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Robotic:World  作者: 花澤文化
第1章:届くまで走り続けて『女子会』
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第9話 「何か」

 太一が門に戻る途中である人にぶつかった。肩が軽く当たった程度だが相手が女の人だと気付くとなおさら太一は焦り、謝る。

「す、すみません!」

 チンピラ、というならぶつかったときに骨が折れただの慰謝料がどうだだのと言うのが普通と太一は思っている。だからこそ、小心者というか変に真面目な自分に嫌気がさす。もう金髪やめて黒髪に戻そうかとまで考えた。

「いえ、大丈夫です。お気をつかっていただきありがとうございます」

 笑顔で答えるその女性。20歳ぐらいだろうか、綺麗な人だった。そして太一に負けず劣らず丁寧で真面目そうなのが口調からうかがえた。

「ほんとにすみません!」

 太一は急いでいる(この街に怯えている)ため、最後に大声で謝ってからその場を退散した。正直真面目な太一が自分の過ちを認められるほどの余裕すらなかった。こわい。その言葉が心を支配する。この街から離れたい。

 太一が去ると女性はまた太一とは逆方向へ歩き出す。その笑顔は本当に太一のことを気にしていない様子であった。太一とぶつかったこと、ではなく、太一自身のことを全く気にしていないということ。

「おい、何勝手にぶらぶらしてんだ」

 その女性のとなりに降り立ったのは全身真っ黒な衣装で髪の毛も目の色も漆黒な高校生ぐらいの男。

「こんにちは」

「こんにちはじゃねぇ!てめぇが勝手に移動するからこのクソみてぇに気持ち悪ぃ街に来る羽目になったんだろうが!本来の目的はここじゃねぇ!」

 女性は一見年下の男の子に怒られているように見える。見える、というより本当にそうなのだが。しかし女性は笑顔を絶やさない。大人びた口調も笑顔も絶やさない。

「ほら、行くぞ。お前が一緒だと俺は能力を使えねぇんだから急ぐ」

「すみません。足手まといで」

「本当にそう思ってんならもっとキビキビ歩けや」

「確かにそうですね。そのせいで先ほど人とぶつかってしまいましたし」

「あ?」

 そこで黒い少年は女性が見る方向を見た。

「どうする、殺すか?」

「いえ、いいです。大して痛くありませんでしたし」

 ならいいか、と黒い少年は後ろを振り向き。この街の出口の方へと歩き出す。その後ろを少しだけ遅れて女性が歩く。

 黒い少年は『減速度デスピード』の最凶。そして女性の名前は羽瀬未亜。恐るべき2人がこの街を訪れたとは知らずに太一はみんなの元に走っていった。






「確かにこれは気持ち悪いな・・・」

 みんなに報告を終え、みんなが街に入ると笠井奈奈がそう言った。奈奈だけではなくほかのメンバーもそう思っているらしくあまりいい表情ではない。

 この時代。警戒のためまだ侵攻されていない街にはロボット専用の罠や能力者を雇い守らせるというようなことが多い。しかしこの街は規模の大きな街にも関わらずそんな様子が見えない。そして何よりもなぜか建物だけが戦闘の後のように傷だらけだった。もちろん、住民は怪我をした様子もない。

「なんなんですかねー・・・とりあえず美弥子腹減ってるんでなんか食べましょう」

「あなたの神経のずぶとさにはほんと呆れます」

 由梨がそう言いつつ、あたりを見渡す。

「とりあえず宿を探す前に少し聞き込みをした方がいいのかもしれませんね」

「じゃあ、バラけるか」

 奈奈は1人1人があたる方角をいい、それぞれその方角に向けて歩き出した。その時、奈奈は何かを踏む感触が足を伝わったことに驚く。

 先ほどまで、いや、今見ても、そこに何もないのに、確実に何かがそこにある。

「みんな、急いで逃げろ!」

 その奈奈の怒号ともとれる言葉を聞いた瞬間、太一以外の3人が一斉にその場から離れた。太一も数秒遅れてその場から離れる。

 太一は何が起こったのか分からなかったが他の3人は逃げろという言葉に対して従順に従ってしまったことに舌打ちする。能力者『希望の光ホーパー』に身に着いた醜い癖。

 1人失うより2人、2人失うより3人失う方が悪いことと教えられてきた能力者達はまず自分の身を優先してしまう。たとえ、仲間がやられたとしても。

「・・・・・?」

 しかし奈奈には何も起こらなかった。

 しばらく経っても、何も起こらない。

「・・・・・」

 いや、これが、この変な感触自体が罠だとしたら・・・。

「おい!お前ら体に異変はないか!」

「え・・・?」

 奈奈が次に思ったことは自分以外の誰かが攻撃を受けている可能性。その可能性は当たってほしくないものではあったのだが、愛華がおそるおそる手を挙げる。

「私・・・何か踏んでるみたいなんだけど・・・」

 何か。

 足元を見てもそれらしい何かは見当たらない。なのにこのあたりにはその何かが張り巡らされている。もちろん、街の人が何かに気付いた様子はない。気付いているのはこの能力者達のみ。

 そして次の瞬間、愛華を襲ったのは大量のナイフ。本当に大量のナイフであった。数えることもバカらしくなるような量。

 能力者も人間。自分の能力の及ばないところでは無力。

 愛華はそのナイフの大群を体に受ける。鮮血。血が体から噴き出した。

「がっ・・・あ・・・『非対称アシンメトリー』・・・」

 愛華の『ホープ』である『非対称アシンメトリー』は自分の体の状態を相手と移し替える。怪我はもちろん疲労なども可能だ。

 先ほどの戦いで1度使っており、実はもう使えないはずだが、相手に自分の状態を移し替えず、相手の状態だけ自分がもらう場合、もう1度だけ使える。

 愛華の体は元に戻るが、相手に愛華のダメージはいかない。これでは恐らくもうすでにこの場からいなくなっているだろう。

「愛華、大丈夫か」

「はい・・・」

 奈奈が愛華のもとにかけよる。しかし由梨と美弥子、太一は何が起きたのか全く分かっていない。

「今、説明する。それまで迂闊に動くな」





「罠・・・?」

 言葉を発したのは由梨。

「ああ、恐らく、この街じゅうに罠が設置されている。糸などではない。確実に踏んだら感触のあるものだった。その何かを踏むと先ほどのナイフのように攻撃を仕掛けてくる仕組みなのだろう」

 そして奈奈が危惧しているのはもう1つ。

 先ほど自分が引っ掛かったのに、何も起こらず、愛華に起こった。罠にはフェイクがあるのだ。さらにナイフ攻撃を愛華に仕掛けたことに疑問を覚える。

 奈奈ならば風でナイフぐらい吹き飛ばせるが、そういうタイプの能力を持たない愛華にナイフがきたという事実。偶然で済ませてもいいものなのだろうか。

「ん?美弥子はどこだ?」

 奈奈が美弥子がいないことに気付く。

 あたりを見ると、美弥子は子供と遊んでいた。

「美弥子、話を聞け。それと迂闊に動くな」

 罠が仕掛けているかもしれない場所で勝手に動いた美弥子に対してこの程度の言葉で済むのはみんなが美弥子の力を信頼しているからだ。

「うーっす。でもー、美弥子腹減りました」

 みんなも腹が減っている。しかも宿屋で休みたい。だがこの街は罠だらけ、一度この街から出ることも考えたがそれもできない。恐らく、この街の入り口、出口には特に集中して罠が仕掛けられているはずだ。

「いや・・・」

 奈奈は考える。

「罠を引き起こす何かを踏んだら罠が起こる。踏める、ということは実体があるものかもしれない」

 奈奈は刀身のない柄と鍔のみのサーベルを腰から取り出す。

「『暴れ狂う風波サイクロン』・・・暗殺モード・・・」

 限りなく少なめに、限りなく静かに、風で刀身を形成する。

 暗殺モードは風を少なめ纏わすが、それは量自体が少ないわけではない。圧縮。風を圧縮しているのだ。見かけだけは弱そうではあるが、切れ味は普段の倍以上になる。

 そしてその圧縮を解放するとどうなるのか。

「少し乱暴だが・・・害はあるまい・・・『暴れ狂う風波サイクロン』!」

 圧縮された風が解放される。

 あたりに突風。ものすごい風が吹き荒れる。ダメージはないが、歩くのも困難なレベルだ。

 まわりの人間が「なんだ」「すごい風だな」などとのんきに話している。

「・・・・・・・」

「奈奈?」

 愛華が心配そうに奈奈の顔を覗き込む。

「やはり、入り口と出口に罠があるな・・・しかし今ので罠の場所は分かった」

 風により罠を引き起こす何かを揺さぶり、その時の音、感覚を見たのである。普段から風に触れている奈奈にしか分からない程度の違いだが。

「新たな罠が仕掛けられる前に宿屋に行くぞ」

「任せてください」

 由梨はそう言うと6枚の鏡を出す。

「これに乗ってください。あ、もちろん、裏側ですよ。表側に乗ったら多少のものでも反射しちゃいますから」

 にこにこと笑いながら言う。他のメンバーは顔をひきつらせながら慎重に鏡に乗る。

「あ、この子も乗っけていいですか?」

 美弥子がそう言って一緒に乗せたのは小さい女の子。先ほど遊んでいた子供だろう。

「なんかこの子の家、宿屋みたいなんですよね」

「お、お願いします」

 頭を丁寧に下げる女の子。

「はい、もちろんです」

 それに対して笑顔で答える由梨。

「お前ほんと外面だけはいいよなー」

 と呟いた太一が痛い目みるまでそう時間はいらなかった。

 太一と由梨がぎゃあぎゃあ騒いでいる間、奈奈がまた何か新しいことに気付いていた。

「・・・・・妙だな」

「どうかしたんですかー?」

 それに答えたのは子供と遊んでいる美弥子だった。

「ああ、何か私の体の動きが鈍くなっているんだ・・・なんか、こう、錆ついたものを動かすような変な感じがする」

「うーん、四十肩とかじゃなくてですか?」

「私は!まだ!学生の!年齢だ!」

 美弥子と奈奈のじゃれあいも始まった。

「・・・・・・・」

 愛華は違和感を感じていた。

 先ほど奈奈が言っていた違和感。自分が錆ついた体になっていく感覚。それが自分にもきていた。これではまるで手入れのしていないロボットのようではないか。

「・・・・・用心した方がいいかもしれない・・・」

 愛華はそう決意すると再び前を向いて、四十肩呼ばわりはやだなぁ・・・と考えながら証拠をつかめるまで黙っていようと考えていた。


主人公サイドの能力が一通りこの話で揃いました。説明が次から少なくなるのでテンポがすこしはやくなるんじゃないかなぁと思います。


どちらかというといつ、どこで、何をされて襲われるか、それは何の能力か、というのが分からないのでバトルというよりミステリーチックかもしれません。


あと序章と1章は当然つながっております。


ではまた次回。

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