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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
2年生
94/103

16.特級戦⑴

 朝食は大広間で皆で食べる。




「いただきます」

「月火僕のあげる」

「えやった」

「かこぉ……! げっかがぁ!」

「ちょっと邪魔退いてよ」

「起きろロリコン」

「今朝三時まで水月がうるさかったんだよ……!? お前の部屋行かなかっただけ感謝してほしい……」

「嫌だよ」



 玄智は二本目のエナドリ片手に月火に朝食を譲り、水月は食事中の火光に泣き付いて、火音は月火の膝に寝転がろうとする緋紗寧の首根っこを掴む。



 炎夏は推しが死んだものの、生き返ると火音から盛大なネタバレを食らって発狂はしたが元気になったのでセーフ。



「玄智五千」

「は? 時間オーバーでしょ」

「ルールなんてねぇよ」

「寝た時点でアウトだと思いますけど!」

「水月今日寝たー?」

「寝てないよ寝れるわけないでしょ馬鹿なのッ!?」

「僕の生徒に当たるなドアホッ!」

「はい五千」



 炎夏と玄智が喧嘩を始め、水月と火光も喧嘩を始め、火音と緋紗寧も喧嘩を始め、とても賑やかな中で一番に二人前を食べ終わった月火は箸を置いた。



「ごちそうさまでした。琶音、十時に移動と伝えといてください」

「えっ!?」

「せんせー!? 十時に移動だってー!」

「はーい!」



 結月の一番の大声で三組の喧嘩が収まり、立ち上がった月火は玄智の横腹を殴って炎夏の足を踏んづけて、二人を連れて出て行った。



「……いつになっても神々は偉大でした。ごちそうさま」

「えッ兄さんどこ行くんですか……!」

「炎夏の様子見。緋紗寧君頼んだよ」



 そう言うと、水明は喧嘩を止める前に火音を引きずって出て行った。














 十時になり、バスで十五分ほど移動し、山頂部に来た。




 補佐と医療班がテントとシートを用意し始め、月火と火音は刀を腰に差す。



 左利きだが、抜刀等は右手なので左側に。



「麦は?」

「十二時前に来てくれるそうです。出すのに多少時間がかかる可能性があるそうで」

「守られてんだろ。俺の妖心一体捨てで出す」

「へ〜それ便利。お願いします」




 そもそも火音、月火に並ぶ妖力がある。それは妖心が二体余裕で出せる量ということで、今は雷神一体に詰め込んでいるため狐より上質な妖心が一体だが、出そうと思えば二体目も出せる。いらないから出してないだけ。


 妖心術を使える妖心一体は神通力約二回分。

 ただし妖心が既にいる場合、妖心術が既にある場合。必要なのは妖心としてぶつける妖力のみ。



 つまり必要なのは妖心の体を保つ妖力だけで、それは妖心術一回分にも満たない。体が小さければなおのこと。






 玄智がやってきて、月火の後ろからもたれかかった。



「ねー甘いもの食べたい……」

「いや……」

「火光なんか持ってるだろ。それか晦」

「せんせー!? 糖分ちょーだい!」

「つごもりー」

「はーい?」
















 月火がおにぎりを食べる間に、火音は体を伸ばす。



 朝から何も食べていないが、吐いても気持ち悪くなっても困るし。



「雲行き怪しいですねぇ」

「足場悪くなりそうなら雷神使うし大丈夫だとは思うけど。火光もいるし」

「……あ、でも降らなさそう。雨雲はないです」

「風も大丈夫そうか」

「セーフですね」




 暇な火音が月火のスマホを色々チェックしていると、赤城がやってきた。



「月火様火音さん! 新型のインカムです!」

「新型?」

「両耳型骨伝導です。鼓膜破れても内耳がある限り聞こえますよ!」

「へぇ」



 月火はそれを貰うと、頭の後ろに沿う形の骨伝導インカムを付けた。




「へぇ、付けてないみたいですね。すごい」

「すごく軽量にしてもらったんです!」

「俺鼓膜破る気ないしいつもので。道具変えてミスっても嫌だし」

「じゃ今度練習しといてください!」



 そう言って、赤城はいつものインカムを取り出した。






 それから十分ほどすると、琶音のスマホに兄から着いたよと連絡が来た。





 月火は刀を抜き、刃のない刀に刃を作る。


「玄智、かけて」

「俺いつもよりちょっと少なめで。試したいことがある」

「り〜」

「合わせる」




──妖心術 遊勇鈴歌(ユウユウリンカ)──

──妖心術 雨ノ突童(アメノツドウ)──



──妖心術 狐痕暈(コンコンカサ)──

──妖刀術 流虎風楼(リュウコフウロウ)──


──妖心 雷神──

──妖刀術 抜刀──


──妖心術 七人御先(シチニンミサキ)(ロク)──







 特級怪異は出現とともに、月火と火音、炎夏によって四つの頭のうち三つが消えた。




 消えたはずなのに。




 宙に立って振り返れば、怪異の手が目の前まで迫っていた。




 片手を上げ、妖力を叩き込んで作った壁でその手を弾く。



「切ったと思ったんですが」

『瞬間治りましたよ』

『炎夏なんか強くない?』

『妖心の特性上乗せしてみた』



 炎夏の妖心は七人ミサキ。一体で七人いるので、二体分の妖力があれば十四人に増える。炎夏が一番初めに覚えた九九は七の段だ。




「みたでできるのさすが僕の生徒。月火怪我は?」

『ありませんよ』

「じゃちょっと下がって、とりま頭全部飛ばしてみる」

『はい』




 火光はその場にしゃがむと、地を蹴って飛び上がった。





 二秒経たないうちに頭が四つ消え、世界一強い男の実力をほぼ初めて見た皆は目を丸くした。






『うーん死なないねぇ』

『核がありますね』

「麦は?」

『はい!?』

「お前じゃねぇ」

『ははっ』



 インカム単体では個別通信を瞬時に切り替えることができないので、常に全体通信だがこうなるからややこしい。



『たぶん怪異の中にいると思いますけど』

『まさか麦殺せってわけじゃないでしょ?』

「そうなりゃ俺が殺す。それよりも特級にもなる怪異が人間にしがみついてんのがおかしい。その理由考えたら麦のそばに核があるのが妥当だろ」

『怪異にとって本能的に守るもの()理性的に守るもの(人間)は等しく絶対触らせたくないものってこと』

『ならタイムリミットが出ますねぇ』

「マジ? 面倒くさっ……」

『教えて火光せんせー』

『麦の体が全身を包む妖力に耐え兼ねて変異するのが先か窒息が先か、妖心がブチギレるのが先か。なんにせよ麦の環境がわかんないからなるはやの方がいいね』





 雷神の雨雲の上に座った火音はあくびをすると、スマホを出した。



 実体化しきらない怪異はカメラに映らない。妖力を持たない人間すら触れる妖心の多くは実体化済み。


 妖心と人間の接触は妖力同士の接触だ。





「下三の左胴体部」

『わぉあったまい〜!』

「知ってる。実体化してなかったのがラッキー」

『なになになにやったの火音』

『写メったんですよ』

『天才だ』

「うん」




──妖刀術 抜刀──


──妖刀術 紅陽秘刀太(コウヨウヒトウタ)──

──妖刀術 紫陽花百貫(アジサイヒャッカン)──




 位置を伝え、月火が露出させた麦と怪異の結合部を切断した。

 火音が結合部を叩き切って、そのまま怪異の断面を切り刻んで。




廻醒(かいせい)拾いに来い!」

「特に体調的に問題はなさそうだけど」

「よかった」




 廻醒が拾いに来る前に、怪異がブチギレた。




 火音は麦と月火を抱えてその場を飛び退き、それとほぼ同時に怪異の攻撃は火光の結界を破った。


 一段、周辺の地面が消える。




「助かりました」

「気抜くな。下ろすぞ」

「白葉、麦を晦先生のところまで」

「火光といっつも一緒にいる人?」

「そう」

『ねぇなんで僕なのッ!?』

『事実でしょ〜!』

『黙れ性別!』

『死ね』



 玄智のどストレートな悪口に火光はしょぼくれ、火音は白葉に麦を託した。




「氷麗、怪異凍らせろ」

『え……!? こんな、おっきいの……妖力足りませんし……!』

「やれ」

『ちょっと水月聞いてんなら動いてよ鈍臭グズ』

『僕明日動けないかもしれない』

『いいよほって帰るから』

『兄ちゃん泣く!』

『泣け喚け顔面蹴り飛ばしたら母さんでも心配してくれんじゃない』



 火光の威圧に水月が黙って、水月はおとなしく氷麗の元に向かった。





 数秒後、怪異が咆哮して、数人の悲鳴が聞こえる。



「わぉ」

「これ内耳潰れるだろ」

『二年全員耳に強化かけて。玄智、麦兄弟にできてるね』

『もちー』

『え!? 何なんですか何!?』

『気にしなくていいよ。体がちょっと強くなっただけ』

『あぇありがとうございます!』

『うんいい子』

『強運ですから!』

「アホ」

『にぇ!?』

「水月まだか」




──妖心術 複写(コピー)氷骸(ヒョウガイ)──



『なんて?』




──妖刀術 抜刀(ばっとう)──

──妖刀術 紫陽花百貫(アジサイヒャッカン)──



『遅ぇっつっつんの。ちゃんと聞いとけ』

『ねー消えんよ』




 氷漬けになった怪異を火光と火音が粉々に砕き切り刻んだが、怪異の本体は消えたものの気配が消えることはない。




「……存在丸ごと消せってことですかね」

『それは僕じゃ無理だね。僕はあくまで体術特化なので』

『僕も無理だよ。相当な妖心術持ってる子がいるなら話は変わるかもしれないけど』

「うちの兄さん無理ばっかり。どうします?」

『……麦叩き起すか』

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