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ep10.受注面談

「決まりだね」


「いや…でもやっぱり…」


俺の言葉にパルモが座っていた椅子から転げ落ちた。


そして起き上がったパルモはサングラスを正して、俺を叱咤激励した。


「いい?世の中にはきっとクルさんの想像なんて出来ないぐらいいっぱい色んな事があるの。だから意味のない想像をするなんて時間の無駄だよ。自分で自分の可能性を潰しちゃうようならそんな考え、一刻も早く洞窟に置いてきなさい!」


パルモの言葉に雷撃が頭に落ちたような衝撃を受ける。


「そ…その通りだ!」


グゥの音も出なかった。やる前から失敗することばかり考えてどうする。


「よし、じゃあ俺はこの依頼を受ける!死ぬかも知れないなんて考えは死んでからすることにする!」


もう俺は振り返らない、賽は投げられたのだ。


「ヨシ。クルさんチョロくって助かる!」


「あぁ!……ん?」


「じゃあ次の依頼だね」


そう言って彼女は次の依頼を俺に渡した。


「それは運送系の依頼。次に行く町までの運送だから丁度いいと思って」


「運送か。運ぶのは得意だぞ。使うのは手押し車か?それとも牛か?馬車とかでも…」


「リュック一つだから徒歩だね」


「小さい荷物だな…中には何が入っているかとか、書いてあるのか?」


「うん、どうやらここら辺で出土した遺物を次に向かう町に運んで欲しいみたい。依頼難易度はEランク、最低ランクの依頼だからあんまり契約金も高くないし、これはどっちでもいいかな」


契約金が書いてある所に目を凝らして見てみると三ベルだった。


魔物の山を越えてモノを運ぶ危険を冒すのに、三日分の食事代に消える額だった。


しかし今はどんな依頼でも実務経験を積む時期かと思い、結局その依頼も受けることにした。


「こういうのが後々になって生きてくるんだよな…」


そうあって欲しい、という己の希望が口から洩れる。


「クルさんが言うと言葉の重みが羽みたいに軽いや」


「自虐ネタじゃねぇーよ?」


そんなやり取りをしつつ、結局パルモに提案された三つの依頼を全て受注した。


今回はグロリアスマンティスの鎌を納品する依頼だけ面談の要請があった。


そして数分ギルドの中で待っていると依頼人の鍛冶屋が息を切らしてギルドにやってきたためすぐに面談開始となった。


ギルド嬢にギルドの設備の一つである客室に通されると、そこで依頼内容についての詳しい話し合いが行われるようだった。


「今日は、どうも、よろしくお願いします」


「よろしくお願いいたします」


まず依頼人とパルモが簡単に挨拶をして、俺もそれに続いて会釈をした。


こういう依頼を受けたことがないため、どういう展開になるのか全く予想が出来なかった。


しかも身の丈に合っていないCランクの依頼だ。


相手もそれなりの冒険者があてがわれると思っているだろうに、いきなり初心者の冒険者が依頼を受けると知ったらどんな顔をするのだろう。


そんなことを考えると胃がキリキリした。


「まず初めに流れについてなんですけれども、今回の依頼内容の概要をコチラからご説明させていただきます。そしてその後に冒険者様のご経歴についてご確認させていただきたいという感じです」


鍛冶屋のお兄さんは慣れた手つきで、先ほどまで見ていた依頼書の複製を俺達二人に渡した。依頼するのも慣れっこなのだろう。


緊張でトイレに行きたくなる。


「まずコチラが今回対象となるグロリアスマンティスです」


そう言って男は依頼書とは別の書類を、対面して座っている俺達二人の間に滑らせるようにして置いた。


人との大きさ比較もされており、ソレによると熊のような大きさの花カマキリが今回討伐予定のグロリアスマンティスという魔物のようだった。


帝都の外はこんなのがいる魔境なのだという事を今日初めて知ったと共に、パルモの言った通り魔物達は俺の想像をいともたやすく超えてきたのだった。


「弱点は胸のコアとこの細長い足です。どうにかして鎌の当たる範囲よりも外から足を使いものにならないようにすれば討伐は簡単かと」


そうやって説明する鍛冶屋の顔は、具体的にどうやって足を潰すかはアンタらの自由だ、と書いてあった。


「そして詳細についてなのですが、今回はあくまでも素材の納品ですので損傷具合によって減額、あるいは追加報酬も考えております」


「具体的には…?」


鍛冶屋の説明に思わず質問する。もしかすると以前にもこの手の依頼を受けたことがある冒険者なら分かるのかも知れないが、俺は何を隠そう初心者だ。そこのところも説明して貰わなければ困る。


「そうですね、無いとは思いますが火属性の魔法を使用して素材を炭化させる、ですとか、あとよくあるのが素材にするはずの場所に攻撃を加えすぎて、素材として取り扱えない状態になっている、なんて場合なんかですと、申し訳ありませんが減額対象になります」


火属性の魔法と言われても、そもそも俺がパルモ以外の魔法を見たことがないからピンとこなかったが、多分手から火が出たりするんだろう。


俺がせめて気を付けるべきは、攻撃で素材を傷つけないように、の部分だろうか。

そう思っているとパルモが得意げに話し始めた。


「それでしたら問題ないかと思われます。コチラのクル・メディオは棒術使いとして一定の経験を積んだ冒険者です。使用するのが棒ですから素材に傷一つつけず相手を討伐することが可能ですよ」


このガキ…な、何を言っているんだ?


一定の経験ってなんだ。それに素材に傷がつくか確認する以前に、生還することが第一目標なんだが?


「そうなんですか?」


鍛冶屋の言葉に頷き、


「あぁ。問題ない」


と俺はなぜか笑った。


(何を言っている!?何を言っている?!)


心の中で猛烈に自分の口走った事を反省する。


(出来ないことは出来ませんってちゃんと言え!俺!)


後悔先に立たずとはよく言ったもので、結局その後の経歴について聞かれても、流されるようにパルモが誇張した経

歴を左耳から右耳に聞き流しながら俺は頷くだけだった。


そして数分後、にこやかな顔で鍛冶屋は俺達に依頼を任せて客室を後にした。


「ふぅ~何とか乗り切ったね」


「もう嘘つきたくない…」


客室のソファの上で三角座りをしながら大きく落ちこんだ。


C級ぐらいの冒険者だと思ってあの鍛冶屋も依頼を出したのだろうと思うと胸が苦しくなる。


まさかパルモがこんな経歴の誇張をするなんて思わなかった。


「まったくナイーブなんだから…。役人への暴行に比べたら経歴詐称ぐらい軽いものだよ。ほら、クルさん。この町ともお別れするよ」


手を引っ張って少女の姿をした悪魔は俺をソファから立ち上がらせた。


「俺はEランクから地道に頑張りたい…」


「そんなこと言って今まで努力してこなかったんでしょ。さあ、立って」


言葉のナイフでパルモが俺を刺してきた。


「なんで俺なんだ。君はもっと別の優秀な人間の相手をして大空へと羽ばたく人材だろ?」


「ふふっ。いいから立って。魔法屋に行くよ」


彼女はそう言って笑顔で俺を魔法屋という場所へと駆り立てた。


そしてパルモとしばらく歩いた後、狭い路地裏にポツンと店を構えた魔法屋と思われる場所に到着した。


「ふぅ…、流石にこの時間になると追手の兵士の数も多くなってきたね」


「俺はあまりよく見えないが…そうなのか?」


匂いで人間の種類を判別するというのは難しく、分かっても男か女か程度だった。


「あぁ、そっか。うん。二~三人ぐらい聞き取り調査で道に立ってたね」


「そうか、なら急ぐか?」


「うん。ココに立ち寄ったら、もうオリエンドルフとはさよならかな」


「分かった」


そう言って店内の外開き扉を開けると、店に充満していた薬草の匂いが鼻にあふれんばかりに流れ込んできた。


店内は狭く、多分魔術的な道具が天井や壁に商品として飾られていた。


そして店の奥には水晶玉に手を置いた怪しげなローブを被ったおばあさんが椅子に座っている。


「おや…パルモじゃないか。珍しいこともあるもんだ」


「えへへ。お久しぶりです。おばさん」


どうやらパルモの知人らしいおばさんは、怪しげに水晶玉に手を当てると、泥団子を作るみたいに撫で、そして店の一カ所を指さした。


「あれがお前さんの求めるものだろう」


その場所を見ると、ガラスの戸棚に青い小瓶が置かれていた。


「そうそうこの小瓶。これと包帯をください」


「あいよ…」


魔法屋のおばさんは後ろから箱を取り出して、そこにしまってあった包帯を取り出してパルモに手渡した。


「その小瓶は?」


「ポーションって言うの。魔物から攻撃を受けて傷を負った時なんかにその場所にかけると傷口にカサブタを作ってくれるの」


「凄い薬だな。…でもどうしてそんな薬が帝都で全く聞かなかったんだ?」


「帝都と言えばセラルミナ信仰の本部がある場所だからね。他宗教のモノはどんなに便利でも受け入れ難いのかも知れないね」


…道理で聞かないワケだった。たとえ一目を盗んで帝都に持ち込んだとしてもすぐに処刑されてしまったのだろう。

前に別の宗教を広めようとした女が公開処刑で火炙りにされたのを思い出した。


「誓言十二条が聞いてあきれるよな…」


「第一条が『全ての生命は尊重されるべきであり、平等に扱う事を誓う』だからね。高度なボケなんだよ、きっと」


パルモはそう言って代金をおばさんに支払うと、魔法屋を後にした。


それから大通りは危険だと思ったのか、パルモは路地裏を縫うように歩いてオリエンドルフを出た。


「後はひたすら山を目指して歩くだけだね!」


そういう彼女の背にはキラキラとした太陽が昇っていた。


「パルモ先生は今日も明るいな」


昨日今日とで彼女の明るさが体に沁みる。


「先生?悪くないね…」


満更でもないようで、パルモはサングラスの鼻あてをクイッと上げて、軽快に山の麓までの道を鼻歌混じりに歩いている。


警戒は大丈夫なのかと思っていると、遠くから群れで行動している魔物の匂いがしてくるのを鼻が感知した。


向かっている進行方向の右奥、山の麓にある森からだった。


パルモに伝えようかと彼女の方を見ると、彼女の目は既に魔物の匂いのした方向を見つめていた。


彼女の明るい雰囲気はもしかすると演技で、実は町を出てから常に警戒しているのでは?などと思うのだった。


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