なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
面倒な予感しかしない! ~門の前にドアマット令嬢が倒れていたら~
夜会で久しぶりにあった友と談笑している内に、遅くなってしまって。
早朝、屋敷へ帰って来たら。
屋敷の前に女が倒れていた。
明け方までの豪雨で、女はびしょぬれだ。
服装はまずしい。
だが、流行から10年以上遅れてはいるが、生地も仕立てもいい。
貴族以外はもっていないドレスだ。
わざとらしくまくれた袖口から覗く腕に、いくつものアザ。
『虐待されてました!』と判りやすく主張している。
これはあれだ。
いわゆるドアマットだ。
我が凡庸な子爵家にとっては、関わると面倒な予感しかしない。
倒れ方からすると、お向かいの侯爵家の前に倒れようとして力尽きたっぽい。
誰も見ていない。
オレは従僕に命じた。
「こいつをお向かいの……」
いやいや。ここは考えどころだ。
右隣は男爵家。左隣は伯爵家。正面は侯爵家だ。
侯爵家の御当主とはチェス仲間だし、子供どうしも仲が良い。危険物をもちこむのは悪い気がする。
それに、侯爵家の長男はかなり正義感が強い。ドアマットと出会ったら何かやらかす、かもしれない。
伯爵家は人格者の夫婦で子供もまともだ。迷惑はかけたくない。
男爵家は、先年、優柔不断で流されやすく善人ぶる当主が、愛人を後妻にひきこんでからいろいろあるようだ。
それに、我が家とつきあいもない。
「男爵家の屋敷の前に捨てておけ」
「はっ!」
従僕はすみやかにそうした。
その日の昼。
女は消えていた。
男爵家に収容されたようだ。
※ ※ ※
後日。
男爵家はいろいろあって潰れた。
今では、門に『売り物件』と書かれた看板がぶらさがっている。
噂では、ドアマットとクレクレ義妹が家を喰い尽くしたとか。
拾わなくて正解だった。
侯爵家の御当主とは、今でも週一でチェスを指す仲だし、子供同士も相変わらず仲が良い。
伯爵家の御当主とも、犬の散歩で縁が出来て、今では3家家族ぐるみの付き合いだ。
だが、あの家の話が出ると、侯爵家当主も伯爵家当主も、少しホッとしたような顔をする。
もしかしたらあそこに倒れていたのはお二人も……。
いやいや。全員が判断を間違えなかったのだから、終わりよければすべてよしだ。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




