろ」
しかしここで由梨は考える。
(あれだけ大量の人が動いたのに、誰も罠にひっかからない・・・。やはりあの罠は特定の個人を狙えるもの。さらに言えば私たちを見ていられる位置にいるはず)
見ないで罠をしかけるというのは至難の技だ。相手によって罠の種類も変えていると考えられるのでさらにこの場を見ていなければ反応できないはず。
「五十川くん、恐らく相手はこちらを見ることのできる位置にいます」
「ああ、俺もそう思ったところだ」
次に太一と由梨がしたことはこの街で一番高い建物を探すことであった。
「あの塔だな」
電波塔か何かだろうか。TVを見られるようにするための何かなのか、それとも何なのかは分からないが街のど真ん中に塔らしきものがある。
太一と由梨は鏡にのり、一気に移動する。塔の近くまで行くのはそこまで時間がかからなかった。鏡での移動は疲れない上に走るのより速いというのもあるのだろう。
塔の一番上のあたりに由梨の鏡を4枚セットする。塔を囲むようにそれを動かす。
「『全てを奪う冷却』」
太一は先ほど走ったときに拾った小石を8個手に持ち、能力を発動。熱を奪い一気に小石を凍らすとそれを銃弾のように一気に放つ。
もちろん直接塔を狙っても塔には傷を少しつける程度だ。だから鏡を狙う。『超反射鏡』は反射すればするほど少しずつ威力が上がるのだ。
「いけ!」
そして由梨が鏡を少し傾ける。そうすると鏡をいったりきたりしていた小石が塔の方向に向きを変えた。塔にぶちあたり、崩壊とまではいかないが、あたりを見渡せるであろう場所が破壊された。
太一と由梨は構えをとかない。まだ何かある気がする。さすがにこれで終わりではないだろう。
それが当たったのか、塔の中には何かの気配が。
(何か・・・いる・・・!)
太一は手に小石を持つ。いつでも発射できるように準備したのだ。由梨もそれと同じように鏡を自分たちの前に4枚並べる。残りの2枚を相手の近くへ。太一がいつでも攻撃できるように準備する。
『あーあ、案外はやかったなぁ、バレるの』
流暢な日本語。しかしその声はどこか機械っぽくこもっている。誰が聞いても誰が見てもあれは人間だと思わない。あれはロボットだ。
「なっ・・・!『人型』だと!」
出てきたロボットはしかも『人型』。
ロボットには『量産型』『特化型』『人型』がいる。『量産型』は話すこともできない本当にそのまんま殺戮の道具でしかないもの。主に一般人が改造されるとこうなる。武器は銃などの普通の武器。
『特化型』は『人型』になりえない能力持ちのロボットのこと。太一たちがここに来る前に相手した能力持ちロボット達はこれに分類される。能力は持つが、人型ではなく、奇怪な形をしていることが多い。爬虫類のような、動物のようなシルエットなのだ。
最後に『人型』。『光』という能力持ちであり、形は『人型』。もちろん機械めいているため、人間!という感じはしないが形だけ見ると人に似ている。ロボットアニメのロボットを細くした感じである。
『人型』は能力を持つ『希望の光』という人間が改造されるとたまに生まれることのある、珍しく、強いロボットだ。『人型』1体で街を破壊することは余裕で朝飯前なのだ。
「・・・・・・・」
太一は少し怖気づいていた。『人型』と対面したのはこれが初めてというのもあるのだろう。
しかしすぐに考えを改めて石を握りこむ。
「『人型』・・・ですか・・・」
由梨もこれは危険だと考えていた。こちらは2人。そのうえ主戦力がいない。どちらも威力は低い。だとするならばここでこいつを相手にするのは得策ではないと思った。
(でも・・・こいつ1体だけ?)
こいつは恐らく罠を仕掛けた方のロボット。じゃあ認知型幻覚の方は?どこにいる?
由梨は首を思いっきり巡らせる。あたりを見る。するとこの塔と同じぐらいの高さの建物が見つかった。それは先ほどまでいた、屋敷である。
「まさか・・・美弥子、奈奈!」
由梨は太一にこのことを告げ、すぐにでも戻ろうかと思ったが、鏡の動きが止まる。
由梨の目の前にはなぜか植物のツタのようなものがあったのだ。ただのツタではないらしく、変な文様も描かれている。
「これは・・・?」
『警告。動いたら死ぬぜ』
『人型』は笑っているような表情を見せる。
「まさか、これが罠の起動スイッチ・・・・・?」
『正解。これがいままであんたたちが踏んでいた見えない起動スイッチだよ。これを踏んだり、切ったりしたら起動する。言っとくけど、このツタは俺の体から出ているものだ、全て生きてるよ』
ここで『人型』は区切り、
『生きているからこそ、何か触れたと感知したときには罠が発動する』
(・・・・・だから奈奈の風の揺れでは発動しなかったのか・・・。恐らく揺れ程度では発動しないのか、意図的に発動しないようにしているのか・・・)
由梨は自分の疑問が解消されたことを嬉しく思ったがすぐに不審に思う。
「ずいぶんとペラペラと話してくださるんですね」
『んー?だから言ったろ、警告だって。俺の一番の目的はあんたらを殺すことじゃないんだよね』
「・・・・・!」
太一は何かに気付く。
『おっと、そっちの子は気付いたみたいだね。俺の目的は戦力の分散、時間稼ぎ。もう少しで幻覚が本物になるんだ、邪魔されたらたまらない』
「な・・・」
由梨も何かに気付いた。
『で、ペラペラ話したり、消していた起動スイッチを見せた理由は簡単。起動スイッチであるツタを消すと能力のほとんどが消すことに使用されてたくさんの罠が仕掛けられないから』
『人型』は両腕を広げる。
『それに起動スイッチが見えないとあんたら勝手にここから動くでしょ』
そう、太一と由梨のまわりにはすでに無数の植物のツタがあちこちに仕掛けられていた。一歩でも動けばすぐにツタを踏んで、罠が発動するだろう。
これで太一たちはここから動けなくなった。その事実を伝えるために起動スイッチを見せ、さらに数を増やすためにこうしてツタを見せたのだ。
『言っとくけどさ、罠を起動させても防げばいいとか考えないでよ。さっきまでのナイフみたいなおもちゃとは全然違う罠だぜ』
ハッタリかもしれないが、もし、そうだったらここで2人して死んでしまうかもしれない。すぐに死に至る、それがこのロボットとの闘いなのだから。
言うなればツタでできた結界。ツタによって支配された世界。
『これが俺の《蔦が蔓延る世界》だ』
〇
「杏ちゃん!」
屋敷にて。美弥子は杏の部屋の場所に走り出していた。少し遅れて奈奈が続く。美弥子は昨日杏と遊んでいたのでその部屋の場所は分かる。しかしそこに杏はいなかった。
だとするならば、きっといるのは父親と母親のいる管理人室。そこの場所は地図を見なければわからないため、少しだけ時間がかかった。
最後のドアを開ける。するとやはり管理人室には杏がいた。
「杏ちゃん!」
美弥子はすぐに駆け寄る。だが、杏は泣いていた。
「お姉ちゃん・・・パパとママがー・・・」
杏は指をさす。
するとソファに腰掛ける2体のロボットがそこにはいた。
「美弥子。落ちつけ。私と同じようにあれも幻覚だ。時間はないが、まだロボットになったわけではない。だからまだ間に合う」
「分かってます・・・」
しかし美弥子は親2人が気になる。ここにロボットが来たらロボットの動きに慣れていない人間は動くことすらできないまま連れていかれてしまうだろう。
「私は五十川と由梨の手助けに行くが・・・お前はどうする?」
「美弥子もここにいます。杏ちゃんはどうしましょう・・・」
そう考えようとした時、そこに部屋に5体の『量産型』ロボットが入り込んできた。
「な、なにあれ・・・」
杏が恐怖のあまり声をだすことすら限界になっていた。それを見て、美弥子が唇をかむ。
「美弥子、ここは私に任せろ」
「リーダー・・・」
「お前は杏ちゃんの確保を一番に考えるんだ。恐らく、外に出ると罠がはられているはず。だから自然と安全なのはこの部屋になってしまうんだ」
「ですが・・・」
「だからお前は守ることに集中しろ」
奈奈は腰にあるサーベルを抜き、名前なしで能力を発動。竜巻のような風でロボットががりがりと抉りとられ、爆発する。
「私は殺すことに集中する」
バトルも少しずつ進み始めました。なんというか女子勢が頼りがいありすぎて、男が少しあれな感じになっていますが。
ではまた次回。




