第一章 終末リハーサル
初投稿です。
ゆっくり連載できたらと思ってます。
よろしくお願いします。
世界は百年後に滅ぶ。
そう決まっているらしい。
私が生まれるよりずっと前、科学者たちが膨大なシミュレーションの果てに導き出した「確定未来」。誰も信じたがらなかったその結論は、百年経っても揺るがず、すでに“常識”として学校の教科書にまで載っている。
──だからこそ、私たち子どもは「リハーサル」を強制されている。
正式名称は《人類滅亡生存訓練システム》。でも、みんなただ「終末リハーサル」と呼ぶ。
中学を卒業する前に、全員が一度は体験しなければならない。
今日が、その日。
十五歳の私は、無機質な訓練施設の白い部屋に座らされていた。
「受験番号三二五八番、安堂ユナ」
無表情な係員が名前を呼ぶ。
私はため息をひとつつき、用意されたカプセル状の装置に横たわった。
重たい蓋が閉じる。視界は闇に包まれ、耳の奥で低い機械音が響き始めた。
心臓が少し早く打つ。けれど怖いわけじゃない。
──どうせ、未来は変わらないのだから。
◆
気がつくと、私は知らない街に立っていた。
灰色の空。崩れかけたビル群。人影のない道路。
ここが「終末後の世界」。
訓練は毎回ランダムに設定される。空腹や怪我、敵対者との遭遇。ありえそうな絶望的状況をシミュレートし、それを“乗り越える”のが目的だ。
背後で、乾いた風が吹いた。
振り返ると、看板が倒れている。そこに──
「……え?」
赤いノイズが走った。
看板の錆びた鉄板の表面に、瞬間だけ文字が浮かんだ。
《滅亡を回避せよ》
私は息を呑んだ。
そんな選択肢、この世界には存在しないはずだ。
「……今の、何?」
瞬きをしてもう一度見たときには、そこにはただ、剥がれたペンキと錆しかなかった。
見間違い? それともバグ?
そのとき、胸元で小さな音がした。
制服の内側に提げていた端末ペンダント──割れて黒い画面しか映らないはずのそれが、淡く光を放っていた。
ひび割れた液晶に、一瞬だけ赤い光点が走る。
まるで心臓の鼓動のように、一定のリズムで脈打っていた。
「……これも、シナリオの一部?」
いや、違う。
これは、何かがおかしい。
訓練のはずなのに。
これは、すでに“現実”に侵食している。
私はペンダントを強く握った。
背筋に冷たいものが走る。
──未来は百年後に滅ぶ。
そう、決められているはずなのに。
今、この瞬間から、滅びは始まっている。