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お雛様と?

作者: 入江 涼子

 あたしはあるお家のダンボール箱の中に仕舞われていた。


 着物を何枚も重ねて着ているから、重苦しいし。あたしの足やお腹の上までにおっさんが乗っかっているからな。はっきり言って、邪魔や!はよ、のけ!

 ……ゲホゲホ、失礼。ホホホ。まあ、人間が使うキョーツーゴっての?

 それで言ったら、はっきり言って、邪魔なのよ!早く、どきやがれ!

 てな感じだわ。あー、誰か開けてくんないかな。あたしは深いため息をついた。


 あれから、また長い時間が流れた。あたしがいるお家の人々が久しぶりに、ダンボール箱を開けに来てくれる。やった、やっと娑婆(しゃば)の空気を吸えるわ!


「母さん、やっとお雛様を飾れるね!」


「……そうねえ、日向子。早く、済ませないと。夕方になっちゃうわ!」


「はーい」


 このお家の娘さんの日向子さんは今年で二十歳らしいわね。あたし達を早めに飾り、仕舞わないと。彼女が嫁ぎ遅れになってしまう。心配はしてあげるわね。

 お母さんと日向子さんの二人で、段をセッティングしていく。それができたら、屏風や雪洞(ぼんぼり)、あたし達を下の段から、置いて並べていった。


『……ふふっ、久しぶりに顔が見れたよ。お雛様』


『……声かけないでくださる?おっさん』


『つれないなあ』


 おっさんはチラリとわざとらしく、流し目をくれる。うわー、背筋がゾワリとしたわ。昔から、このおっさんだけは苦手なのよ!!

 あたしは扇をへし折らないようにしながら、唇を噛み締めた。


 あたしはセッティングができたお母さんや日向子さんを優しく見守る。

 今年も、日向子さんが健やかに過ごせますように。後、良い殿方が現れますように。お母さんもね。そう思いながら、おっさんは無視したのだった。


「あれ、母さん。お雛様が笑ったような気がするんだけど」


「んなわけないでしょ、あんたの気の所為よ」


「そうかなあ、確かに。お雛様の綺麗な声も聞こえたような……」


 危ない、危ない。日向子さんの事を願ったら。勘付かれたみたいね。けど、これがあたしの本心よ。おっさんじゃなく、三人官女さんの中に置いてほしかったけど。あたし、元々は男の人って苦手なのよ。

 まあ、以前はあたしもある公家の出身でね。今の日向子さんくらいの年の頃に父方の遠縁に当たる殿方に、嫁いだ。けど、この殿方はあたしより、六歳くらいは上だったの。あたしは彼との間に一人娘をもうけたわ。

 ……日向子さんはその娘によく似ている。だからか、他人とは思えない。あたしはまたも、日向子さんを優しく見守った。


 けど、殿方もとい夫はあたしが二十八歳の春に身罷られた。それ以降、あたしは一人娘を伴い、実家へと帰る。その際、あたしにしつこく言い寄ってくる殿方が三人くらいはいたわね。あたしは静かに暮らしたいだけだったのに。それ以降、殿方が苦手になってしまった。

 あら、嫌だ。あたしの愚痴に付き合わせて悪いわね。これくらいにしておくわ。では、またいつの日かお会いしましょう。ごきげんよう。


 ――終わり――

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