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ep4.用水路にて

パルモに続いて階段を一段ずつ降りていくとヒヤリとした空気が頬を撫でる。


一段降りるごとにまるで別の世界へと足を踏み入れていくような気がしてくる。


洞窟とは違う、無機質な人工物の壁は先の先まで永遠に続いているように思えた。


「用水路や暗い場所に住む魔物は光に弱いの。だからランタンさえ肌身離さず持っていれば基本は寄ってこないから。覚えておいて」


当然のことながら、冒険者を育てるプロデューサーを豪語するだけあって、パルモは冒険に役立つ知識を豊富に持っているようだった。


用水路の魔物に恐れ一つ見せず進んでいく彼女の後ろをついて行きつつ、用水路の様々な場所に目をやっていると、天井上や水の中でコチラを見ている魔物達がいるのが見えた。


「あの赤いコウモリの群れとか、水の中の一メートルはありそうなカエルなんかも全部魔物なのか…?」


「全部じゃないけど八割以上は魔物かな。彼らは比較的この用水路の中でも弱い部類で光にとても弱いんだ。問題なのは…っとと、噂をすれば…」


目の前に透明度の高いゲル状のネバネバとした赤と緑ケミカル物体が二体、俺達の前に現れた。


ランタンの灯りに照らされても動じずに動くソレは、ナメクジのように動きが遅く、踏みつぶせば潰れて死にそうな見た目をしている。


「用水路で戦うとしたら私たちの目の前にいる魔物、このスライムだけだよ。聞いたことぐらいあるんじゃない?」


「いや、無い。そんなに有名なのか」


ゆっくりと近づいてくるスライムの横を避けて通ろうとすると、彼女に静止をかけられる。


「スライムはこういう湿度の高い場所を好んでコロニーを作るの。それでこの用水路に棲む魔物とかを食べて生活しているんだよ」


「無害に見えるけど違うのか」


ギルドで手に入れた五尺の棒でつついて動きを観察するが、跳ねたり、素早く移動したりするということもなさそうである。


「うん。間違えて踏んだら足が溶けるよ」


「恐ろしいなおい!」


飛び上がって後ろに下がった。


こんなに暗いのに足元にこんなのがいたらイヤでも踏んでしまう気がした。


「さあ、じゃあまずこのスライムを倒してみて」


「どうやって…?」


想像は出来るが聞いてみる。


「その棒で叩くの。私がオッケ―出すまで続けてみて」


彼女の予想できた言葉にウっとなるが、こんなところで時間を使っている暇はない。覚悟を決める時だろう。


俺は棒を振り上げて、何度かスライムに棒を振り下ろした。


ナメクジを潰しているような感じがして気持ちが悪い。


顔を(しか)めながら黙々と叩くと、用水路にベチャ、ベチャ、という音が小さく響く。


「そうそう、飛び散って衣服なんかに飛び散ると溶けたり目に当たったりしたら失明するから覚えておいてね」


後ろから聞こえる彼女の言葉にスライムを叩いていた棒の動きを止める。


そして振り返った。


「もっと早く言って貰えると助かる」


そう言って再度スライムが飛び散らないように小刻みに叩いてスライムを散らして回った。


「大丈夫。今見たいにちょっとずつ叩いて散らせるようにする方法で間違ってないから。むしろ思いっきり力を込めて一瞬で倒してしまおうなんて考えの冒険者ほどスライムに足元を掬われるの。今のやり方であっているから地道に頑張って」


それからある程度棒で叩いてスライムを散らせると、パルモは俺に一度攻撃を止めるように言った。


「うんうん。そんなものでいいかな。さてと…形が戻る前に渡って先に行こうか」


「完全に殺すことはできないのか?」


「今のクルさんには難しいんじゃないかな。スライムは一つの生物に見えるけど、ああ見えて実は凄く小さな透明の虫が身を寄せ合って動いているだけだからね。コアのようなモノもないから全て消し炭にするか、別のスライムとくっつけて自分の群れを見失わせるぐらいしか完全に倒す方法はないの」


「そうなのか…」


それからも用水路を進んで行くと、スライム達は角で待ち伏せをしていたり上から降ってきたりと多種多様な方法で俺を困らせた。


「コイツら性格悪すぎるだろ…俺ばっかりでパルモはなんか狙われないし」


「スライムは自分が弱いと判断した相手にしか近づかないって本当だったんだ…」


パルモがそう小さく言った言葉は用水路に響いてよく聞こえた。


「ほ~ん…別に良いけどな」


少しばかりスライムを叩く棒に気合が入った。


こうして用水路を出る頃には数十匹のスライムを倒し、スライムの知識について少し詳しくなったような気がした。


「クルさんは、【スライムプチキラー】の称号を手に入れた」


外に出たパルモは拍手をしながら言った。


「いきなりどうした」


「場面が印象深いと経験がより体に染みつくと思って賛辞を送ってみたんだけど、どうかな!」


祝われて嫌な気持ちはしなかった。


「確かに印象には残る…かも?」


「じゃあこれからもそうするね!」


俺たちは用水路を抜け、東の街に向かって歩き出した。


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