表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第一章 終末リハーサル

初投稿です。

ゆっくり連載できたらと思ってます。

よろしくお願いします。

世界は百年後に滅ぶ。

 そう決まっているらしい。


 私が生まれるよりずっと前、科学者たちが膨大なシミュレーションの果てに導き出した「確定未来」。誰も信じたがらなかったその結論は、百年経っても揺るがず、すでに“常識”として学校の教科書にまで載っている。


 ──だからこそ、私たち子どもは「リハーサル」を強制されている。


 正式名称は《人類滅亡生存訓練システム》。でも、みんなただ「終末リハーサル」と呼ぶ。

 中学を卒業する前に、全員が一度は体験しなければならない。


 今日が、その日。

 十五歳の私は、無機質な訓練施設の白い部屋に座らされていた。


 「受験番号三二五八番、安堂ユナ」

 無表情な係員が名前を呼ぶ。

 私はため息をひとつつき、用意されたカプセル状の装置に横たわった。


 重たい蓋が閉じる。視界は闇に包まれ、耳の奥で低い機械音が響き始めた。

 心臓が少し早く打つ。けれど怖いわけじゃない。


 ──どうせ、未来は変わらないのだから。



 気がつくと、私は知らない街に立っていた。

 灰色の空。崩れかけたビル群。人影のない道路。

 ここが「終末後の世界」。


 訓練は毎回ランダムに設定される。空腹や怪我、敵対者との遭遇。ありえそうな絶望的状況をシミュレートし、それを“乗り越える”のが目的だ。


 背後で、乾いた風が吹いた。

 振り返ると、看板が倒れている。そこに──


 「……え?」


 赤いノイズが走った。

 看板の錆びた鉄板の表面に、瞬間だけ文字が浮かんだ。


 《滅亡を回避せよ》


 私は息を呑んだ。

 そんな選択肢、この世界には存在しないはずだ。


 「……今の、何?」


 瞬きをしてもう一度見たときには、そこにはただ、剥がれたペンキと錆しかなかった。

 見間違い? それともバグ?


 そのとき、胸元で小さな音がした。

 制服の内側に提げていた端末ペンダント──割れて黒い画面しか映らないはずのそれが、淡く光を放っていた。


 ひび割れた液晶に、一瞬だけ赤い光点が走る。

 まるで心臓の鼓動のように、一定のリズムで脈打っていた。


 「……これも、シナリオの一部?」


 いや、違う。

 これは、何かがおかしい。


 訓練のはずなのに。

 これは、すでに“現実”に侵食している。


 私はペンダントを強く握った。

 背筋に冷たいものが走る。


 ──未来は百年後に滅ぶ。

 そう、決められているはずなのに。


 今、この瞬間から、滅びは始まっている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ