識者の見解
吾輩は法律家である。
名前などない。
正確には、名乗る程の名前などないといったところだ。
しかし、それで良いのだ。
私の仕事に個性的であることは好まれないし、寧ろ厄介な足枷となる。
誰がやっても同じ結果になるというのが理想だ。
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もう5年以上前のことである。
5年後にはホワイトカラーの仕事の半分はAIに取って代わられるという識者の見解が世の大勢であった。
そうかい。
だったら俺の仕事を奪ってくれよ。俺達の仕事を楽にしてくれよと、そう思っていた。
しかしどうだ。
仕事は増える一方で減る気配などない。
とある識者は、ロシアとウクライナの紛争がぼっ発した時、この紛争は2か月で終わると言った。
このままこの紛争が続けば、ロシアの経済は2か月で破綻するからというのがその理由であった。
私も紛争は望まないのでそうであってほしい、というかそうなるのだろうと思っていた。
しかしどうだ。
そうなったかい?
いつの世だって、識者が言うことがすべて正しいとは限らないのさ。
まぁ、かくいう私も識者という訳ではないし、かと言って預言者でもないので、何とも言えないがね。
「良い法律家は悪しき隣人である」
法律を学び始めた頃によく目耳にした言葉である。
憎まれっ子世に憚るの例えのとおり、世に憚って生きて行くのさ。
とは言え、この言葉も虚しく響くだけだがね。