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妖神学園 改正版  作者: 戯伽
2年生
92/103

14.ブチギレ

 木曜の夜、火音は膝で眠った月火の写真を撮ってから妖楼紫刀(ようろうのしとう)を手に取った。



 貸し切りの有馬の旅館、温泉があって、ほぼ月火の私欲で借りたところ。

 一番いい部屋は月火と火音の部屋で、部屋に露天温泉がついている。

 二年男子は旧水神兄弟、結月は一年女子に混ざり、火光は水月と緋紗寧と三人部屋。







 最近とんと動いていないので刀も久しく抜いていないが、全て月火が定期的に手入れをしているので錆や刃こぼれはない。




 ただ不思議なのは、研げば研ぐほど短く薄くなるはずの刃はまるで変わらず、なんなら伸びている気もしなくもないという。妖刀だし、有り得はしそうだけど。






 刀を鞘に納めている途中に襖が開いて、緋紗寧と水月が現れた。



「ね〜犯罪者」

「何の用だ」

「ロリちゃん寝てんの?」

「見りゃ分かるだろ」



 緋紗寧がイラ付いたときには水月がブチ切れて、火音に飛びかかった。



 まさか一言も発さず飛びかかられるとは思っていなかった火音はギョッとして月火を庇い、水月に殴られ蹴られた。













 バチンと、盛大に誰かが誰かを叩く音が聞こえた。



「何?」

「月火の部屋からだな」

「火音様だ!」

「え絶対違う」



 炎夏と玄智は火光と結月と麦を連れて、月火の部屋に向かった。




 月火の怒鳴り声が聞こえ、いよいよ何事だと思っていると、目的の部屋前には晦三姉妹もいた。

 多忙な知衣(ちい)も、今回は重傷者が出る可能性が高いので付き添っている。





「晦先生何事?」

「火光先生……!」

「あおい真ん中! あれ止めろ!」



 聞いた玄智は無視され、三姉妹と、三姉妹の奥にいた教師陣は火光を見てほっとした。



 部屋の中を見ると、月火に叩かれたであろう水月と、奥でぐったり黒葉にもたれている火音、火音に襲いかかろうとして月火に服を掴まれている廻醒と、部屋の隅でスマホを見ている緋紗寧。


 火音の頬と反対側の首は青紫に腫れ、手当てされていない。





「何してんの水月ッ!」

「僕!?」

「お前ほッ……!」

「ねぇ兄さんそれよりこっちどうにかしてッ! 誰も助けてくれないの!」



 月火が身体強化を使って必死に引っ張り止めていた猛獣を、火光は片手で掴むと足を払ってうつ伏せに倒し、背中を一度強く踏み付けた。



 ホッとしたのも束の間、水月が飛び出したので反射的に腹を殴ってしまった。



「あヤべやりすぎた」



 そう言ってうずくまった水月の横腹を蹴り飛ばし、廻醒の頭も蹴った。



「火音に関わんなっつってんだろうが」

「火音さん……!」

「どうしたの月火」

「水月兄さんが火音さん殴って蹴ったんです」

「はーん、月火庇って直撃したのね」



 狐と雷神が揃って守ったので脳への影響はなさそうだが、相当痛いようで、触ったらすぐに逃げてしまう。


 晦たちは廻醒と水月の手当てに行き、部屋は一瞬でカオスと化した。




「綾奈さん、顔に貼れるのありますか」

知紗(ちさ)

「持ってきてますよー!」



 皆が入口を見ると、救急セットを掲げた赤城が登場した。



「火音さん怪我しててもイケメンですね!」

「喋らせんな顔面蹴るぞ」

「喋らなくてもいいですよ、そんなことのために」



 赤城は部屋にそれを広げ、救急箱を開けると月火に消毒液と湿布と、口内に塗る薬を渡した。




 頬と首を手当てするが、火音は顔をしかめて痛みを我慢する。



「折れてる気する……」

「大丈夫ですよ、三十分後には治ってるので」

「雷神が守ったんに……」

「特級の殴りをもろですから……」




 月火が火音の頭を撫でるのを横目に、火光は座って晦に手当てされている水月の肩を蹴った。


 蹴り倒して、上に座る。



「火光先生……!」

「これはいいよ。どうせ管狐が守ってるから」

「でも……!」

「いいよ。内臓飛ばす予定もないし」

「かこー……」



 火光は水月にスマホの画面を見せ、音量を皆に聞こえる程度上げた。



 水月はそのノイズに顔をしかめて、しかし、次の瞬間聞こえてきた自らの声に目を丸くした。




『へー、兄弟揃って馬鹿だね。火光が似なくてよかったよ』

『誰に言ってもブチギレるよそのセリフ』

『火光以外には言わないけど。火音が緋紗寧並に馬鹿なら月火から引っぺがせるのに』

『妹に干渉するのやめな? もう高校生だよ』

『死んでも妹だよ?』

『僕なら殺すね。キモいもん』

『火音にはしなかったくせに!』

『水月が火音みたいにまともならどれだけ楽だったか』

『あれがまともみたいな言い方やめてよ』

『お前こそまともじゃねぇよ』




 水月は顔面真っ青になって耳を塞いで顔を逸らしたが、火光は両腕を片手で拘束するとシークバーを少し送った。




 今度は、水月と緋紗寧の声が聞こえる。



『ねー見て可愛くない』

『クソガキに興味ないんだよね』

『感性がバグってるんだね』

『バグってんのはお前の頭だろ』

『ねーロリに会いたい! ロリちゃんとこ行こう!』

『人の妹をロリロリ言うのやめてくれる?』

『え無理。火音君と同じ部屋なんでしょ? からかうついでに見に行こ』

『ついでに月火貰お』

『あの二人仲良いよねぇ。義妹にでもなんないかな。あなったらいびるかも、まいっか。俺が見れるならなんでもいいや』

『ねちょっと黙ってよ、口割くよ』

『きゃー怖い!……痛ったッ! マジで殴る馬鹿いる!?』

『馬鹿って言うな馬鹿はお前だ馬鹿ッ!』

『お前だよクズッ!』

『黙れロリコン!』

『シスコンがわめくなッ! 告訴立て込んでるくせに!』

『されてねぇよ馬鹿じゃねぇから!』

『社会的地位がある人間は権力で黙らせられるからいいよね』





 火光は録画を止めると、水月を見下ろした。




 放心状態だった水月はハッとすると、少し硬直してから緋紗寧を睨んだ。



「ねぇッなんで撮ってんの!?」

「馬鹿は馬鹿なりに脳があるんだよ馬鹿」



 緋紗寧は立ち上がると、立てた人差し指を頬に当て、人を見下す満面の笑みを浮かべた。



「プログラミングって分かるかなぁ馬鹿。バクグラで永遠に録画回るアプリ作ってんの。不倫の証拠とかに使えるやつね。ドジだからさ〜、昼間っから回しっぱだったみたい。バッテリー死んだけど、お前に一泡吹かせられるのはいいね。次からもいい証拠ちょうだいね、馬鹿」




 水月は泡を吹いて失神し、火光はそれを見下ろすと小さく舌打ちをして立ち上がった。



 もうちょっと懲らしめたかったけど、いいや。




 今度は廻醒の方にも移動し、綾奈と知衣がサッと逃げたので上に座った。




「やぁ後輩」

「はい……」

「お前関係ないよね」

「だってツキちゃんに手出されて困んの俺ですし……」

「月火はお前の彼女か嫁か所有物か? 何困るって。百歩譲って一番付き合いが長いとしてそれ月火になんか言ってんの? お前が一人で有頂天になってアホ晒してんならやめてよ。あんだけ好き好き言ってなんも言われてないならさっさと諦めろよ。十歳近く歳離れて片想いで泣き叫んで、ただでさえアホ面なのにさらに馬鹿に見える。やめな?」

「せんせーオーバーキルだよ」

「綺麗に死ねると思うなよ」



 火光は立ち上がると、水月の頬を叩いて起こし、廻醒とともに月火を膝に座らせる火音の前に並ばせた。



「謝れ愚兄と脈なし。反省して謝って二度と月火と火音に迷惑かけんな」

「開き直るに五千」

「泣き付くに万」



 炎夏と玄智が瞬間賭けて、しかしそんなことは知らない水月は項垂れたかと思えばキリッと顔を上げた。




「首へし折らなかっただけ感謝してほしい。明日の特級で当てるからね」

「言ってしまえば二度とツキちゃんに関わらんでほしいと思ってるしさっさと野垂れ死んでもいいとさえ思ってる」



 水月とは違って顔を逸らしながらそう呟いた廻醒に、火光が呆れる前に月火が立ち上がった。



 廻醒と水月を引きずって、部屋から叩き出す。




「二度と私に近付くな愚鈍共。気色悪い言葉吐き連ねやがって、次私に話しかけたらその口割いて内耳抉り取るからな」



 そう言って、月火はピシャッと襖を閉めた。

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