永遠に出会わない僕と君
朝。
午前6時。
僕はふらふらになりながらバイトを終えて自宅に帰って来た。
「ただいま」
返事が返ってこないことを知りながらも僕は呟いていた。
開いた扉の先に広がる、ワンルームの賃貸アパート。
数歩の距離で終わってしまう廊下を進んだ先にあるのは六畳の部屋。
部屋の半分近くはシングルのベッドに占拠されていて、その隣に申し訳程度に置かれている丸いテーブル。
その上には君が作ったオムライスが置かれていた。
とはいえ、独り暮らしの男が作ったものだから形はかなり不格好だったけれど。
ため息をついて僕はテーブルの前に座る。
皿の隣にはメモが置かれていた。
『おつかれさま。17時には戻るから』
「おっけい」
聞こえるはずもないのに僕は呟くと一人でオムライスを食べ始めた。
夕方
午後17時。
僕はため息をつきながら仕事を終えて自宅に帰って来た。
「ただいま」
返事なんて決して返ってくるはずないと知りながらも僕は呟いていた。
ワンルームの賃貸アパートが開いた扉の先に広がっていた。
六畳の部屋が数歩の距離で終わってしまう廊下の先にあった。
丸いテーブルが申し訳程度に置かれ、残りは全部シングルのベッドに占拠された部屋。
ベッドの上に座ってからテーブルの上を見ると僕が大好きなオムライスが置かれていた。
君が作ったのだろう。
「またオムライスかよ」
苦笑いをして置かれているメモに目を通す。
『おつかれ。オムライスおいしかったよ。だからお返し。今日は7時に帰るよ』
「はいはい」
僕は君に返事をしてオムライスを食べ始めた。
昼。
13時。
会社。
食堂で社食を食べていた時、仲の良い先輩が僕に声をかけてきた。
「お前、兄弟っていたっけ?」
「いや、いませんけど」
「そうだよな?」
そう言って先輩は腑に落ちない顔をしながら言った。
「ほら、有給取っていた加藤がさ。こないだ、お前を見たっていうんだよ」
「あー」
僕はそう相槌を打ちながら少しだけ考える。
果たして先輩に話すべきかどうか。
話してしまえば一気に楽になる。
万が一のリスクが一気になくなる。
それに先輩なら多分協力してくれるだろう。
君だって許してくれるはずだ。
「まぁ、先輩ならいっか。ちょっと後で話できます?」
深夜。
午前3時。
バイト先。
個人的にも僕を良く可愛がってくれる店長が僕を呼んだ。
「ちょっと聞きたいんだけどさ。お前、こないだ仕事中に途中で抜けたりしたか?」
「いや、いっていませんけど」
「だよな……。お前がサボるわけないもんな」
「どうしたんですか?」
「いや、実はその日に俺の友達がお前の姿を見たっていうんだよ」
「あー」
僕はそう反応をしながら少しだけ考える。
果たして店長に真実を打ち明けてしまうべきかどうか。
話してしまえば一気に楽になる。
また一つ命綱が増えることにもなる。
きっと、店長のことだから協力してくれるだろう。
君だって納得してくれるはずだ。
「店長、実はここだけの話なんですけどね……」
僕が君の存在を知ったのは半年ほど前のことだ。
母が君の姿を見かけたと教えてくれた。
僕が君の存在を知ったのは半年ほど前のことだ。
友達が君の姿を見かけたと教えてくれた。
恐ろしい話だと僕は思った。
本当にそんなことがあるのかと君は思った。
だからこそ君は僕を恐れ続けた。
だからこそ僕は必死に君を避け続けた。
そして、僕と君は同じ人間だからこそ同じ答えに辿り着いた。
「先輩。ドッペルゲンガーって知っています?」
僕が問う。
「ドッペルゲンガー? 同じ人間が存在するってやつか?」
先輩が問い返す。
「それってあれかい? 同じ人間に出会えば自分が死ぬってやつか?」
店長の答えに僕は頷く。
「そうそう。それですよ」
「僕はドッペルゲンガーと一緒に暮らしているんですよ」
僕はそう伝えた。
「いや、一緒に暮らしているっていうのもおかしいか」
僕はそう言って訂正した。
「何せ、僕達は絶対に出会わないようにしていますからね」
「出会った瞬間死ぬらしいですからね。だから、僕らは絶対に出会わないようにして生きているんです」
信じられないという顔で見返す相手を見ながら僕は笑った。
「そういうわけなんで申し訳ないんですけど協力してくれますか? この秘密を教えた人には『僕ら』が出会わないようにちょくちょく手伝ってもらうんです。緊急時なんか意図せずに出会ってしまうことがありますからね」
朝。
午前6時。
僕はふらふらになりながらバイトを終えて自宅に帰って来た。
「ただいま」
返事が返ってこないことを知りながらも僕は呟いていた。
テーブルを見ると君からのメモがあった。
仕事から帰って来る時間と共に書かれていた一文。
『店長に話したよ』
「へー。あの人か」
そう呟いて僕は君が作った朝ご飯を食べ始めた。
夕方
午後17時。
僕はため息をつきながら仕事を終えて自宅に帰って来た。
「ただいま」
返事なんて決して返ってくるはずないと知りながらも僕は呟いていた。
テーブルを見ると君からのメモがあった。
バイトから戻って来る時間と一緒に書かれていた一文。
『先輩に話したよ』
「なるほど。確かに協力してくれそうだったもんな」
そう呟いて僕は君が作った朝ご飯を食べ始めた。
一緒に暮らしているのに顔を合わせないというのも奇妙なものだ。
決して一緒に会うことは出来ないし出会った瞬間死んでしまう。
だからこそ、僕は君に出会うことは絶対にない。
それでも、僕と君は確かに共に生きている。
「おやすみ」
そう言って僕は聞こえるはずのない挨拶をして眠りについた。