ep2.貫け、セイクリッドブレード
仕事場につくと、身なりのいい役人と衛兵七人と班長が犯罪奴隷達を連れてきたところだった。
「さて…下町からはクル・メディオ、お前だな。今日もご苦労、とっとと行け」
役人の男は朝からイライラしている様子で、俺の方を向いて名前の確認をした。
「あぁ」
歩いて役人の横を通り過ぎると、それが彼にとって喜ばしくなかったのか彼の怒りを買った。
「走って持ち場に着け!」
声が裏返りながら役人の男は洞窟を指して俺に怒声を浴びせた。
前はとても嫌だったはずなのに、俺という人間は鈍感なのかソイツの罵声にも慣れてしまっている自分がいた。
無言で頭を下げ、小走りで役人の横を通り過ぎ持ち場について仕事を始めた。
暗い洞窟の中で、ランタンを頼りに帝都中から集められたマナダストを掘った穴に埋めて捨てる、今日もその繰り返しだった。
そうしてしばらく働き始め、昼頃になって昼食を取りに洞窟の外へと歩いていくと、外が何やら騒がしいことに気が付いた。
犯罪奴隷達が配給の食事に文句を言っているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
少女の声が聞こえてくる。
「…ね!…今すぐ…い!」
パルモだ。
…あの子、またこんなところに来て一体役人と何を話しているんだ?
「なんなのだ、チミは!なんの権利があってこの場所に立ち入っているんだ!」
近づいていくにつれて役人の顔に焦りが見えるのが伝わってくる。あれほど焦っている役人は見たことがない。
「だからアナタ!ここの人使って人体実験していましたよね!丁寧に奴隷と下町の人間を使って対照実験まで…。これは重罪ですよ!法律違反です!今すぐ辞めさせて下さい!」
パルモはそう言って何かに怒っているようだった。
洞窟から出てきた俺と彼女は目が合ったその後に役人は焦る声のままに、
「衛兵ども、その少女を捕らえろ」
と言って衛兵を彼女に仕向けていた。
「えっ…!?」
役人の言葉に思わずたじろぐ衛兵達。
「何をしている、聞こえないのか!」
(国を守るはずの兵士が何やってんだよ…!)
「ちょ、嘘!横暴だ!国家の膿み!悪魔!人でなし!」
騒ぐパルモを中心に剣を抜き取り囲む四人の衛兵達。
衛兵達も何か迷いがあるのか、どこか動きが鈍い。
そして俺は何を思ったのか、考えるよりも先に後ろから素手で鎧を着た衛兵の一人を殴り飛ばしていた。
(あ…やっべ…)
軽く殴ったつもりだったが、当たり所が悪かったのか殴られた衛兵は足を軸にクルリと回って倒れ、ピクリとも動かなくなった。
「あーえーと…取りあえず、なんだ。殴って悪い」
そういったがもはや手遅れで、残った三人の衛兵達の剣の先は彼女よりも先に俺に向いた。
(またやっちまった…)
武器を持った訓練を受けた衛兵三人を相手にするには圧倒的にコチラが不利だった。勝ち目など全くないだろう。
武器を持っていないことを知らせるため両手を上げる。
「ハハッ、ステイステイ…」
このまま私刑に合うかと思った矢先、衛兵達の後ろにいたパルモが何かを呟いている姿が目に映った。
「蒼穹の天幕を貫く神聖なる光芒よ、我が手に与えられし剣より放たれん。聖なる力により、敵を粉砕せしめん。我が魂に宿る聖なる力よ、顕現せよ。"セイクリッドブレード"!」
パルモの詠唱が終わったと同時に彼女の体は発光し、その光が手に集まったかと思ったその瞬間、彼女の手に形成された光剣が目にもとまらぬ速度で衛兵達を貫いた。
貫かれた衛兵達は声もあげられぬまま、地面に倒れ伏し痙攣している。どうやら死んではいないようだった。
「非殺傷魔法だから安心してね。それに…どうやら彼方達からは殺意のようなものは感じられなかったし。そう!ココで悪いのはアナタだけ!」
パルモは役人を指して言った。
「チミィ…公務執行妨害で捕まりたいようだなぁ?」
そう言って役人は見たこともないような赤々とした顔でパルモを睨みつけている。
「貴方こそ、こんな環境で国民を人体実験にした落とし前、つける覚悟があるんでしょうね」
パルモはそう言って、資料を前に出して罪を認めるよう促した。
「冒険者ギルドの犬と私の発言、一体どちらを国民は信じるかな?」
役人はそう言ってピーと指笛を鳴らすと、透明のナニカがこの作業所に入り込み役人の背後に控えた。
その透明なナニカは輪郭部分で背景のズレを起こしており、人間よりも大きな体躯の化け物であることは間違いない。頬にヒヤリとした汗が伝う。
何か得体の知れないモノの小さく喉を鳴らす音だけが微かに聞こえてくる。
下手に動けば殺されるかも知れない。
そんな予感が脳裏によぎる。
「違法な魔獣の使役まで…どうやら貴方一人の計画ではないようね」
パルモはそんな中冷静に透明な怪物を魔獣と呼んだ。
「フン…まあいい。実験のデータは取れた。サンプルの採取もしたいところだが…少々分が悪い賭けのようだな」
役人はニヤリと笑うと、透明な魔獣にまたがり瞬く間に作業所から姿を消した。
魔獣が去った後、しばらくはドクドクと脈打つ心臓を宥めるのに呼吸を整えた。
今は襲われなかったことに安堵するべきなのか、それともこれから降りかかるのであろう厄災に震えるべきなのか、分からなかった。
様々な感情の渦が俺の心を乱していたが、自分よりも年下の少女が頑張っているのに情けない姿は見せられないという意地が、ギリギリのところで自分を俯瞰してみる余裕を生み出していた。